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マンガ専門ニュースサイト編集長というお仕事-「コミックナタリー」その3-「のだめ」を読むようなOLさんに見てほしい

掲載日:2009.06.07

「のだめ」を読むようなOLさんに見てほしい

3回に渡ってお届けする、コミックナタリー編集長唐木元さんへのインタビュー。
最終回は、企業としてコミックナタリーを運営する上で欠かすことの出来ないのビジネスモデルについて、そしてビジネスだけでは割り切れない、マンガへの熱いを伺いました。

【インタビューイ】
コミックナタリー編集長
唐木 元さん

【インタビュアー】
マンガナビ運営
株式会社ファンタジスタ代表
栗原 弘樹

サイトをやってみてすぐわかったんですが、エロの集客力というのは、ものすごいものがあるんです。パンチラの表紙を載せただけで、ページビューが跳ね上がる。でもウチはそこに手を出せないんですね。なぜかといえば、コミックナタリーは『のだめ(カンタービレ)』を読むような普通のOLさんに見てほしいと思ってるんです。OLさんが開いて、トップページにオッパイ、おパンツでは速攻でアウトですよ。
それにウチは会員を募ってるじゃないですか。その会員に年齢制限を設けてないので、道義上R18みたいな記事は載せることができないという側面もある。
付け加えれば、ボク自身が成人漫画が得意じゃないので、載せられないのと載せたくないのと、両方ですね。グラビアは大好きなんですけど(笑)。

―― 「マンガナビ」もそうですけど、今広告が取れないじゃないですか。
たまに広告の話が来てもみんなアダルト系だったりすると、正直少し考えちゃいますよね。
「今、この広告載っけたら楽だよなぁ」って(笑)。
ウチも「マンガ読もっ!」のSNSで「成人向け作品の掲載はNG」と言っているのに、ここで掲載するわけにいかないだろうってことでみんな断ってます。

ウチも断ってます。すごいやせ我慢ですよ(笑)。
そもそもウチは収益モデルなんて無いですからね。

―― その収益モデルって今後どうしていくんですか?

できることといったら、ひとつはニュース配信ですね。日々のニュース記事を月いくらかで売る。
これは(音楽の)ナタリーで主軸となっている収益源で、コミックナタリーも「ライブドア」さんへの配信をもう始めています。あと「モバゲータウン」さんが決まっていて、他にもいくつか商談中で。
音楽のナタリーは19社に配信してるんですよ。こういう配信先が10社くらいあれば、とりあえず人件費くらいは出るぞと。
これにプラスしてタイアップとバナー広告が少しでも入れば、トントンまではもってけるかなって感じなんですけど。

―― 多分マンガのサイトで収益が取れているところって皆無だと思うんですよ。

でもゼロベースまではいけると思います。大もうけは絶対無理だけど(笑)。

―― いや、大もうけして欲しいなと思うんですけど(笑)。

ないでしょ(笑)。ただ、こないだはじめてのタイアップ記事が決まったんですよ。これがいい導入事例となって、よそでも「あ、こういうのが出来るならウチも」と言ってくれるようになったら、ちょっといいなと思ってるんです。
話変わりますけど、ボクらがやってることって『ぱふ』と変わらないんですよ。でも『ぱふ』ってあんまり知られてないじゃないですか。

―― いい本ですよね。実はこの分野のナンバーワンだったりしますね。

あのコネクションと情報収集力があったらウチなんかひとたまりもないですよ。
ナンバーワンだしオンリーワンですよね。インタビューの質も高いですし。

―― ただ、今は広告や表紙にBL色が強くてちょっと手を出しにくい。
あれが例えば『ダ・ヴィンチ』みたいな売り方をしていったらすごいだろうなって思うんですが。

『ぱふ』編集部の人たちの"マンガを知ってるっぷり"っていったら真似できないですよ。
あれは本当のプロですよ。もっと売れていい。もったいないですよね。
だからボクらがやっていることはぱふさんの真似事というか、「日刊ぱふ」なんですよ。ただそこにナタリーなりのスパイスをふりかけてはいますけど。
ボクらがこの先に練度をあげて、『ぱふ』のクオリティを身につけることができたらかなりの存在感を示せるようになると思うんですけどね。

「おすすめ」を持たずにただただ情報の数を出し続ける

―― 今のニュース配信のほかに、今後追加してこうと考えているものってありますか?

ひとつはさっき言ったタイアップ記事ですよね。作者インタビューが中心になると思うんですけど、面白い読み物を追加していきたいと思ってます。それと連載コラムをやってみたいなと思ってます。有名人に書いてもらおうと思うんですけど。
なぜかというと「コミックナタリーのおすすめ」というのを持ちたくないんですよ。
例えば音楽雑誌だと、編集部のいまイチオシのバンド、というのが押し出されたりするんですけど、ボクらはそれにアンチテーゼを唱えていて、ナタリーのイチオシというのは無いんですよね。
実は当初、ボクはナタリーもイチオシを持つべきじゃないかと主張していたんですよ。僕がこの会社に参加した頃だと、例えばPerfumeがメジャーなフィールドに浮上した時期で、だったらPerfumeを大フィーチャーしようよ、と。
ところが(代表の)大山は、それは違う、それは古い雑誌のやりかただ、と言うんです。最初は意味がわからなかったけど、だんだん言ってることが飲み込めてきた。イチオシを持たないで、フラットな立場でただただ情報の数を出し続けるというやりかたが大山の手法なんです。
そうするとどういうことが起きるかというと、例えば今、X-JAPANのファンの間で、ナタリーはX-JAPAN情報に強いサイトだという声が聞こえてきます。ハロプロ系のファンの間でも、ナタリーはハロプロ情報に強いサイトだと思われてる。下北的なギターロックが好きな人は、ナタリーは下北インディーに強いサイトだと思ってくれてるし、もちろんPerfumeファンはPerfumeに強いサイトだと思ってくれてる。
でもこれは全部幻想で、ボクらはどれかに偏重しないでただ数を出しているだけなんです。
例えばPerfumeをイチオシに据えたら、Perfumeの人気が落ちたとき媒体力も下がってしまうけど、各ジャンルで勝手に「ナタリーってこのジャンルに力を入れているサイトだ」っていう幻想が育っていれば、大きく凹むこともないわけです。
だからコミックでも、今コミックナタリー編集部のイチオシはこれ!っていうのは出さないつもりでいるんですよね。それをやるなら、例えばタレントさんが連載コラムで言ってるくらいで留めておきたいと思ってます。
あと、もうひとつはランキングをやりたいんですよね。マンガ界にはまだ音楽のオリコンに当たるランキングがないんですよ。
「トーハン調べ」とか「TSUTAYA調べ」とか「有隣堂調べ」という個別のランキングはあるんですけど、オリコンみたいな「ようわからんけどとにかくこれがスタンダードです!」っていう総合ランキングって無い。その座が空いてるんなら、ほしいんですよね。
やっぱり何かでスタンダードを取らないと会社って続かないじゃないですか。

―― 出来ればあまり人力を使わない、労働集約型じゃないところでそういうのが欲しいですよね。

いやー、ウチなんか超労働集約型ですよ(笑)。
だってこの規模の会社で売上も大して無いのに、(スタッフが)18人ですよ。
また、ボクらバカだからすぐ採用しちゃうんですよ(笑)。

―― 1年でどれくらい増えてるんですか?

今年度で8人増えてます。
ナタリーの作業は、やろうと思えばSOHO(スモールオフィス/ホームオフィス)だって出来るんです。もっと言えば、経営以外はぜんぶアウトソーシングでもいい。そのほうが絶対効率的ですよ。ただ、みんなで「今日、昼メシどこ行く?」とか、「今週のチャンピオンやばいよね」とか、そういうのが大事なんです。そういうところに価値を置いている...から会社が大変なのか(笑)。
でも、ウチの会社はみんなが天職だって言ってくれて、「会社がこんなに面白くて、毎日来たくなるのは初めてだ」って言ってくれるし、そういう場所って必要なのかなって。

「ビジネスモデルは?」「...無いです。」

―― マンガのサイトをやろうとする企業って、最初から儲かると思って入ってくると、多分儲からずにすぐ撤退すると思うんですよ。ウチのユーザさんにも「こういうサイトって儲からないですよね?」って心配されるてますが。
それでボクもよく言うんですけど、こういうサイトをやるのは、よほど腹を括っているか、よほど経営センスがないかのどちらかで、ウチの場合はその両方だって(笑)

わかります。
コミックナタリーをはじめる時に簡単な記者会見をやったんですけど、そこで「ビジネスモデルは?」って聞かれるわけですよ。
そんなのあるわけ無いですよ。儲かる道筋があったらみんなやってるはずで。
だから「...無いです。あなた思いついたら教えてもらえますか?」って正直に答えたんですけど、あとでその記者の人に「無鉄砲すぎる」って説教されました(笑)。

―― マンガの業界自体が下がっているのに、そこに一発逆転みたいなビジネスモデルはそうそう転がって無いですよね。だから大儲けできるとは思ってないけど、クリエイターに活躍の場を提供するというのが会社の信念だからやるんだって言うしかないんですよね。

ボクらも、結局はコミックナタリーを通じて知らなかった面白いマンガと出合うことが出来て、それで人生が楽しくなってくれればいい。なにより僕が面白いマンガと出会っていたいし。
ただ、もうちょっとメジャーなグラウンドへは行きたいですね。

―― 具体例ってありますか?

例えばテレビで5分でもいいから、「今週のコミックナタリーの記事から面白いのをピックアップ」であったり、「王様のブランチ」みたいなところに今週のマンガニュースみたいなコーナーができて、そこに情報提供するとか。

―― 「王様のブランチ」なんかは狙っているユーザ層にぴったりですよね。

結局、ヒットしたマンガって普段マンガを読まない層が買うからヒットするわけじゃないですか。
その人たちを軽視して良いわけが無いんですよね。その人たちを客として取り込まないと、沈んでいくだけですから。

―― 人気のあるマンガのサイトって、ニッチな層向けのものばかりなんですよね。マンガの作り手が本当に情報を届けたい人たちには全然届いていないということなんだと思いますが。

例えば「大手小町」とか「mixi」なんかに、一般的なネットのお客さんっていっぱいいるわけじゃないですか。そこに対してリーチしたいんです。だから、コミックナタリーがサブカルメディアだと思われるのが一番イヤですね。
だいたい世の中の人は合コンの一晩には1万円くらい平気で使うくせに、マンガに月1万円を払う人ってすごく少ないんですよ。
だから、せめて千円でいいので「コミックナタリーのせいで、今月千円余計にマンガに使っちゃったよ」って言ってくれる人が10万人作れれば、それが一番なんですよ。
ボクらは、何かを生み出しているわけではなくてネタを拾ってきて記事にして出しているだけのメディアだから、マンガ界が潰れてしまったらおしまいですよ。だいたい僕が面白い新作マンガに出会えなくなるわけじゃないですか。それは困る。
だからマンガ界の為にも、今まで10冊買っていた人なら11冊、0冊だった人は1冊、とにかく「1冊多く買っちゃったよ」っていう呼び水になるメディアになりたいんですよね。
そうやって、ボクたちがニュースに出すとみんながそれに乗せられて買ってしまう、それが業界にも認められれば、ニュースソースだって集まってくると思うし、ボクたちの立ち位置も認められると思うんですよ。もちろんボクたちのビジネス的にもうまくいくと思うし。
そそのかすわけじゃないですけど、面白いマンガの存在を出していくことで、「コミックナタリーで見て買っちゃったよ」、「コミックナタリーが言ってたから『ちはやふる』読んだよ!良かったよ!」って...これはウチの社長が言ってて(笑)そういう風に言ってもらえれば。

―― ボクが言えたことでも無いんですけど、今のマンガサイトのあり方はちょっと健全じゃないなという感じがしています。出版社のサイトが点在していて、一般のマンガファンのサイトが点在していて、それぞれ繋がるところが何も無いという感じで。
自分としても、今までネットで調べるのって音楽関係の情報なんかが多くて、マンガについてはニーズに応えてくれる場所って無かったんですよね。

それがなんでだろうと考えたことがあるんですが、音楽、アニメ、ゲーム業界には企業がやっている情報サイトが一杯あるじゃないですか。あれは90年代末に、紙の情報誌のオフィシャルWebとして立ち上げられたところが多くて、それが今も残っているんですよ。たとえば『ファミ通.com』『電撃オンライン』『Bounce』『CDジャーナル』『NewTypeチャンネル』みたいな。
ところが、マンガ情報誌ってぱふ以外ないじゃないですか。マンガ自体が紙メディアであるがゆえに、紙の情報媒体が育たなかった。だから雑誌媒体を母体にしたWeb媒体も生まれなかったんじゃないか、というのが僕の推論ですね。
だから、そこに席が空いているのを見つけて、ボクらが飛び込んできたというのもあるんですけど。

―― そういう意味ではコミックナタリーに頑張ってもらうしかないと思ってます。

がんばりますよ。とりあえず10年続けたいですよね。ベンツもマンションもいらないから(笑)

―― そうですね。続けたいですよね。自分もサイトをやっていて、ゆっくりとでも進み続けていれば、何か色々なことが起こるというのは実感できているし。それが成功に繋がるかはさておき。

何より、マンガ業界が縮小して、面白いマンガが減ってしまったら僕が困るわけですよ。私利私欲でやっているという面があるとしたら、何よりそれが一番ですね。

―― そうそう。マンガがないと自分の人生が無かったんじゃないかと思えるくらいなので、ほんのちょっとでも、0.0001%でもマンガ業界のために力になれればと思ってやっているんですけど、なかなかそれが伝わらないのが悔しいですね。
やっぱり面白い作品を作っているところには儲けてもらいたいし、面白い作品を描いている作家さんにはそれをいろんな人に読んでもらって、ちゃんとした収益をあげられる体制を得て欲しいし。

そこはボクも同感で、マンガには世話になっているというか。勝手に世話になっているわけですけど。面白いものを与えてもらって。恩返しをしたいですよね。
これは音楽でもそうなんですけど、世の中全体で、売れるものと売れないものの乖離が激しくなっているじゃないですか。マンガにはそうなって欲しくないですね。
真ん中の部分が一番文化的に豊穣な土壌だと思うから、出来ればメガヒットがいくつか出るだけのメディアであるよりは、中間層の厚いメディアであってほしいなと。メガヒット作の情報だったらスポーツ新聞だって載せるから、僕らがやんなくてもいいし。でもそうじゃないところが着実に伸び続けるための受け皿が必要だなと思って。
それがコミックナタリーの目指すところでもあるんですよね。

編集後記

紙のメディアで培った、文章を書くスキルを武器に、ネットにおけるマンガニュースの配信という、ありそうでなかったジャンルに挑んでいるコミックナタリー。
唐木編集長のマンガ愛と、志の高さをひしひしと感じながらのインタビューは、気づけば4時間を越えるるものとなっていました。
「ビジネスモデルが無い」とのことでしたが、その姿勢に共感してくれる企業、出版社は間違いなく増え続けていくでしょう。
コミックナタリーの配信するニュースが触媒となり、マンガ業界が活性化していくことを、いちマンガファンとしても期待しています。

建物探訪

音楽ニュースサイトを運営している会社だから当たり前のように音楽好きが多いのでしょう。
DJブースがあったりして福利厚生的には最強な感じです。
また、日々ウィットに富んだ記事を生み出している編集部では皆さん、黙々と仕事をされていました。
そして、皆さん挨拶が非常に明るく爽やかでした。
最後に、ナタリーと言えば企業ページにも登場してる「木彫りの熊」。
これも見たかった!
企業紹介 - 企業情報 || Natasha, Inc. 株式会社ナターシャ!





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