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まんが業界について教えよう-まんが界の教科書を作るお仕事

掲載日:2008.12.26

まんが界の教科書を作るお仕事

まんが界の教科書の、メイキングの裏側に迫る!
2008年12月26日に、世界的にも稀な巨大コンテンツ産業に成長したまんが産業の歴史と仕組みを解析するまんが界の教科書が電子書籍としてeBookJapanから販売されました。
まんが界の入門書『まんが王国の興亡 ―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』を企画制作した株式会社イーブックイニシアティブジャパンのプロデューサー鈴木秀生さんに、企画が生まれた経緯から、編集過程におけるウラ話などを伺いました。

株式会社イーブックイニシアティブジャパン
新規編集グループ プロデューサー 鈴木秀生
東京都出身。1996年、大学卒業後、出版取次会社に入社し、本やメディア商品に関する販促・商品企画や新規サービス・新規事業やアライアンス事業などを8年間担当。
2004年、電子書籍配信ベンチャー企業の株式会社イーブックイニシアティブジャパンに入社。 電子書籍や電子コミックに関する新規事業や新規プロジェクトを担当。 現在は、海外読者向け電子書籍サイト開発事業を担当する傍ら、日本の出版文化・漫画文化を国内外の読者に紹介する電子書籍やWEBコンテンツの企画プロデュースを中心に活動中。
最近、読んでる漫画は『太陽の黙示録』『PLUTO』『イキガミ』など。

■作品紹介
『まんが王国の興亡―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』
価格:525円(税込)
まんが業界の最新トピックや裏話、将来展望を中心に国内外の最新動向を盛り込んだまんが界の入門編教科書がeBookでついに登場。
世界屈指の読書人口と描き手層を誇るまんが王国日本の歴史と未来予想図を、休刊が相次ぐまんが誌の興亡史を中心にすえて展望する。
まんが出版だけでなく、コミケなどの2次創作市場、キャラクタービジネス、メディアミックスなどコンテンツビジネス全般の市場動向・課題を分析しつつ、デジタルコミックや世界展開、大学のマンガ教育、政府のコンテンツ振興施策といった官民による今世紀構想をからめてズバリ解析!
国内外のまんがファンが日本のまんが界、まんが文化をより深く知るためのマンガナビeBook。

まんが界初の教科書

―― 『まんが王国の興亡 ―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』はどういった経緯で生まれたのですか?

仕事で出版物に関する新規事業や新規サービス開発を始めて10年以上になるのですが、プロジェクトでアライアンスを組む提携先企業の方々にもまんが好きが非常に多い。特にネット業界には少年ジャンプを読んで育った世代がとても多い気がします。まんが好きだからこそ電子書籍という未知のプロジェクトにチャレンジしたいという話を飲み屋でもよく聞きます。
ところが、出版取次会社にいた経験から言うと、まんがを含む出版業界というのは非常に古くて狭い閉鎖的な世界。業界以外の異業種ビジネスマンからするとすごくわかりづらい世界です。基本的な業界の仕組みや商慣習については説明するのですが、1人1人の求めるレベルや質問内容も違うし毎回答えるのはけっこう大変です。
なので、異業種の方や出版やまんがの仕事を志す学生のガイドラインになるような本を出版業界の誰かが企画して作ってくれないかなとずっと思っていました。

―― 著者は、当連載にも1年前に登場いただいたまんが研究者の中野さんですよね。

ええ。2008年度の日本漫画家協会特別賞を受賞されたまんがアナリストの第一人者の方です。
作品論や表現論についての本は多いのですが、きちんとした数値分析やフィールドワークに基づくまんが産業研究の本はおそらく中野さんしか書けないでしょう。
最近、急増している大学のまんが学科の教授や学生の方に仕事でいろいろ会ってみて、休刊ラッシュや大手まんが出版社同士が手を組んだコラボ企画を連発するなど変化が激しい最近の漫画産業に興味をもつ若い人にもわかりやすい入門書があったらいいなと。
その書き手はまんがアナリストの中野さんしかいないだろう、ということで、08年の春にメルマガ連載をお願いしました。

―― 連載時の反応はどうだったんでしょうか?

特に宣伝もしていなかったのですが、アルファブロガーのブログに紹介いただいたりして、過去のバックナンバーもまとめて読みたいという反応がけっこうあり、バックナンバーをサイトに掲載したところ、国内だけでなく海外のまんが好きも読みに来ていました。
余談ですが、世界の半分ぐらいの国からアクセスがありましたが、北朝鮮とアフリカ大陸からは1人もアクセスがありません(笑)。
国内外の読者からの反応が良かったこともあり、連載がたまってきたので教科書風の入門書として1冊にまとめてみようと。

―― まんが学の教科書を紙の書籍ではなく、先に電子書籍で出す理由はなんでしょうか?

世界的な環境保護の動きの中で日本は依然として世界有数の紙資源消費国です。日本の出版や新聞業界は世界のエコトレンドに逆行していますよね。書籍だけで年間6万点以上出版されていますが、そのうち約4割前後は書店から返品されて読者に届いていない。普通に考えると紙がもったいですよね。
著者の中野さんが本書に書いていますが、紙の良さを否定するわけではなくデジタルでできることはデジタルでやってみてもよいんじゃないかなと思いました。
今のほとんどの学生は、教室で辞書でなく電子辞書で調べるそうです。中国やインドなんかを見る限り、教科書についても内容改定時にすぐ更新できる電子書籍で制作・配信する流れになっていくんじゃないでしょうか。
最近、東京都が作成したアニメ界の教科書は1万円以上するらしいですが、まんが界の教科書は電子書籍なのでワンコイン500円とお買い得です。

少年ジャンプ黄金期に育った読者に捧げたい

―― 特にどんな読者層を想定していますか?

漫画産業というと、硬いイメージがあるのでふだんビジネス書や専門書を読まないふつうの学生でもとっつきやすいような内容にしたかったんですね。
一般のまんが読者が興味をひくような最近の話題や『ハガレン』や『ドラゴンボール』といった誰もが知ってるメジャー作品のエピソードからまんが史の変遷をたどっていく、というスタイルの本にしようということで著者の中野さんとも一致しました。
初心者がわかりやすいように、イラストやカラフルな市場データも収録していますし、文字もかなり大きいです。

そして、業界本では無視されがちですが、出版社や漫画家のことだけではなく、まんがを支えている膨大な数の読者とアマチュアの描き手の歴史についても触れていこうということでコミケ史やWEBコミック等についても中野さんがきちんとまとめられています。マンガナビユーザーの方はまさにストライクなので、ぜひ読んでもらいたいです。
映画やアニメになったまんがのエピソードが盛りだくさんなので、世代的には少年ジャンプやマガジン、サンデーなどまんが誌を読んで育った読者には面白い教科書なんじゃないかと思っています。

―― 編集するにあたってこだわった点はありますか?

自分も新規事業を担当していることもあり、ビジネスマンがデジタル事業や海外事業における社内プレゼンや対外交渉時に実際に役立つ基本的な市場データや図表を盛り込みました。出版業界に関して言うと、会社内でもモデルやルールが確立されてないデジタル化や国際展開の仕事は、若手ビジネスマンが上のひとから丸投げされることが多いはずなので(笑)。
まんがに関する仕事やビジネスを始める際の、ジョジョのスタンドやドラゴンボールのような存在の1冊になってくれればいいなと願っています。

―― 苦労した点は?

電子書籍で教科書を作るのは、初めてのことだったので原稿や図表、データのレイアウト制作が大変でしたね。紙の編集とも違うしサイトやブログ編集ともまた違う。
まんがは大好きだけど、まんが界には詳しくないという普通の読者が理解しやすい入門書にしつつ、市場データや記述内容などの情報を毎年更新できるような構成にしました。
社内スタッフも年末進行で火を吹いている中で、初物ということで面白がってチャレンジしてくれたみたいで嬉しかったですね。

しかし、一番苦労されてるのは著者の中野さんでしょう。 今回の本の資料作成にあたってまんが産業のデータは本当に整備されていないのを実感しましたね。出版科学研究所と日本雑誌協会に全般的なデータがあるぐらいでしょうか。
歴史が浅い新ビジネスの電子書籍やデジタルコンテンツ産業にもすでにきちんとした白書があるのに比べ、歴史も長く影響力も大きいまんが産業にまんが白書がないのは不思議です。
まんが誌が売れなくなって単行本も低迷気味という基本データはありますが、その打開案を検討するための細かいデータが蓄積・整備されていない状態なので、マーケティングもかなり難しいのかもしれませんね。

少年まんが誌はハリー・ポッターになぜ負けたのか?

本書のタイトル候補のひとつは『まんが雑誌なんていらない?』でした。
多品種少部数が特徴の書籍販売に比べて、大部数をさばく雑誌販売はマーケティングが重要なので、まんが誌が読まれなくなってきた理由は読者ニーズを吸い上げるマーケティングに対する認識の薄さにもあるんじゃないのかなと。
増加し続けたまんが誌の販売金額が3000億円台を下回ったのは、ハリー・ポッターが日本上陸した90年代末の出来事です。データ推移を見る限り、まんが誌はハリー・ポッターシリーズに若い読者をごそっと奪われてしまったような感じがします。作品の力や読者のライフスタイルの変化というだけでなく、ハリポタやディズニー、SWなど世界的コンテンツを持つグローバル企業のマーケティング力が国内出版市場も席巻しはじめたともいえるんじゃないでしょうか。
本書で中野さんは、出版界の多くを占める悲観論に流されるのではなく、デジタル化や国際化によるまんがの未来についての可能性とそのために必要な人材論と環境論について正確に書いていらっしゃいます。結果として、まんが産業の過去と現在を客観的にとらえて未来を考えるための入門書になったと思います。
この本の送り手としては、正確な情報を必要とする読者の方にネットを通じて気軽に読んでいただければ嬉しいですね。

発売記念特集
https://www.ebookjapan.jp/shop/special/page.asp?special_id=itv003
CM動画『まんが王国の興亡 ―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』
https://cmizer.com/movie/3826

著者の中野晴行さんからの一言

中野晴行
1954年生まれ。マンガ研究者、編集者、ノンフィクションライター。
和歌山大学経済学部を卒業し、7年間の銀行勤務の後、編集プロダクションを設立。小学生時代に手塚マンガに出会い、大学までマンガ家を志望。大学時代は「COM」「ガロ」等にも投稿していた。著書に『マンガ産業論』(筑摩書房)『手塚治虫と路地裏のマンガたち』(筑摩書房)、『そうだったのか手塚治虫』(祥伝社新書)など。2007年2月に上梓された『謎のマンガ家・酒井七馬伝』(筑摩書房)も、マンガ史上の空白を埋める新事実を掘り起こす労作として注目を集めている。現在、京都精華大学マンガ学部客員教授。社団法人日本漫画家協会会員。2008年、一連の漫画産業研究に対して第37回日本漫画家協会賞特別賞受賞。

2008年8月に、京都精華大学マンガ学部の夏季集中授業として「マンガ産業論」の講義を4日間行いました。大学の授業としては本邦初の「マンガ産業論」のはずです。
この本の構成は概ねこの講義のレジュメをベースにしています。まんがのさまざまな現象を取り扱い、読者の素朴な疑問に答えられればいいな、という気持ちで書きました。
また、まんが産業を全体として見たときに欠かすことができないキャラクタービジネスの状況についても加えました。
5年前に書いた『マンガ産業論』では、まんがをひとつの産業として捉え、まんがの消費者という存在を強く意識しながら、その発展史を再構築してみたのですが、本書ではさらに踏み込んで、マーケティングという視点からまんがの現状と将来について俯瞰的にまとめつつ、よりわかりやすく書いています。

まんが出版の状態は決してよくないので、まんがってもうダメなんじゃないの、と言う声をあちこちで聞きます。
私はいつも「そりゃあ、少年ジャンプが600万部だった頃よりはうんと悪いけど、僕らが子どもの頃に比べるとずっと売れているんだよ。株だってバブル景気の頃よりはるかに安くなったけど、今じゃこれが当たり前になっているじゃない。適正なところに戻っただけで、まんがも一緒だよ」と答えています。
ものは見方で変わります。円柱は上から見ると円だが、横から見ると四角だ。両方から見てはじめて円柱だとわかる。まんがに関しても、ある方向からだけ見ていると「悪い」のだけど、別の方向から見ると「良く」なって、実はまったく別の状態なのかもしれない。
今のまんがやアニメの世界ではどんなことが起きているのだろうか。そこにはどういう意味があるのだろうか。どうすればいのか、を見る角度を変えながら、みなさんと一緒に考えてみるのがこの本の目的です。

本書では「私はこう考える」「私はこう思う」という表現がやたらと出てきます。「中野はそう考えるかもしれないが、俺はちょっと違うな」とか「私はこう思うんだけど」みたいな声を期待しています。みなさんが、まんがやアニメに係わるビジネス、つまり「まんが産業」のことを考えるきっかけにしてほしい、ということ。 この本は、まんが産業をいろいろな目で見るための入り口なのです。

中野晴行さんの過去のインタビュー記事はこちら


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