クリエイターインタビュー

日本語マンガ初となるKindle向け電子書籍『青空ファインダーロック』を作家個人で出版した『大東京トイボックス』うめ の原作担当 小沢高広さんのインタビュー

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日本語マンガ初!Kindle向け電子書籍を作家個人で出版した
うめ(小沢高広)さんにインタビュー

今回のクリエーターインタビューは、日本語マンガ初となるKindle向け電子書籍『青空ファインダーロック』を作家個人で出版した うめ の原作担当 小沢高広さんのインタビューをお届けします。

『コミックバーズ』で連載中の作品『大東京トイボックス』の5巻が発売されたことを記念して進められた企画とのことですが、最近はどうしても「作家個人の出版」=「出版社とケンカ」といった図式を思い浮かべてしまうのも事実。今回の企画の真意・目的は何なのか本当のところをお聞きしました。

うめ
ちゃぶだいケンタ スペシャル版
東京トイボックス 新装版
大東京トイボックス
コミックバンチ『カミサマの地図』

実は2人組だったりする。
ゆでたまごセンセイとか、藤子不二雄センセイみたいだったり、そうじゃなかったり。

小沢高広
主にプロット、演出、料理を担当。

青空ファインダーロック
『日経エンタテインメント!』
2007年10月号に掲載された読み切り作品
主人公の剣持テツローは、カメラマンとは名ばかりでグラビア写真を修整するレタッチャー。
そんなある日、手にした写真に写っていたのは高校の同級生だった...。


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選択肢をきちんと選べる公平な状態を作りたかった

―― 日本語マンガ初となるKindle向け電子書籍『青空ファインダーロック』を出版されたきっかけを教えてください。

自分の周囲にKindleを持っている人が多かったこともあって、前からKindleにはユーザー視点での興味はあったんです。
そんなときに、大手出版社が集まって日本電子書籍出版社協会を立ち上げるというニュースを見まして、そのなかの「デジタル化で出版社が作品の二次利用ができる権利を、著作者とともに法的に持てるようにしたい」という部分が作家として引っかかったんです。Kindleだったら作家個人でも出版できるのに、なぜ二次利用の権利を法的に確保しようとするの?っていう疑問です。
もちろん、出版社を通じた電子出版にもメリットはあって、幅広い営業展開や、映像化やグッズ展開といった二次使用時の煩雑な手続の代行、万が一、裁判沙汰になった場合など法務担当の部署が代わりに対応してくれるとか、そういうメリットはあると思います。
しかし、必ずしもそういったことを全て出版社にお願いする必要はなく、選択肢の一つとして存在すればいいと思うんですよ。営業はネットを使って自分でする。二次使用や法律関係は法律事務所にお願いするといった感じで。それなのに「法的に権利を確保する」という方向にもっていかれるのは、どうしても理解できない。
マンガを世に出すっていうのは実は簡単で、要は画像データさえあれば、あとは何かしらのフォーマットに載せるだけなんです。その方法を明らかにして、パソコンでマンガを描いている作家だったら誰でもKindleで出版できるというのを明示したうえで、各作家が選択肢をきちんと選べる公平な状態を作りたかったんです。

―― 昨今、作家が自ら出版するという話になると、最初からケンカ腰で「出版社はいらない」といったスタンスでやられることも少なくありませんが、どちらかというと「新たな選択肢があるよ」という提言だったわけですね?

そうです。せっかく世界が変わりつつあるのに、旧来の出版の枠に当てはめて、うやむやのうちに「スタンダード」な雰囲気を醸成するのはやめようよという思いです。だから、最初から対立するつもりで「出版社はもういらね~」というのとは違います。
ただ、出版業界自体も大きく変わっていくなかで、マンガ流通のモデルとして出版社を通じて...っていうスタイルも変わっていくはず。その結果として、作家と出版社のつきあい方も自然と変わっていくと思います。

―― ちなみに、これまでマンガというものに対し出版社が果たしてきた役割・機能はどういったものであったと考えていますか。

一つは流通と言うか、コンテンツを世に広く知らしめるための機能ですよね。もう一つは、作家をマンガ制作に集中させるための機能。あとは新人を育てる機能ですね。
そのなかで、コンテンツを届けるということがインターネットでかなりできてしまう状況になっている。
また、同人界はもちろん、新人を育てる機能も、随分インターネットへ移ってきている。あとは大学のマンガ学部も、新人育成の場として機能するようになってきて、そこが肩代わりするようになってきましたね。
残りの作家をマンガ制作に集中させるための機能というのは、いわゆる編集者の役割になりますが、マンガ編集の場合は文芸や一般紙とは違って、作家と編集者の関係が少し特殊なんです。原作者に近い立場の編集者はシナリオを毎回、作家に提出する。ともするとネームまで描いたりする。一方で誤字脱字のチェック、誤読の可能性の指摘といった校正者に近い編集者もいる。つまり、編集と呼ばれている仕事に含まれる内容の幅が広すぎるんです。今後、この部分が専門的に分化していく気がします。また、編集という機能は出版社の中に置かれることが多いですが、これも、これまで以上に外部に出ていくんじゃないかと思います。

電子出版のノウハウを手にいれることが目的

―― これまで出版社が果たしてきた役割の代替が現れてきている現状で、作家として一番身近に存在する出版社の人間 編集者に期待していることは何ですか?

ファーストリーダーとしての機能。とにかく客観的に見てもらうのは、すごく大事です。色々な人に伝えるにはそれは絶対なくならない工程だと思います。勝手に描いて、勝手に出しましたというやり方で、多くの人に伝わるものが作れるほどあまい世界ではないので。ウチは2人組ユニットでやっているのですが、他の作家さんみたいに一人でやっている場合はなおさら重要な機能です。
あとは営業力。出版社には営業部門があって書店に対して営業を行ったり、宣伝を考えたりしているのですが、ここ10年くらい編集者が直接書店に行って営業するケースが増えています。
他には海外展開する際に法的な問題とかもクリアできるような...。
そんな感じで要望をあげていくと、それは編集者の仕事なのかという微妙な問題もあって、どちらかというとエージェントに近いですね。さきほどの分化の話とは矛盾するようですが(笑)。
ただ、原作者に近いような役割をしている編集者は原案とか原作って名乗ったほうがいいと思います。浦沢直樹さんと長崎尚志さんの関係のように。
すごく極端な話ですけど、新人作家でまだ編集者に対して自分の意見を強く主張できないという立場のときに、ネームのコマ割りからセリフまでの全てに修正指示を入れられて、完璧にこの通りに描けって言われることがあります。場合によっては、原稿を渡した後に勝手に直されてしまうことも...。それで作品が良くなる場合もありますが、読者に対して名前を出して矢面に立っているのは作家です。そこで誹謗中傷を受けると非常にツラい。編集誰々って作品にクレジット入れて名乗って欲しいという気持ちはありますね。
今でもIKKIやコミックバンチなど、いくつか担当編集者名を併記しているところはありますよね。あれは好きで。僕は編集者の名前も見ています。この編集者の関わる作品は好みだとか、この編集者と仕事したいなとか。
音楽制作のプロデューサーだと小林武史かっこいい、亀田誠治ステキとかってあるじゃないですか。そういう感じで編集者の名前がブランドになる時代が来ると思っています。SFだったらこの編集者と組みたいとか、学園物だったらこの編集者と組みたいっていう感じで、作品ごとに編集者を切り替えていくやり方も考えられる。それも期待していますね。

―― 結局、編集者の役割があまりにも広範に渡っていて、曖昧なまま今日に至ったと。でも、その構造が少しずつ崩壊してきているということですか?

そうですね。でも、曖昧のほうが良かった時代が続いていたんだと思うんですよ。変にキッチリしないほうが。でも、Kindleはよく黒船に例えられますが、そこを見直さなきゃ...っていうことなんだと思います。

―― その一方で、例えばKindleなどの電子書籍は印税率が高いこともあって、作家の紙媒体からの流出など、マンガを取り巻く環境が多少混乱している部分もありますよね?その辺りはどういう風に考えていますか?

現状のデバイスの普及台数では「自分で出すぜ!」っていう風に言ってしまうと、ほとんどの作家の場合、収入面ではマイナスになる思います。描き下ろしだと原稿料が発生しないので収入は減るはずです。それはKindleで印税率が7割になっても同じだと思います。
ただ、絶版になっている作品については、そのまま絶版にしておくよりも、自分で出版することで微々たるものだとは思いますが収入面でのメリットがあるかもしれません。
でも、収入云々っていうのは、今回のKindleで出版するという件に関しては個人的にはモチベーションにはなっていません。今回は、とにかく電子出版のノウハウを手にいれることが目的。ただ眠っていた作品を世に出すことで、結果として「面白かった」と感想をいただけたのは、とてもうれしかったです。

読み切り一本としては高すぎましたね

―― Kindleでの販売価格が高すぎると、ご自身のブログに書かれていますが。

読み切り一本としては高すぎましたね。今は価格を当初の$2.99から$0.99に下げました。
今は$0.99で26ページなので、単純に単行本1冊の価格600円($6)に合わせると156ページくらいになるので、A5版のコミックスだと思えば、まあ適正な価格にはなったかなと思うのですが。ただ、最初は仕組み上その価格設定しかできなかったんです。

―― その辺りはブログにも詳しく書かれているので買う側も納得できると思います。ちなみに絶版の話が出たのですが、絶版した作品の権利はどうなっているのですか?

もちろん著作権は作家が持っています。
出版権に関しては出版契約を出版社と結びます。とはいえ、慣例になっているので、実は書いてないとか、サインをしていないとかいう場合もあるのですが...。とにかく、出版契約書というのがあって印税は何%でとか色々と書いてあります。そこに契約終了の何ヶ月前までに申し出がない場合は、自動延長するものとするという一文があるんです。つまり20年経っても、30年経っても、権利を出版社が持っていられる仕組みです。

―― なるほど。それと、うめさんの作品にもありましたが、出版社を変えてマンガが再び出版されることがありますよね。そういう場合は契約的にはどうしているのですか?

担当編集者と呼ばれる人が編集部に残っている場合はその人を、そうでない場合には窓口になってくれる別の編集者か、法務部の人をつかまえて「他の出版社で出したいんだけど...」って言えば通常は、そこで話がこじれたということはあまり聞いたことがないですね。
契約書があるとはいえ、そこはなあなあな感じです。この辺りは、ともすると口約束だけで本を出してしまうような出版社と作家の関係の良いところかもしれません(笑)。逆にこじれた場合、それを表沙汰にされると出版社にとって悪いイメージが残りますし。そんなこともあって、そこはわりとスムーズに行こうよっていう感じですね。

―― そこは曖昧のメリットですね(笑)。

はい(笑)。それこそ、曖昧云々で言うと昔は原稿料の他にも出版社から月間研究費みたいな名目でお金をいただいたりとか。資料代とか専属契約料とか色々な名目で原稿料の他にもらえましたね。人によっては10万円単位で、100万円以上の場合も。『バクマン。』でジャンプのその辺の仕組みをバラしていますけど、あれはジャンプだけではなくて、他の雑誌でも日常的に行われていたことです。今は出すところもずいぶん減りましたけど。

―― 削減されてるんですか?

削減されてますね、相当。ただ、それがないと特に新人はアシスタント代で原稿料が全部なくなっちゃうんですよ。

作家さんからの反響が圧倒的に多かった

―― また、Kindleに話を戻しますが、Kindleで作品を出してみて、反響はどうでしたか?

作家さんからの反響が圧倒的に多かったですね。編集者からは、ほとんど無かったです。
作家さんについてはウチと同じようなクラスの方から大御所まで。他にも新人の方とか、同人の方からも問い合わせがあったり、Twitterでリツイートしていただいとか。
それに対し編集者からの反応が全然なかったので怒らせたかな?って(笑)。ちょっとマズいかなとも思ったんですけど、実際会ったら「面白かったですね」って言っていただいたりして険悪な感じではなかったですね。
でも、Kindleが何かってことを分かっていない編集者もすごく多くて「Kindleってハードウェアの名前なんですか?サービスの名前なんですか?印税はどうやって支払われるんですか?」みたいな感じで。いったい何人に説明したんだろう。もういつからKindleの営業担当になったんだって感じでした。

―― ライバル企業の情報が全く伝わってないというか、Kindleの存在が是か否か以前に、Kindleって何?という状態ですか。

そうですね。編集者もそうだし、法務担当の方も詳細をまだ御存知じゃなかったりして、僭越ながら、色々とレクチャーさせていただきました。

―― あと、作家さんの立場からすると、Kindleだと見開き表示ができないので、紙媒体ではできた表現ができないといったこともあるかと思うのですが、その辺りは割り切ってやるという感じですか?

解像度の問題で実用性は乏しいですがKindleでも一応見開き表示は可能です。そういったことがあるので今回は見開きが無い作品を選びました。ただ、見開き表示に関しては単純にハードウェアの性能でクリアできる問題なので、近い将来解決すると思います。ちなみにiPadでは問題がなく見開き表示ができそうで、開発キットで試したところ十分可能でした。フキダシの外にある小さな手描き文字なんかは潰れ気味でしたが、その他の文字は普通に読めましたね。
むしろ、紙媒体の場合はページ間の閉じる部分、ノドがありますよね。あれがあるおかげで見開きの真ん中に顔を描けないんですよ。それで、普通はどちらかのページにずらして顔を描いて逃げています。だから、見開きに何人も配置するときは大変です。何でもいいのでマンガの見開きをいくつか見てください。首を不自然に傾けたり、難しいポーズをしてなんとかノドを避けてますから(笑)。それは紙媒体がマンガに与えている制約なんです。
これは電子書籍化が進めば、それこそiPadであればすぐにでも無くなる制約です。そういう意味では電子媒体に移行することで、自由になる部分もあると思います。

―― 今後もKindleで出し続けていきますか?

Kindleも出します。
それとiPadでも出したいです。

―― 電子ブック全般に対して積極的に取り組んでいきたいという感じですか?

そうですね。常に自分で出版するための技術、情報をストックしておきたいっていうのはありますね。ただ、今すぐ全面的にそちらに乗り換えるぞっていうことでもないですね。それをやって食べていけるほど儲かってはいないので(笑)。

編集後記

実は今回のインタビュー、弊社が運営する電子ブック配信サービス「mixPaper」宛に、うめさんからサービス内容に関するお問い合せをいただいたことがきっかけで実現しました。
(問い合わせをしたのに、インタビュー依頼が返ってきたと苦笑されていましたが...。)

雑誌『MacPeople』に連載を持たれていた作家さんということもあり、ITスキルの高い方というイメージがありましたが、お話を伺うと子供のころは秋葉原に通い、店頭のパソコンでプログラミングをして遊んでいたとのこと。
なるほど!だから「電子出版のノウハウを手にいれることが目的」「技術、情報をストックしておきたい」という方向に進むのかと納得。

また、これまでは作家に対し「出版社と手を組む」「出版社とケンカする」といった究極の二択のみが与えられてきたように思いますが、うめさんの言うように時代の流れとともに生まれた「新たな選択肢」の存在が明示され、それを選ぶことができる環境が整うことは、マンガ出版のさらなる発展に繋がるのではないでしょうか。
それによって一番恩恵を受けるのは面白い作品を待ち望む、マンガファンなんですよね。

iPadの発売などで電子出版の話題に事欠かない昨今、うめさんの活動は今後も要チェックだと思います!



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