漫画家という生き方~マンガ人が語る「漫画家残酷物語」
掲載日:2010.10.15
漫画家は仕事じゃない。生き方だ。マンガ人が語る「漫画家残酷物語」
漫画とは、そして漫画家とはいったい何なんだろうか?
「漫画家残酷物語」 永島 慎二 / 全4巻 各420円(税込)
自らの身を焦がす程の、漫画への熱い情熱と人生への不安。
作品に登場する漫画家たちの生きざまが著者永島慎二とオーバーラップして、深く心に突き刺さる。
真剣に漫画家という職業について考え抜いたこの作品には、「生きる」ためのヒントが隠されている。
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一矢春吉
アマチュアのマンガ描き。
趣味は映画鑑賞。
好きなマンガは、王ドロボウJING・スカルマン・黒髪のキャプチュード・銃夢・寄生獣
近況:只今原作付きマンガの後編作画中!
前編だけはとっくに完成しているのであります...。
マンガ読もっ!SNS内のサークル「春吉」にてインディーズコミック公開中です。
マンガ人が語る「漫画家残酷物語」
『現役インディーズマンガ家が語る漫画家残酷物語』
「漫画家残酷物語」は、様々なマンガ家の生きざまを描いた、私小説的かつ実験的マンガの傑作です。
「漫画家」という職業に関するいろいろな否定論と疑問は、現実に生きる者たちの常識であります。理想に生きる者ほど、障害として立ちはだかってきます。マンガを描く立場として、理想と現実との差への悩みは、大いに共感するところです。そんな後輩たちに向けて、理想に生きた著者は、この「漫画家残酷物語」で、多くのマンガ家が抱く夢を描いてくれました。
僕が初めてこの作品(サンコミックスの第1巻)に出会ったときはまだ12歳。もちろんマンガ界も大人の社会も知らない時期でした。「嘔吐」の主人公は、自分が本当に描きたいマンガを描くことに命をかけようと、妻を実家に帰し、孤独な生活を選び、「蕩児(とうじ)の帰宅」の主人公は、厳格な家庭との対立で悩みます。それは作者・永島慎二氏の理想でもありましたが、かといって正しいと断言するような描かれ方はされません。明快な解決はされないまま物語は締めくくります。しかし、決して間違ってはいないという明るい希望を、この作品群は明示しているように思います。なぜなら、たとえ作者が不幸な死に方をしても、描き上げられた作品は理解者である第三者の介在によりヒットするといった結末が用意されているからです。
それから数十年経過し、僕も様々な経験をしてまいりましたが、この作品の登場人物たちの生き方に、だんだんと考え方が一致していきます。小手先の技術だけで原稿料を稼ぐより、作品の質を優先するといった生き方です。おそらく僕は子供の頃、すでにこの作品に啓蒙されていたのでしょう。
一矢春吉さんの胸に残る、漫画家残酷物語の珠玉のことば
蕩児(とうじ)の帰宅
「親の期待を完全に裏切ったわけだが......、どこでも親と言うものは、期待し心配するものだ。君は自分が本当にやりたいと思う仕事にとびこんだ。そして、一生懸命、ほんとに命がけでその仕事をしてるじゃないか。それこそ‥‥、本当の意味での......、自分に生命をあたえてくれた人達に対する礼じゃなかったのか?」
嘔吐
「......漫画が......本当の自分の漫画が描きたいんだ......すまない......! ......それには......自信がないんだ......生活の......!」 「あい手はたかがマンガだぜ。芸術のなんのってしろものじゃない。読まれりゃポイとすてられちまうんだ。てきとうに売れるものを描いて食っていけりゃオンのじだぜ」
あにいもうと
「漫画というと世間の人はていぞくでつまらないものだと頭からきめつけるだろ。それだけにこれからは......つまらないものを描いていたんじゃイケナイと思うんだな......」
甘い生活
「いったい?何のために、自から進んでキズつかねばならないのか、(中略)私にはわかっているのだ。彼の愛する多くの人々にみてもらうための、愛する漫画を描くためなのだ」 「けれどわからないのは......なぜそんなにまでして、キズだらけにならなければ、描けないのだろうかと、いうことです...。たかが、漫画じゃありませんか......ねえ......!」
マンガ人が語る「漫画家残酷物語」
『マンガ編集者が語る漫画残酷物語』残酷なまでのストイシズムとリリシズム-尊厳の作家・永島慎二
ジェダイ峯村
長野生まれのマンガ馬鹿一代。
マンガ編集稼業12年。
車とラーメンをこよなく愛する30代。
好きなジャンルはSF、ギャグ。
マンガ家同様原稿〆切に必ず遅れるのが得意技。
この作品のタイトル「漫画家残酷物語」をご覧になったあなたは、もしかすると「ははあ、漫画家が漫画家のことを描いているのか。自伝的エッセイ漫画みたいなものかな?」と即座に思われたかもしれません。
物語はほぼすべて、漫画家が主人公です。中には永島自身を描いたかと思える登場人物もいます。そして彼らはみな一様に、漫画を描くことに対して真剣であり、苦悩し、時には開き直って儲け主義のとりことなり、また筆を折る姿もしばしば現れます。読み進めていくうちに、必ずやはたと手が止まるでしょう。
別段漫画家を志したこともないし、漫画を描くことの楽しさ、つらさなんて知らないのに、胸をえぐるような痛みが突き上げてくるこの気持ち。この作品集全編を貫いているテーマが、読むものの心に突き刺さるのです。そのテーマとは?
それは、純粋な、ことさらに純粋な人間の尊厳。自分に正直であろうとする者が格闘する、プライド、偏見、さげすみ、嫉妬、その他......。永島慎二は自分に近しい存在、すなわち漫画家の等身大の夢と悲哀をていねいに描きながら、そこに鋭い刃物を忍ばせたのです。その刃物は容赦なく登場人物を切りつけます。それは同時に、読者の心にも突きつけられるのです。
永島慎二の描く絵は時に繊細、時に叙情的、絵画的で毒気がなく動きにも乏しいものですが、残酷なまでにストイックなそのテーマと絡むことによって、まるでピカソの絵でも見ているかのごとき迫力をもって、読者に迫ってきます。おそらく、永島自身も、相当な血を流してこの作品を描いたであろうことが想像できるでしょう。
この作品(集)はいわゆる「漫画」と呼ばれるすべての作品のうち、その内容と質において、5本の指に入る傑作であることは間違いありません。ただ、単におもしろいだけの娯楽作ではないことも事実です。人生に迷ったとき、自分を信じられなくなったとき、この作品を紐解いてみてください。必ずやあなたの心に、何かがもたらされると思います。単純な元気付けの発奮材料でもなく解決策でもない、何かがです。大人気作家であった当時、永島慎二につけられた贈り名は「若者の導師」だったそうです。彼が残してくれたものは、今現在でも多くの人を導いてくれると思います。
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