もし漫画家にならなかったら?「はたらくおじ漫」
掲載日:2010.11.27
「はたらくおじ漫」の巻
「赤井さーんなんでそんなに大きくなっちゃったの?」
「え...」
「ねえ言って...ほら」
「でも...」
「なに?どうしたの?ほら大きな声で大きなお口でみんなに聞こえるようにお言い!どうしてそんなにニョキニョキとそそり立っているの!」
「...クフゥ...」
というわけで羞恥プレイ実況中継から始まった今回の「絵答え」ですがみなさんいかがモジモジですか?
いやーアッという間に一年が終わっちゃいますねー!このぶんじゃ来年なんか3ヶ月くらいで終わっちゃいそうですよ!下手したら再来年は...
あれ「再来年」の次ってなんて言うんですか?「しらいねん」?じゃ次は「ごらいねん」?「ゴライオン」?
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【さつまあげ太郎】
漫画家を目指していたんですが、現在は普通の会社員のモノです。
未練はないと言えば、嘘ですがたまに開いた時間で描いてたりするのも楽しいです。
いきなり私自身の話ですいません。
羽生生先生にお聞きしたい事は、もし先生が漫画家にならなかったらどんな職業についていそうかを教えてください。
先生のような発想ができるのであれば、漫画でなくとも色んな場所で活躍できると思っており質問しちゃいました。
また、こんなコトをしてみたいってのもありましたらぜひ教えてください。
これからも漫画がんばってください。
いつまでも先生のファンでいつづけます。
幸いなことに漫画の収入だけで食い扶持を稼ぎだした時点から漫画家を名乗って以来アルバイトやその他の副業をせずに現在までおまんまをいただいて来れた私ですが、名乗るまではもちろんアルバイトをしなければ生きて来れませんでしたし、その間も常にこのまま漫画家以外の職業で生きていかねばならないかもしれないという不安とともに日々暮らしておりました。
高校卒業後東京の漫画の専門学校を半年で放棄し寮で一年転がっていた後で田舎の実家に帰り、工場のアルバイトをしながらボヤーンとしていたころですが、そもそも漫画家なんていう薄い層の職業を狙っていたくらいですから、普通の職業に就くという気持ちは全くありませんでした。
とはいうものの、もちろん具体的な方策も無く、漠然と「漫画描いて暮らしたいなあ」と思ってるだけではどうにもならず、実家でタダで飯を食って寝るだけで食費すら払っていなかったのでさすがに気まずく、工場のアルバイトで親からの冷たい視線をしのいでいました。
でもやはりそれだけではしのぎきれず、とうとう定職に就かないと厳しいという段階になった時、漠然と考えていたのがまず
地域の小さい新聞の記者
でした。
もちろん仕事の内容など一切知らずに、ただ大学すら出ていないこんな身でもやれそうかも、などと安直に考えていました。
他には
図書館の仕事
これは単純にいつも図書館で本が読めるだろうなあという全く根拠のない理由で、掃除とかそういう仕事が出来ないかなあなどと思っていたのを今書きながら思い出しました。
あと
塗装業
これは父親がボヤンとしてた私を見かねて「なんか絵を描くっぽい仕事ならやれるんじゃないか」という意図の元に提案してきましたが、私も(これまた仕事内容を全く知らずに)出来そうだなあなどと思っていました。
古本屋
自分が気に入った本を買って読み終わったら売る!売れなくても一日店番しながら売れ残りを読める!なんて素敵な職業なんだろう!などと気楽なことを考えてました。早川義夫の『ぼくは本屋のおやじさん』を読むまでは。
だいたいこんな感じだったのですが、なぜこういうチョイスになったかというと一番大きな要因は
家業を継ぎたくない
というものでした。
うちは園芸農家で、シクラメン等のハウス栽培や山野草の販売が仕事だったのですが、私にとってこれが最も「普通」の仕事だったのです。
漫画家を志し、自分は他のみんなとは違う技能を持っており、ヴェルタースオリジナルキャンディーのCMのじいさんが孫を甘やかして言うような「特別な存在」だと思っていた私にとって、家業を継ぐという選択肢は最も「特別」から遠い「普通」の選択であり、もし最も自分の理想に近い漫画家という職業になれない場合、一番「普通」から遠く、少しでも自分がやりたい要素が入っている職業であれば何でも良かったわけです。
しかしそんな中途半端な気持ちが実を結ぶ筈もなく、現実問題として家庭内にどんどん就職せねばならない空気が充満してきた時点で、私は家を出て友人の家を転々としながら居候生活をすることになったのです。要は居たたまれなくなって「逃げた」のです。
今なぜあの時点で逃げたのかを考えると、自分の中であれだけ「普通」は嫌だと思っていたくせに、頭の隅には常に「なんだかんだ言ってもいざとなったら家の仕事を手伝えば生きていけるだろう」という気持ちがあることに気付いたからなのだとわかります。
もしそこで自分の置かれた状況を冷静に分析し、現実的な回答を求めていたら、確実にブーブー文句をたれながらも家の仕事を継いでいたはずで、自分が本来やりたかったことからすれば「逃げた」ことになるわけです。
だから私はその時「逃げた」ことにならないために「逃げた」のです。
...で諸々いろいろあった結果なんとか漫画へのつながりが出来、幸運が続いたおかげで漫画だけでおまんまが食えるようになり、まがいなりにも「漫画家」と名乗ることが出来ているわけですが、それもあの時「逃げる」ことができたからだと思っています。
今現在も、もし何らかの不慮の事態が起こり漫画家を職業とする事が出来なくなり、理想からどんどん離れてしまった場合は「田舎に帰れば何とかなる」という甘い考えがあり、もちろん親は年老いて以前と状況も変わっており何の根拠も無い願望ですがそれでも帰れば何とかなる、という「甘え」から「逃げる」ために今も泣きながら漫画を描いているのです。
でも実際本当に仕事が無くなったらどうしよう...怖いいいい!!
...というそこら辺の家と自分の関係をいくらか参考にしつつ描いたのが『千九人童子ノ件』という作品なのですが、なぜかあんな結末になってしまったので、どんなことになったかまだ読んでない人は買って読んで確かめてみよう!!
...ってこれだけしみったれた知りたくもないことダラダラ書いた結果がただの宣伝かよ!と思ったそこのYOU!怒った?
じゃあ逃げる!
千九人童子ノ件
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小学館・角川書店・エンターブレイン合同、異能の傑物・羽生生純祭り、開催!
夢に破れて都落ちした漫画家が、故郷で出逢った「もの」とは...。これは「ホラー」か、それとも「私漫画」か?異才が挑む、新境地にして、圧倒的本領!驚愕と衝撃の変調伝奇ロマン!(Amazon.co.jpより)
羽生生 純(ハニュニュウ ジュン)
漫画家 1970年生まれ 1992年デビュー
代表作
『アワヤケ』 『青 -オールー-』 『恋の門』
『1ページでわかるゲーム業界』 『ワガランナァー』
『サブリーズ』 『強者大劇場』
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