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どれくらいの画力があればアシスタントになれますか?「コアラの『マーティン』(<未>ジョージ・A・ロメロ (1977) )」

掲載日:2009.02.28

「コアラの『マーティン』(<未>ジョージ・A・ロメロ (1977) )」の巻

今巷で空前の大ブームといえば動物占いですが、みなさんご存知ですか?

最初は全く興味の無かった私ですが、全国的大ブームの今を逃すことは時流に敏感でなければならぬ漫画家という職業にとって致命的なのでさっそく調べました。
その結果私の干支は......

「コアラ」!

見た目無害っぽくて動作はのろいけど近づいたら目つきが悪くて変なところから毛が生えてて爪が長くて急に怒ったりする。
しかもとても臭い......

当たってる!当たり過ぎてる!!むしろ私を元に占いを考案したかのような的中率!!!

クン...クンクン......

クサッ!!

やっぱり流行ってるモノには流行ってる理由があるのですね!!

そんなクサコアラがお送りする「絵答え」なわけですが、前回絵馬プレゼントをぶちあげたところ通常の2倍くらいの質問が来ました!(3→6)
さすが『エマ』は単行本がうんと売れたりアニメになったりするだけあってすごい作品ですね!
と無理矢理無関係な有名作品の名前を出してヒット数を稼ぎたいといういつもの姑息な手段に訴えたところで質問行きます。

【ニーナさん】

私は漫画家を目指していまして、是非アシスタントをやってみたいのですが、どれくらいの画力があればアシスタントになれますか?
あと、アシスタントをすると、その先生の影響をかなり受けちゃうらしいのですが、実際はどうなんでしょうか?

私は今までに数回くらいしかアシスタントを頼んだことが無くて詳しい事情などぜんぜん知らず、変な癖のある面白迷惑アシや自分のところをやめた途端自分よりバカ売れした出世アシなどのネタも全く持っておらんのでいきなり質問に答える権利を失ってるのですが無視して話しを進めると、まず考えなければいけないのは「なぜアシスタントをするのか?」だと思います。

現在の漫画家にとってアシスタントとは、自分の締め切りを守ってクオリティを維持しつつ作品を量産するために欠かせないポジションであり、きちんと賃金を払って労働力を得るという「職業」です。

一方、アシスタントにとってアシスタントとは、賃金を受け取り労働力を提供するという「職業」である事は当然なのですが、それ以上に「テクニックを学ぶ」「やり方を盗む」ための「修行」の場でもあるわけです。

アシスタントになる人の多くは、漫画家さん本人の募集に応募したり、雑誌に作品を持ち込んだり漫画賞に応募したりして編集者に目を付けられた人がその編集者が担当する漫画家さんの必要に応じてアシスタントを要請される、という感じだと思います。
他にも多分売れっ子漫画家さんならプロダクションとかにして雇っちゃう場合もあるかもしれません(そうなるともはやスタッフですか)。

もちろん正確な金額などありませんが、私が聞いた記憶がある範囲での相場は一般的な「一日拘束」で1万円位らしいです。
でもこれが毎日続くわけもなく、月刊誌だと締め切り1回で数日拘束とかだろうから、アルバイトとして考えるとそんなに割の良いものでもなく、もしアシスタントだけで何人かの漫画家さんのところを掛け持ちして、しかも自分の漫画を描く時間を作らなければなりません。

いずれにせよ「職業」という側面と「修行」という側面両方があります。

もっともそれは漫画アシスタントに限ったことではなく、あらゆるアシスタントというか、仕事というのは働きながら学ぶものだと思うのです。

漫画家であれ芸人であれ料理人であれサラリーマンであれ主婦であれ、上の人からやり方を習うというのはどの世界でも存在する仕事の覚え方だというのは異論無いと思いますが、それがシステム化、というか地位というか仕組みとして成り立っているか否かによってそのポジションについての考え方はそれぞれ違ってきます。

例えば大昔主婦にとっては姑からその家のやり方を学ぶ、という仕組みが「暗黙の上に」成り立っており、それは賃金が発生しない「言わずもがな」の力関係であり「システム化されていないシステム」なのですが、現在では核家族が増え、生活環境や習慣のの多様化によって上下構造そのものが存在しないという場合がほとんどで、あえて姑から何かを学ぶという考え方すら珍しいものになりました。

一方サラリーマンは「システム化されたシステム」であり組織としての上下関係が明確に規定され賃金も組織によって保証されていて、仕組みとして研修を受け仕事のやり方を学ぶというやり方が決まっていますが、実際は現場に出て仕事をしてみないとわからないことが山のようにあり、上の人から「給料に換算されない」ような部分で色々な事を学んで初めて「ものになる」のだと思います。
料理人や芸人などは「職人」であり、給料を払う仕組みはちゃんとあるものの決してきちんと保証されたものとは言い切れず、ましてや何かを教えてもらうような場所などではなく、昔ながらの「見て盗む」「システム化されていないシステム」からでしか学ぶことはできません。

漫画家もおおざっぱにくくると「職人」の範疇なのですが、他と違う点は「アシスタント」という役柄をしている人も「漫画家」である場合があり、現在の漫画業界においては「プロのアシスタント」という専門の職業も存在している、ということです。
この二者の違いは何かというと「漫画家として自分の名を冠した作品を世間に発表したいか否か」だと思います。
プロアシスタントというのは(実際にお仕事する機会など無いので実状はわかりませんが)いくつもの現場で修行を積み、きっと絵が無茶苦茶上手くてアシストしてる漫画家さんの絶大なる信頼を得て、きちんと生活できるだけのお金を稼げて、さらに自分の作品を発表する必要がない、という人なのでしょう。

でもニーナさんは「漫画家になりたい漫画家」でしょうから、(雇う漫画家さんが求める力量にもよるでしょうが)スタート段階で必要なのは紙原稿であればペンと定規と筆と消しゴムとカッターとトーンを最低限取り扱うことができる能力、だと思います。デジタル原稿であれば漫画作成ソフトを扱える能力や、ソフトとパソコンそのものも必要かもしれません。

逆に漫画家の側から言えば、アシスタントに求める力量は「こちらがどんな作業をやってもらいたいか」によります。
超絶背景と作者の絵柄にそっくりなサブキャラやメインキャラを描ける能力を求める方もいれば、

「やべェ明日までに間に合わんからベタとホワイトとトーンだれかやってー」

という最低限の作業ができればいい場合もあります。

そうなると必然的に自分が好きな絵柄や物語の(=テクニックを盗みたい)漫画家さんのアシスタントになりたい、と思うのが人情です。しかしそこで頭に浮かぶのがまさに「影響されちゃうかも」問題なのです。

まさに私も、デビューしたての頃に

「やっぱアシスタントとかやんないとカッコつかないつうかカッコ悪い振られ方しかできないつうか」

などと考えていた事があります。

でも

「絵柄が似ちゃうと嫌っぽいなーん」

などとも思って躊躇していました。

しかしある日、目から網膜ががボロボロ剥離するような出来事がありました。

それは桜玉吉さんにお会いした時のことで、こっちは憧れの漫画家さんに会えた機会にこの際だから何でも聞いとけとばかりに

「アシとかやりたいとは思うんですが、影響受けて自分のオリジナリティとかが無くなっちゃうかも、とか考えるんですがどうしたら良いのでしょうか」

と尋ねたところ、玉吉さんは渋い声で

「アシスタントしたくらいで無くなるなら、それはオリジナリティなんかじゃないよ」(大意)

とのお答え!!

もしあなたが漫画家として自分の名を冠した作品を発表したいとして「影響されちゃうかも」問題にぶちあったっているなら、答えは

「なんんんんにも気にする必要無い」

です。

アシスタントして絵柄や雰囲気が似る場合はもちろんあるでしょうが、作品が面白ければそんなの無問題ですし、逆に似てる絵柄から「ああこの人はあの漫画家さんのアシ出身とかなのだろうな」と読者的な話題のネタにもなるでしょうし、
「俺ってオリジナルルルル!」
とか思ってても面白くなければそもそも発表する機会も訪れず、自分が思いつくようなことは大概昔の人がもうやっちゃってるから気にする必要ありません!

やりたきゃ気にせずドンドンやって盗めるもんは金品以外なら何でも盗みましょう。
問題は「自分がどんな漫画を描くか」なのですから!!

...そして私はどうしたかというと、アシスタントを一回もやったことがないまま、雇うテクニックも身につかずずっとひとりです...。

何故ってクサコアラだからですよ!!(逆ギレ)


羽生生さんも出場されるイベントの告知です!

漫画家・三本美治さん主催の素敵イベント「紙-1フェスタ'09」に間違ってとなりの披露宴に出席した時のような気持ちで出ます!

『紙-1フェスタ'09』
https://kami1gp.web.fc2.com/syutsujo.html

"紙芝居"というテーマで独自の表現をするイベント「紙-1グランプリ」のスペシャル版。今回は勝敗なしのお祭りです!!

2009年3月1日(日) 11:30 オープン 12:00 スタート

前売・当日共 1,500円(要1オーダー)

440(four forty)
東京都世田谷区代沢5-29-15SYビル1F
https://www.club251.co.jp/440/



■ 電話予約
440(four forty) (03)5481-4143 【2pm~8pm】
※今回は客席が少なめなので、チケットは早めにお申し込み下さい。

質問はコチラまで

真面目に答えてもらいたかったり、答えてもらえなくてもよかったりな質問がある方は質問投稿フォームから質問を投稿してください。
お寄せいただいた質問はマンガナビ編集部が選別したうえで、羽生生先生にお渡しします。

羽生生 純(ハニュニュウ ジュン)
漫画家 1970年生まれ 1992年デビュー

代表作
『アワヤケ』 『青 -オールー-』 『恋の門』
『1ページでわかるゲーム業界』 『ワガランナァー』
『サブリーズ』 『強者大劇場』


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