羽生生純の「漫画について答えよう」

タイトルをつけるコツって?「『エッチ』って言えばいやらしくないんだって!」

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「『エッチ』って言えばいやらしくないんだって!」の巻

何なんでしょうこの殺人的な眠さは!ほんとに死んでるのかと思いましたよ!
朝起きて「ああメシだ」と思ってごはんを食べて「ああ仕事だ」と思って机に向かってたのに気が付くともう昼になってて「ああメシだ」と思ってごはんを食べに行ったりしてちょっとそこらをうろついて帰るともう3時過ぎてて「ああ仕事だ」と思って机に向かってたのに気が付くともう夜になってて「ああメシだ」と思って晩ごはん食べて風呂に入って「ああ仕事だ」と思って机に向かったとたん眠くなって「ああ仮眠だ」と思って布団に入って気が付くともう次の朝...

今寝てました。

【エルシン】

映画版『恋の門』から羽生生先生のファンになりました。
羽生生先生はかなり独特なタッチの作風ですが、絵柄だけでなく、タイトルにも強いインパクトを受けます。
本屋で棚を眺めていても、ふと目が留まることが多いのですが、タイトルをつける際、何かコツのようなものなどあるのでしょうか?

『ファミ通のアレ(仮題)』
『強者劇場』
『羽生生純の1ページでわかるゲーム業界』
『サブリーズ』
『ワガランナァー』
『恋の門』
『青 ― オールー ―』
『アワヤケ』
『ろうこうに在り ― 顔回伝奇 ―』
『俺は生ガンダム』
『ピペドン』
『妄想漫画俘虜記 夜はじゅんじゅん』
『無法使いアッポちゃん』
『千九人童子ノ件』

自作(原作付き含む)をだいたいあげるとざっとこんな感じです。

『ファミ通のアレ(仮題)』
竹熊健太郎さんの原作で、タイトルを決めるときにかなり悩んでいた、のを見てただけで、自分で決定したのでは無いのですが、やはり竹熊さんというと『サルまん』のイメージが強く、内容もゲーム版『サルまん』的なにおいなのでそっち方面に引っ張られるというか、そういうタイトルじゃ無いとそぐわない感じだったので苦労されてました。その結果こうなったわけですが、やはり「(仮題)」を正式タイトルにしたことでオリジナリティーが出たと思います。反面『ファミ通』を知らん人には「?」なタイトルですが、これを読む気になる人で『ファミ通』を知らん人はいないだろうということでこれになったと記憶してます。

『強者劇場』
これは短編集で今は無きアスキーコミックでの連載時のタイトルそのままです。たしか編集さんが思いついてくれたような気がします。絵や内容のいびつさを「強者」という良いイメージにすり替えてくれてます。

『1ページでわかるゲーム業界』
『ファミ通』でやってた1ページのルポ漫画で略称『ペーゲー』という、まさに『さるマン』方式のネーミングです。

『サブリーズ』
『コミックビーム』初連載作品で、佐分利県で発行されてる「サブリーズ」という名前の地方新聞という体裁です。内容と絡めつつ、荒唐無稽な話なのであまり現実的な物事をイメージさせないようにして、完全に語呂というか単に言ってみたい言葉をつけました。後年『ギブリーズ』というタイトルのアニメがあると知りましたが未見です。

『ワガランナァー』
これも『サブリーズ』と同様の付け方で、元気なバカが無茶苦茶するバカ話なので「訳わからん」という印象を持たせようとしてます。作品内で毎回誰かが必ず「わがらんなぁー」と言うのですが、タイトルを思いついてからそうしようと思ったのか、一話目のネームを描いたときこの台詞を言わせたからこのタイトルになったのか思い出せません。『ワガランナー』だと「RUNNER」をイメージしてかっこいいほうに引っ張られる恐れがあるので「ァ」をつけました。

『恋の門』
前2作が現実離れした話だったのに対しこれは(少なくとも)現実世界と地続きの世界で、しかも恋愛同棲話なので突飛なタイトルは避け、今までだったら赤面するような「恋」という単語をあえて使い、恋愛の様々な問題を「門」という単語でイメージさせ、『肉体の門』等既存の作品の(内容ではなく)語感の印象をいただいてつけました。それならいっそ登場人物2人の名前にしちゃえということで「恋乃」「門」と名付けました。

『青 ― オールー ―』
沖縄が舞台の話で、一話目のネームの時点で「たぶん最後に主人公が死ぬ」ということしか決めてなかったので内容に絡めるのでなく沖縄のイメージでベタに「青」にしましたが、それだけだと検索したときとかに見つかりにくいだろうと思って沖縄の方言を調べてつけました。

『アワヤケ』
これは「淡谷家」というネーミングを思い浮かべたところからストーリーを膨らませていったと思います。家族ものなので真っ先に「~家の人々」的なタイトルを思い浮かべましたが、あんまりタイトルに具体的な意味を乗っけるよりも「は?」と思われる方をとって漢字やその他をそぎ落としました。つけてからカタカナ4文字タイトルが増えてるというのを知って赤面しました。

『陋巷に在り ― 顔回伝奇 ―』
これは原作ものなのでそのままですが、全13巻の大長編小説を24ページ×24回で描く、というのが決まっており明らかに完全漫画化ではなく、登場人物3人に焦点を絞って描くつもりだったので小説とは違うという表明で『よりぬきサザエさん』的な意味合いの「顔回伝奇」という副題をつけました。

『俺は生ガンダム』
現実世界にいるガンダム狂いのサラリーマンの話で、なんとなく本宮ひろしさんのサラリーマンもの的なイメージで「俺は」とかつけました。

『ピペドン』
『月刊スピリッツ』で連載中の作品で、生命科学とかそこら辺が絡んでる話です。研究者のネット隠語で「ピペット奴隷」という意味の「ピペド」という言葉を編集さんから教えてもらったので使おうと思ったのですがそのままじゃ恥ずかしいので「ン」をつけました。

『妄想漫画俘虜記 夜はじゅんじゅん』
『プレイコミック』で不定期連載中の写真ルポ漫画で、おっさんたちが酒を飲みにいくというネタなので夜っぽさと汁っぽさを入れ、カメラマンのJu Jun Yongさんの「Jun」と私の「純」を練り込み ました。

『無法使いアッポちゃん』
『エロティクス・エフ』で連載中の魔法少女(だと思ってる女)の話で、『魔法使いサリー』と『ひみつのアッコちゃん』のキメラです。

『千九人童子ノ件』
『コミックビーム』で連載中の話で、内容がもろに出てるタイプのネーミングです。怪奇ものっぽさや推理ものっぽさ、伝奇ものっぽさが出るような方向に案配しました。

だいたい時系列で書きましたが、こう見るとイメージが固まってるようでいて案外ばらけてる、でも何となく方向性はあるような気がする、という感じでしょうか。
前回つけたネーミングをみて方向性を決めてるというか。

私の場合まず作品の内容というか骨子を編集さんと話しながら固めていき、だいだいこういう話になるというのが決まって実際に1話目のネームを描くくらいのタイミングで正式なタイトルを決めます。まあそこまでの過程でどんなタイトルにするのか考える時、以下は順不同なのですが、割と気にするのが

「かぶらない」

という点で、最近は考えたタイトル案はまずネットで検索して同一タイトルの漫画が無いか探します。もちろんかぶってると恥ずかしいという意味もありますが、たとえば「あ」というタイトルを付けた場合、検索で見つけられにくくなってしまうという面もあります。もちろん自分の作品がいちばん「あ」だ!という意気込みの場合は別ですが。
結果的に口に出してもかぶらない「音」と「字面」というものにも注意しなければならないということになります。
もしかぶっちゃいそうだったら一カ所変えるとかいう作業が必要です。

それに反して

「かぶせる」

ということも必要です。これは検索したときにヒットされやすいようにということで、既知の単語が入ってると新しい作品でもとっつきが良くなる(というか「知らん」度が下がるというか)という効果が期待できます。
たとえば『ワンピース』は漫画が売れる前は誰もが服のことしか浮かばなかったはずですが、今の子供は漫画の方を思い浮かべるんじゃないでしょうか。

「流行語を使わない」

これは流行語全般という意味ではなく、ここ数年のホットな流行語を使えば使うほど痛々しくなるということです。
流行語をつけると意味が限定され、しかも一過性の単語が入ることにより作品自体も一過性な印象をもたれてしまう恐れがあります。
たとえば「そんなの関係ねえ!」というタイトルの漫画があった場合、流行語を知ってる人はそのイメージがつきまとって作品の印象を限定してしまうし、知らない人は「あー関係ないんだ...」と思うだけで何ら作品に貢献してくれません。

「なるべく内容にリンクさせる」

もちろん内容そのもののタイトルだと分かりやすいのでしょうが、私の場合内容を一言で説明しづらい場合がほとんどなので、内容に関わる単語を使う、というか関係ないものはつけないようにしています。もし『ワンピース』が「今僕は君に内緒で屁を小出しにしながら歩いている」というタイトルの漫画だったら歴史はどう動いたか。結果は明らかです。

...こんなところでしょうか。

もちろんタイトルは家の表札であり第一印象を決める大きな要素ですが、どんなにそこに深い意味を込めようが込めまいが読者が気にするのは家の中なので、あんまり神経質になっても意味ないと思います。
上で書いた中でたぶん一番簡単にできるのが「流行語を使わない」だと思いますが、もし自分がその流行語を作ったという人ならいざ知らず、人が作った言葉にのっかると後で恥ずかしかったりつまらん思いをすることになるので、どうせだったらぜんぜん面白くなくても自分で作った言葉の方が精神衛生上よろしいと思います。

最近一番ぐっと来たネーミングは「非実在青少年」です。

しかし秀逸なネーミングですね「非実在青少年」。
セカイ系つうかゼロ年代つうかライトノベルつうか(意味よくわからず使用)。稲垣足穂入ってる気もするし相対性理論の歌詞っぽいしナンバーガールっぽいし。
透明感とはかなさと愛しさと切なさと心強さとがない交ぜになってて。
この単語だけでいろんなイメージが沸いてきて創作意欲を激しくそそられます。

ただ、この単語が作られ使われる場所が、創作という行為からではなくその規制(しかも効き目があるのかどうかよくわからん)という文脈であるという点を除いて。

今回の東京都青少年健全育成条例改正案について『ザ・シンプソンズ』でスプリングフィールド警察署長のウィガムが自宅でテレビを見ていて自分の気に入らないシーンが映ったのですが、テレビを消すためにリモコンを使ったり自分の手で消したりせずに銃を乱射してテレビをぶち壊す、というシーンを思い出しました。

子どもが子どものヤバい行為が描かれた作品を読んで同様の行為に及ぶことを防ごうとした場合、一番効果的なのは焚書です。あらゆる本を焼けば確実に読めなくなるのでその因果関係さえ説明する必要が無くなります。
その対極は現実世界で「変態漫画読んだから」という理由で子どもをみたら全員処罰することです。

もちろんこんな事はどっちもバカなので実現性は限りなく0ですから、現実世界に則した「良い塩梅」を探すということになるのですが、今回の都のアクションは「目の前に強盗が立っているのに逃げたり警察に電話したりせずに「強盗?なに?そんな言葉我輩の辞書に無いじゃん。たからそんなものこの世に実在しませーん。非実在!」と言ってるみたいなナイーブさを感じてしまいます。
「強盗」というネーミングを無くしてもその言葉が表すものが無くなる訳ではありません。

個人的には自分の子がもし変態漫画を読んでたら相手がどうなるかを言葉で説明し、変態漫画のせいで犯罪を犯したら子どもをぶん殴って被害者に一生謝罪していくという方法しか思いつかず、昔の大人のように他所の子どもがバカだという事を怒る余力はありませんが、少なくとも変態漫画を読めようが読めなかろうがやることには変わりないと思います。

あ!そろそろ仕事しなくちゃいけないんだった!では『コミックビーム』でやってる『ワンピース』と、『月刊スピリッツ』でやってる『ワンピース』と、『エロティクス・エフ』でやってる『ワンピース』と、『プレイコミック』でやってる『ワンピース』の作業に戻りマース!


羽生生 純(ハニュニュウ ジュン)
漫画家 1970年生まれ 1992年デビュー

代表作
『アワヤケ』 『青 -オールー-』 『恋の門』
『1ページでわかるゲーム業界』 『ワガランナァー』
『サブリーズ』 『強者大劇場』



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