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迫力を出すためにどうしたら?「めくりあえ!そらッ!!」

掲載日:2010.05.29

「めくりあえ!そらッ!!」の巻

みなさーん!人をうらやんでますかーッ?楽しそうなことをやっている人を見るとすべてのやる気を失ってますかーッ?自分よりはるかに高い才能を見せつけられて無表情になってますかーッ?健康な人を呪ってますかーッ?

私は全部実践してまーす!
では最近気に入ってるモノマネをしまーす!

「あきらめないで!」(「茶のしずく石鹸」のCMの真矢みき)

名を忘れたお笑い芸人のギャグをパクったところで質問行きます!

【はんなり】

羽生生先生こんにちは。
先生に是非教えてほしいことがあります!
私は漫画家を目指して勉強中の身なのですが、コマ割がワンパターンになってしまい、画面にイマイチ迫力が出ません。
いろんな作品を読んだり観たりして勉強してはいるのですが...。
先生がコマ割の参考でオススメする作品(映画など)あれば教えてください。
よろしくお願いします!

「マンガ入門」みたいな本はちゃんと読んだことのない私ですが、そういうのでもちゃんと大事な感じで載ってるのがコマ割りですね?
ね?
え?

コマ割りの歴史的な発展の様子や意義なんかはよく知らんのでごまかしていきますが、とにかく現在親しまれている漫画のルールとしてコマ割りは読者に浸透しきっています。線や点の集合体である絵と絵が並んでいるとき、間に一定の余白(黒もある)として存在する空間。そうして区切られた1ページに何個かの絵が並んでいる場合、漫画を読む人はそれを「コマ割り」として認識します(言葉としてじゃなくてもその意味を理解します)。

もちろん区切られてなくても1ページ全面に一個の絵が描かれている場合もありますし、見開き2ページというのもありますがこれももちろんコマ割りです。

竹熊健太郎さんのブログからパクった情報ですが、コミックビームで『ウルトラヘヴン』を描かれている小池桂一さんは新人時代に3ページ見開きのネームを描いたりしていたそうですが、内容的には限定されますが、長ーーーいものを何ページも使って描くこともできます(もちろん面白いかどうかは別として)。

そう考えると、もし一枚の長ーーーーい紙に一枚の絵を描くコマ割りっていうと...

あーそれって日本最古の漫画って言われてる「鳥獣戯画」じゃないか?

まああれは長い1コマじゃなくて全部の物語を一個の絵で表してるってこと(たぶん)だから意味はずれるだろうけど...

あーそう考えるとコマ割りっていうのは何枚かの同じ大きさの紙の一片を束ねてできた「本」に描くことで割る「意味」ができたから発展したってことなのかもしれん!

で1ページや見開き2ページに1コマずつ描いてたらページ数は稼げるけどお話がぜんぜん進まないんで節約のために余白で区切って量を増した、と。

で4コマ漫画みたいに同じ大きさで区切ってたら誰かがコマの大きさを変えて、そしたらなんか面白さが増した感じがしたからどんどんひろがった、と。

で周囲の余白も勿体無いってんで断ち切り目一杯まで描いたり少女漫画みたいにコマを飛び出してでっかく描いたり、と。

...とまあ大体こんな感じでコマ割りというのが出来てきたっぽいです。もちろん私の「っぽい」意見なので間違ってたら「バカー」と言ってください。

そこでじゃあコマ割りの目的って何?というと、最も重要なのが

「物語の内容を伝えやすくする」

という点にあると思います。1ページに数コマの絵がある漫画の場合、日本ではたいがい「上から下」「右から左」に、右上から横に読んでいって左下に行ったら次のページ、というルールで読むように描かれています。なので描く人はコマを割る場合それを意識し、自分が伝えたいお話を理解してもらうように絵を配置していくわけです。

とすると次にくるのは

「物語の内容を効果的に伝える」

ということで、簡単にいうと「演出」になると思いますが、漫画を描く時ってだいたい「1ページ」が基本単位になってて「月産何ページ」とか「今日は何ページしか描けなかった」と言ったりするように、基本的に1ページをどうコマ割りするかが作業の大半です。

そこで重要なのが「リズム」です。

人間はパターンを認識するのが得意な生き物で、点が3つあれば顔に見えるし同じ間隔で手拍子が聞こえれば一番簡単に予想するのが次の手拍子も同じ間隔であるように、同じ間隔で続くものに意識が行きやすくできています。

で漫画をみると、読む人は1ページという単位で区切られた本という媒体の「リズム」に則って描かれたものを読むわけです。

リズムは他にもあります。いわゆる「起承転結」のような伝えるべき物語の内容にも好まれやすい、面白いと思われやすいリズムがあり、ネタ振りがあってオチがある(もしくはそれ以外のやり方)というリズムはそれぞれの漫画にもあり、ひとつの作品内でも全体のリズム、各話のリズムがあり、その1ページの基本単位の中でのリズムがコマ割りと言えます。

ここで物語を伝える手段としての映画やテレビと漫画の決定的な違いが現れるのですが、同じリズム(=時間)で再生される物語を受け取ることによって成り立つ映画やテレビと違い、漫画というのは自分でページをめくることによって初めて物語を受け取ることが出来る(もちろんめくる機械を使ったりママにめくってもらったりしても個人の勝手ですが)媒体だということです。

以上をふまえてじゃあコマ割りってどうなのよ、というものを考えるのですが、大枠の一定のリズム(本、ページ、物語)の中で1ページのコマを割る場合、一番効果的と思われるのは

「リズムを崩す」

というやり方だと思います。

なんで崩すのかというと、一定のリズムの中でコマ割りまで同じリズムにすると単調になってしまうからです。
簡単に言うと「前のコマの次は必ず違う大きさのコマにする」、「見開き2ページで同じ大きさのコマ、割りかたがなるべく無いようにする」ことでリズムが崩れ、単調さを避けることが出来ます(各コマの構図という重要なポイントも関係ありますがここでは無視)。

一方で映画の絵コンテのように全部同じ大きさで割る、もしくは1ページや見開きを多用して同じテンポで描くという方法もあります。

しかしこれは描く側にしっかりと「こうしなきゃいけない意味」が無ければいけません。
その意図は作品の内容によりいろいろで、ギャグだったら繰り返しギャグ、ストーリーものだったら同じ間隔で起こっている出来事を定点的にとらえて時間の流れを意識させる、など「ちゃんとわかってやってますって!」というのがわからないと、読む側は「単調」という部分しか伝わりません。
これは編集者が新人の漫画のコマ割りでよく見るチェックポイントで、単に同じ構図の同じコマが並んでいるとたいがい注意されるか意図を求められます。

もちろん映画の絵コンテみたいに全ページ同じ割り方をあえてする場合もありますが、これはコマ内の構図をものすごく注意し、ストーリー的にも合う題材は限られ、かつ一定以上の緻密な情報量をもった作画をしなければ成立しないのでとても難しく、誰でも出来る方法ではありません。

私も昔は絵コンテみたいなコマ割りの漫画を描こうと思ってましたが、技量と題材が見合わず断念しました。

あと気にしなければいけないのはページとページのつながりです。

「めくる」という行為は合法違法どんな場合でもドキドキするもので、何がでるか予測したり全く受け身になったりしながらめくることによって受けるインパクトを楽しみたいために人はめくるのですが、漫画の場合はストーリーに沿ってめくった先の1コマ目にきちんとインパクトを与えることができる内容が来るようなコマ割りをしないと、せっかく「めくっていいわよ」といってくれてるのにめくった先が普通だったら勿体無いつうものです。
だいたい大きなコマがくるといいのですが、でもそればっかり続くと結局単調になってしまうので適度なさじ加減が必要です。

こんな風にゴチャゴチャ回りくどく考えなくても、ポイントとして「緩急」つうんですか、かぶらないようにいい案配を意識してやってれば良いということなのですが、その「適度」とか「さじ加減」とか「案配」こそその作家さんの個性というか特質なのでそこから先はピッチャーの制球とかヤクザや警察の脅しのテクニックとかセックスの達人の奥義とかを参考にしながら各自研究してもらうしかありません。

でも上の話は「本」という媒体が前提の話で、現在はコマ割り無しの1コマ表示が基本の携帯電話や普通の本以上の見せ方が出来るパソコンやiPad、Kindleなどの電子書籍など新らしい媒体が増えつつあります。そうなるとコマ割りもその媒体に適したものが求められるようになるでしょうし、それこそ巻物のように延々と長い1コマを表示できるようになって絵巻物という表現形態が復活するかもしれないし、これが正解、という分かりやすい答えがあるわけではありません。

でも大事なのは「描きたい」と思う気持ちで、それさえあれば後はなんとかなるはず!(もちろん努力次第ですが)

わーなんかまた毎回書いてるようなオチになっちゃった!単調!しかも最終的には自分を慰めてるだけ!だめだ!ちきしょー!あー怒り出すって展開もワンパターン!リズム崩さないと!えーっと...えーっと...えーっと...

(逃亡)


羽生生 純(ハニュニュウ ジュン)
漫画家 1970年生まれ 1992年デビュー

代表作
『アワヤケ』 『青 -オールー-』 『恋の門』
『1ページでわかるゲーム業界』 『ワガランナァー』
『サブリーズ』 『強者大劇場』


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