マンガ家の先生の年末の過ごし方って?「飲みたくなったらベッド」

「飲みたくなったらベッド」の巻

みなさんはＵＦＯを知っていますか？

Ｕ (unidentified) ―――― 未確認
Ｆ (frying) ―――――――――― 飛行
Ｏ (object) ―――――――――― 物体

そう、この世の中には常識で計り知れない未知の存在があるのです...。

...で？

ハイ！２００９年一発目の正月ボケをかましたところで皆様いかが見過ごしでしょうか。
私は連載が終了する事からくる将来への不安と正月無家事で溜まったゴミを見過ごしています。
これから毎月四季折々の正月ボケをお送りしていきますよ！

【森下夏さん】

マンガ家の先生の年末の過ごし方ってどんな感じなのか非常に興味があります！
先生は、どんな年末を過ごされるんですか？
...絵馬とかを書かれるのでしたら描いた絵馬を見てみたいです。
マンガに関係ない質問でゴメンなさい。

あらゆる商売と同じで、漫画家の年末年始も仕事の有無、そして仕事の量によってその様相が全く違います。

●売れっ子漫画家の場合

プワーン（街の喧噪）
シャッ（ブラインドの隙間を開ける音）
ゴクッ（ブランデーが喉を通る音）
ゴロゴロゴロ（ペルシャ猫が喉を鳴らす音）

都心の一等地。深夜２時。今年最後の原稿をバイク便に手渡し、５人のアシスタントにタクシー代を与えて帰した後の事務所には心地よい静寂が訪れていた。ペリャッティ２０年物の芳醇な香りが体中の細胞で「第九」を奏でる...。

「年末進行」

この言葉は漫画家と編集者に過度の緊張と興奮をもたらす。
印刷所が年末年始休業に入る時期、通常の締め切り(もしくは締め切り超過）を破る事は雑誌に白紙ページを作ることになるため、編集者は通常より数日の締め切り前倒しを漫画家に要求し、漫画家はそれに応じるべく緊急体制を敷く――――――。
この年末進行を乗り切ることができた者だけが、正々堂々と年末年始を迎えられるのだ。

そして週刊誌連載２本とイラスト、コラム多数を抱えるこの私は年末進行の戦場を５人のアシスタントを率いて戦い抜き、今年もまた「勝者」となったのだ。

と、事務所兼仕事場である家賃月３５万のマンションのチャイムが鳴った。いつもなら原稿の催促である耳障りな電子音が、今は祝福の鐘の音に聞こえる。

「みんな帰った？」

ドアの前には熱帯に生える珍しい蘭のような姿の女が立っていた。私が買い与えたアヌンツィオ・モラーニのドレスを着たＮだ。
簡単なコラムの担当編集者でもあるＮは主にその容姿だけで採用されたような女だが、編集業の他にもきちんとその仕事をこなしていた。

「お疲れさま。それともこれからもうひと疲れする？」

「夜の湾岸が見たい」

「飲んでるでしょ？」

「運転しろ」

「...命令好きなんだから」

私とＮは地下駐車場に降り、日本に１２台しか無い私のフェラーリ６０９ケネソイオのエンジンに火を入れた。

「ねえ...おねがい。今年は私と...」

「大晦日は家族と紅白歌合戦を見ることに決めている」

「また私に猫を預けて一家団欒？」

「正月の事務所慰安旅行で会えるだろ？ハワイで待ってろ」

「いじわるっ」

５０００万円の真紅のボディに包まれつつ、光の線となって流れる街の灯を眺めながら私は思う。

この地位を、名声を、富を手に入れるため私はずっと自分で努力してきた。だからもうこれからは自分では何もしない。全てを人にやらせる。

今まで主人公だけだったペン入れだが、来年からは主人公の目だけにしよう。後は全てアシスタントにやらせる。

今までは全てを人に与えてきた。
これからは私がもらう番だ。
これが「勝者」である私へのささやかな「お年玉」なのだから...。

●連載が終了し来年の予定が立っていない漫画家の場合

... あーヒマだー ... まーどうせ実家に帰ったってやることなんか無いし他に出掛けるあても無いし ... どこにいたって変わらんけど ... 同じヒマでも温泉でヒマと小汚い自分の家でヒマじゃえらい違いかもしれん ... でも温泉でヒマになったことないから比べようが無いなー ... だれか「遊びに行こう」とか誘おうかなー ... それともだれか「遊びに行こう」とか電話くれんかなー ... でもみんな自分の予定とかがあるだろうから軽々しく電話して「ちょっと予定が」とか言われたら何もしないよりも落ち込むだろうなー ... 何にもしない方がマシかー ... でもヒマだなー ... あー奥さんが友人を誘ったからヒマが潰れるからいいやー ... 家で映画でも見れば ... あーでも人が家にいると緊張するなー ... 仕事どうなるんだろー ... 自分で企画持ち込むガッツも無いし ... とりあえず酒飲んどこ ... あーすっかり寝ちゃったー ... 緊張するとか言っといてお客さんのこと完全に忘れてたー ... まーいっかー ... 酒飲んどこ ... お礼参りとか行くんだっけ ... でもめんどくさいなー ... どうせ拝んだって状況が良くなるわけでもないし ... あー？

...で？

ハイ！！というわけで２００９年二発目の正月ボケをかました舌の根も乾かぬうちに言い訳をするところなわけですが、上記の三流ケータイ小説以下な例は完全に私の悪妄想で実在の人物とは何の関係もありません。
何が言いたいかというと、調子良い人はそれなりに、調子悪い人もそれなりな過ごし方をしているということですよ！

週刊連載を抱えていて本当に忙しい人は年末進行で必死に働いて一瞬休んで年始めからすぐさま仕事、でしょうし、月刊連載なら多少余裕はあるでしょうがその量と締め切りが月半ばか終わりかによってキツさも違うし、予定が無い人でも次のネタを考えたりそのための取材や勉強で忙しかったりするのです。

で、私は（これの掲載時には終わっていますが）１月１７日の「さるハゲロックフェスティバル'０９」の為の打ち合わせとか練習とかしてましたよ。決して上記２番目のダラダラ独白は私の心の声なんかじゃありません！断じて！！絶対！！！違いますってば！！！！

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羽生生 純（ハニュニュウ ジュン）
漫画家　１９７０年生まれ　１９９２年デビュー

代表作
『アワヤケ』　『青 －オールー－』　『恋の門』
『１ページでわかるゲーム業界』　『ワガランナァー』
『サブリーズ』　『強者大劇場』

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