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「どうすれば、読みやすいマンガが作れるのだろうか?」『マンガ表現論』『視線誘導論』の夏目房之介

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夏目先生に『マンガ表現論』を聞いちゃいました

『視線誘導論』についてじっくり教えていただきました。

「どうすれば、読みやすいマンガが作れるのだろうか?」
これは、マンガソーシャルメディア編集部のマンガ編集者であるジェダイ峯村が、約10年のマンガ編集業においてずっと悩んでいたテーマです。
そこで今回のウェブ編集部特別企画インタビューとして、日本のマンガ評論の第一人者である夏目房之介さんに、マンガ表現論の中でも読みやすさと大きく関わってくる『視線誘導論』についてじっくり教えていただきました。

作品解説
ストーリーの面白さはもちろんのこと、描線、吹き出し、コマの構成や動きなど、マンガ家が考えだすアイディアの数々を紹介し、実は複雑な構造をもつマンガ表現を明快に解き明かす。
1997年 日本放送出版協会刊

夏目房之介 プロフィール
1950年8月、東京に生まれる。獅子座A型。青山学院大学文学部史学科卒業。マンガ家、イラストレーターとしてのみならず、評論、エッセイ、講演、テレビなど幅広い分野で活躍する。海外ではマンガ評論家として高い評価を受け、各国のシンポジウムにも度々招聘されている。1999年、マンガ評論における業績で第三回手塚治虫文化賞特別賞を受賞。
■著作一覧

夏目先生に『マンガ表現論』を聞いちゃいました

マンガ表現論としての『視線誘導論』は、いまだ『芸』である

――以前、夏目先生がテレビ番組などで解説されていた、マンガの読み方・見せ方・コマ割などの技術を、マンガの実作に活かせないかと思っていました。編集者の視点から見た、マンガ制作の技法として、先生の解説されていた表現論を活用することはできるのでしょうか?

夏目先生:無理ではないと思いますよ。ただ、大変でしょうね。表現論というのは技術論じゃないんですよ。仕組みを解くための理論であってね。全ての理論のベースであるとは思うのですが。人間がものをどう読むのか、どう描くのかということのベースになるものですから。それを応用してそこから技術論を生み出すことは可能なんですよ。ただ僕自身は技術論をやってはいません。しかしまあ僕だったら、よっぽどお金にならないとやらない(笑)。それくらい大変なことだとは思います。

今のレベルで言うと僕からすれば、僕のやっている「視線誘導論」は一般的にいえば理論性が高いにしても、まだ「芸」の域なんですよ。たとえばあるマンガの、どこが日本マンガ的でどこが日本マンガ的じゃないのか、というのを説明できるのは、理論の裏づけがあるとはいえ、まだ芸の域なんですよね。で、それをじっさい現場で役立てる方法ってまたちょっと違うと思うんですよね。

 title というのは、ひとつは「おもしろさ」というものと「完成度」というものは必ずしも一致しない、というとても難しい問題があるわけです。よく例に出すのは『ナニワ金融道』の作者青木雄二さんの作風の面白さは、僕らの理論からは絶対に出てこない、というのがあります。あんなに読みにくい作品にはなかなか誰もOKを出さないでしょう。実際に(ナニワ金融道は)他のマンガ誌で没になったものですから。
それにOKを出すのは、最後は現場編集者の直感ってやつじゃないですか。こればっかりは誰も教えようがないんですよ。現場の編集者で成功した人が、理論化できないよという「編集技術」ってのはそこなんですよ。それはあたりまえなんですね。でもその寸前までは理論化できる。だけどそれをどうやってするかっていう問題があって、僕にとっては「視線誘導論」というのが一番使い勝手がいい、ということなんです。

視線誘導論は海外でしゃべっても一番うけがいいんですよ。視線誘導を上手くやれているかどうかで作品のわかりやすさを検証する。
例えば海外の例を見たときに、特に新人のね、中国でいちおうプロとしてやっているような人の作品を見ても、一番指摘できるのはそこで、日本のマンガとの一番大きな違いがそこなの。視線の誘導が合理的にできていないんですよ。だから読みにくい。
日本でも新人の作品で読みにくいのはだいたいそれなんですよ。そこは合理的に説明できます。要するに視線の誘導がうまくいってない。「間」がうまく作れていない。

僕ね、あの~これは大変失礼な話ですけど、ある有名な女性作家の青年誌連載作品の中で、どう考えてもおかしいというコマ割りを見つけたんですよね。その作家さんはものすごく上手い人なんですよ。非常に力量がある人です。もちろんヒットメーカーでもあります。
他の少女マンガ作品はかなりよくできてる。なのに、その青年誌連載作品は変なコマの使い方をしてるところがあるんですよ。読みにくい。これはあくまでも個人的な意見ですから、ある大学の講義では使いましたけど、一般には流通させていない話なんですけどね。
それで、わかりにくい箇所を、僕が読みやすいと考える形に並び替えたんですよ。コマをね。そしたら、読みやすいんですよ(笑)。しかしです、問題はそれがいいのかどうか、ということなんです。つまり、例えば新人の教育などにはいいはずなんですよ。絶対読みやすいんです。
でも、読みやすくなったからといってそれが面白くなるかどうかってのはまた別の問題でしょ? だから、「面白くなる」ことが、あくまでもどこかで担保された形でやれるのであればOKなんですよ。視線誘導論はできればちゃんとまとめたいと思うんですけど......まだまとめたことはないですね。

――本になるなら、ぜひ読みたいと思います。

出来上がれば、僕は多分、海外ではすごく売れると思うんです(笑)。海外の漫画家、漫画編集者が一番欲しがっているのはこれなんです。実を言うと、僕はレクチャーとかでは散々やっているんですよ。散々やってるんですが、ただまとめるとなるとさっきの有名な女性作家さんの例みたいに、「こうすればわかりやすいでしょ?」という具体的な例を作るのが難しい。

――準備に途方ない時間がかかる?

いやそうじゃなくて。だって、まずいでしょ(笑)。その作家さんの作品を例に出せるわけないじゃない。

夏目先生に『マンガ表現論』を聞いちゃいました

極端なサンプリング、理論化、そして繰り返し......経験を積めば見えてくる

『マンガのスキマ』という本を書いた漫画家の菅野博之さん、彼は僕より緻密にやってるんですけど、ちょっと緻密にやりすぎちゃってる印象ですね。緻密にやりすぎちゃってるから、確かにそうかもしれないけど、そのとおりに作るとある方向性とレベルの作品しか作れません、という感じになっちゃっている気がします。
しかしとても参考になるんですよ。例えば、菅野さんは自分で(絵を)描いてるでしょ。で、本に出てくる例で、白戸三平のマンガをこの人が自分の絵で描き起こしていたりするんですよ。それができると、かなりのことができるわけなんですよね。つまり......「直す」ってのは明らかに著作物の改変に当たるので、おいそれとできないわけですよ。著作権法上許された引用にならないので、いちいち許諾をとらなくてはいけない。そこを、自分自身で作例を作れる、というのは(菅野さんの)強みですね。菅野さんはマンガ制作ソフトを使ってると思 うんですが......。

――コミックスタジオでしょうか。

コミックスタジオかどうかは知りませんけどね。ソフトを使うと割と簡単に作例が作れるんですよ。コマの位置とかを自由に変えられますからね。僕もソフトは持ってるんですけど使えないので(笑)、あのー、そいうことができれば、つまりそういうことが簡単にできる人がいれば、僕がまとめることも可能かもしれません。

――以前私がマンガ編集者をしていたときに、見開きや、いくつかのコマといういうようなパーツ単位では、夏目先生の解説されていた方法を使って新人作家とネームのブラッシュアップをやっていたんですけど、どうしても場当たり的になってしまうことが間々ありました。たまたまその場で見たシーンに対して、先生がおっしゃっていたことを思い出しながら話をするような......。

まあそれを繰り返していけば、だんだんできるようになっていくとは思いますよ。実践的には。要はポイントをつかめるかどうかだから、経験をつむことによってポイントが見えてくると思うので、多分ずっと積み重ねるだけでポイントは見えてくるはずだと思います。

――たとえば、これからの新人編集者にとって、ディレクター的な視点での漫画作りというものを考えたときに、視線誘導論であるとか、僕がやっていたパートごとの演出方法を考えるみたいなことを、系統立てて説明するってことはできるものでしょうか。

うーん、できるでしょうけど、その作業は結構大変なんじゃないかなあ。

夏目先生に『マンガ表現論』を聞いちゃいました

――例えば仮に、表現の参考書などでは、「たくさん映画を観ろ」みたいな事が書いてありますが。。。

そういう時代はもう終わったでしょう。

――マンガを浴びるように読んでもしょうがないですか?

しょうがないです(笑)。でもそれは逆にも言えるんです。例えばね、井上雄彦の『バガボンド』の演出の仕方と、海羽野チカの『ハチミツとクローバー』の演出方法、ぜんぜん違うでしょ? 極端な例をいくつかサンプリングして理論化してみればいいんですよ。みんなが『バガボンド』を描くわけじゃないし。モーニングでデビューした新人だった漫画家の知り合いがいたんですよ。彼が描いた作品が載ったっていうんでモーニング買ってきてみて。それがやっぱり読みにくいわけ。無駄が多いんです。そのときにそれをコピーして、コマの構造を 描き写して視線誘導のラインを入れてみると、コマに無駄が多いのが一目瞭然にわかるわけ。一方、『バガボンド』とか浦澤直樹の作品とかにラインを入れてみると、彼らの作品はむちゃくちゃ上手いので、同じくらいの情報量をいかに少ないコマでやっているかっていうことを、一目瞭然に比較できるんですよ。視線誘導論使うとそれが非常にはっきりとわかるんです。知り合いの彼にそれを送ってあげたこともありますよ。でも、その後読みにくさは直ってないかなあ(笑)。そういうのはね、対面のほうがいいんだよなあ。添削じゃ伝わらないん だよね。うーん......でも、編集者が視線誘導論を使ってディレクションすることはできると思いますよ。

――意外と難しいなあと思ったんですよね、僕がやっていて。それは僕側でもっと経験を蓄積しなければできなかっただけのことなのかもしれませんね。

そうだね。それこそ修練だと思うね。

夏目先生に『マンガ表現論』を聞いちゃいました

理論で「面白さ」は生めないが、『面白くする工夫』はできる

僕が本気でマンガを批評の対象としてやろうと思ってから、ある作品を取り上げようと思ったらまずその作品を読むじゃないですか。読むときにいろんなことを考えて、絵のこととか、演出のこととか、いろんなことを考えながら、何か引っかかったところに全部付箋を貼っていくんですよ。

で、最終的にその付箋を貼ってあるところを全部コピーします。で、コピーを見て、ジャンルわけというかカテゴリーわけをして、一番語ったら面白いところ、たとえばBSマンガ夜話だったらそのなかで5分で語って面白いところのポイントを見つけて、それをみて、それがコマの働きである場合もあればせりふの面白さである場合もあれば、みたいにいろいろポイントが見つかるわけじゃないですか。線のおかしさである場合もある。そこに焦点絞ってやるんですよね。

焦点絞るというのはどういうことかって言うと、コマの特徴だったら、見ていてなんだか、それが特徴的だなって思ったことなんですよ。思ったことっていうのはそれを言葉に代えたときに抽象化されます。
なので、何枚かの自分が特徴的だと思って付箋を貼ったところの集合をずーっと見てると、共通点が見つかるので、共通点を言葉にしてやるとそこに理論が生まれるわけですよね。この人は必ず右上の入り口の部分を断ち切りにするとか。そういう理論であったり。作者のそういう癖なんだと。逆に全部断ち切りになってるとか、そういう癖が見つかるんですよね。

ただ、マンガの場合にいえるのは、それを文法として考えちゃうとみんな同じように描けばいいんじゃないってなりやすいんですけど、そうじゃないんですよ。
その人その人の修辞法と考えるべきなんです。その人の文体。だらだらした文体もあれば、きちっとした文体もある、やたらめったら文節を短くする人もいる。というのと同じなんですよ。
そこで、それをどうすれば面白いかと考えるべきなんです。
それを考えながらやっていくと、例えばこの人の場合は効率的な視線の誘導が作風にあっているとか、それが滑っていて面白みにつながってない人であるとか、色々なケースがあるんですよね。逆に効率的に視線を誘導してしまうことによってその人の味をなくしちゃうこともある。それは本当に微妙で、体の動きと擬音とスピードラインとか間のラインをきれいにあわせちゃうと、目に引っかかりがないということになるんです。
つまり読みやすいけどつまらない。
日本の漫画の特徴は実はここにあって、必ず引っ掛かりを入れるんですよ。これが、ある種の人には非効率に見えるんですね。海外の方とか。ところがそここそが味なんですよ。全体としてはものすごく速く進んでいるコマ構成と演出なのに、なんか引っ掛かるというのは、必ず目線を受け止める擬音とか、コマの形を作ってるからなんです。それができているかどうか。

問題は相関関係なんですよね。スムーズなだけがいいのではない。視線誘導論ってのは一見スムーズなことが全てのように語るんだけど、じつはそうではないんですよね。
要は緩急なんですよ。結局は自分が面白いと感じるかどうかなんですけどね、新人の場合だと描いてきた作品がそのままじゃ面白くないことが多いじゃないですか。でも何か面白さがある感じはする。でもそれがはっきりと出てない。
どうしたらそれが出るのかっていう工夫が必要になってくる。その本質はおそらく技術というよりも、何か他のものなんでしょうけどね。取りあえずそれは考えないとすれば、技術的にそういう工夫をすることは可能です。流れすぎているのか、滞りすぎているのか、という診断になったりするんじゃないでしょうかね。

――マンガを作る最初の一歩みたいなところに、それを役立てることができるんじゃないかと思うんです。
僕が編集をしていたころに、いわゆる新人賞の選考をやっていたんですが、大量に送られてくるわけですよ、小学生が描いたのかというくらいのレベルのものが。それらを「駄目」というのは簡単なんですけど、何で駄目なのかということを説明できなきゃいけないわけなんですね。
そのときに、指針として文法みたいなことを求めてたんですよ。そこに文法さえあれば、それを理解することによってまず第一段階をクリアできるだろうと。まずはそこをクリアして第二段階へいってくれと。そこでようやく作家としての個性だなんだというものがいえてくるんじゃないかと。夏目先生は文法じゃなく修辞だとおっしゃいましたが......。

それはどういうことかというと、理論として考えたときは文法として考えていいんです。ここは微妙なんですよね。なんといったらいいんだろうな、視線誘導は大雑把な理論としては文法としてみなしてもいいんです。しかし具体的な作品を見るときには、その作品固有の構成、演出を修辞として理解したほうがいいことが多いんです。

――マンガの作り方を文法としてしっかり理解して、そしてそれを忘れて作品に当たれ、ということでしょうか。

ええ。そういうことだと思います。



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