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週刊少年ジャンプ編集長というお仕事-モンスターマガジン『北斗の拳』の当時の編集長 堀江信彦

掲載日:2007.09.28

総発行部数1億冊を突破した、漫画史上に残る壮大なる拳闘叙事詩『北斗の拳』の当時の編集長に時代に応じた展開を聞きました

総発行部数1億冊を突破した、漫画史上に残る壮大なる拳闘叙事詩『北斗の拳』。1983年に、『週刊少年ジャンプ』誌上で連載が始まったこの作品は、95年に発行部数653万部を記録したこのモンスターマガジンの象徴的作品でもありました。
連載終了後もその人気は留まることを知らず、パチスロ台にキャラクターが採用されると60万台という出荷台数記録を樹立。そして、電子書籍版がリリースされると電子書籍のダウンロード数記録も打ち立てました。パチンコ、電子書籍ともに20代~30代の団塊Jr世代が支える市場にあって、その団塊Jr世代の成長とともに歩んできた作品ともいえそうです。2006年からは、ファンが映画事業に参加できる ということ(日本映画・金融界初の商品ファンド法に基づく信託型映画ファンド)でも話題になった映画『 真救世主伝説 北斗の拳 』が作られ、現在まで5部作が予定されています。
2007年9月28日に、その第3弾『 ラオウ伝 激闘の章 』がDVD発売されるのを記念し、北斗の拳連載当時、北斗の拳の担当編集者として作品に携わった「北斗の拳」の生みの親ともいえる、元週刊少年ジャンプ編集長の堀江信彦氏(現コアミックス代表取締役社長)に、なぜ今、北斗の拳の映像化なのかについてお話を伺いました。

堀江信彦 プロフィール
2000年6月(株)コアミックスを設立、代表取締役に就任。
翌年の2001年5月に『 週刊コミックバンチ 』を創刊(発行は新潮社)。
プレーイングマネージャーとして原作家、脚本家として作品を作ると同時に、編集者の育成に携わり、作品の質の向上に力を入れている。
(株)ノース・スターズ・ピクチャーズ 代表取締役社長兼務。

北斗世代へ『北斗の拳』の生みの親が語る、
ジャンプチルドレンへのメッセージ

北斗世界戦略 ~北斗を知ってる人ではなく、まだ知らない人に映像で届けたい

――北斗の拳を海外展開するうえで、プロモーションやアニメ制作で特に留意していることはありますか?

基本的に北斗の拳は無国籍な作品として作っています。
名前も記号的に作りましたし、どこかの国とかある種の宗教とかにはとらわれないように作っています。
ただ、マンガという形で北斗の拳をそのまま持っていっても、海外の読者は日本ほどマンガを読む習慣がないので日本とは違いますし、なかなか難しいんですね。
それと流通上の課題も多い。アメリカでいえば、とてもじゃないけど国土が広すぎます。今週発売分のものが翌週、書店に並んでいたり、物流の関係で遅れたり。また、特にアメリカのユーザーは映像にしないと作品を観てくれないところがあります。
そうした、アメリカで雑誌を出版したときの流通上の反省や読書事情をふまえて、今回、北斗を映像にすることを考えたんです。映像化の理由はそれだけではないですが、まずは映像でもって、北斗の世界観が国内外のより広い読者に伝わりやすいようにと。
そんな目的で、映画「北斗の拳」は5部作にしました。
また、5部作以外に「いろんなキャラクターを主人公にした外伝をさらに増やしたんです。今後は全部で10部作ぐらいになるかもしれません。そうして、緻密な北斗の世界観を映画で作って海外ファンに観てもらうと。
現に、海外のフィルムセールスが始まっていますが非常に好調です。

編集部の壁に貼られていたDVDポスター

北斗世代へ『北斗の拳』の生みの親が語る、
ジャンプチルドレンへのメッセージ

北斗世界戦略 ~北斗を知ってる人ではなく、まだ知らない人に映像で届けたい(2)

――海外のビジネスマン以外にユーザーからの反響はどうですか?

北斗を、世界中にある騎士ものなどを含むひとつの叙事詩だととらえて面白いと感じているひとが多いみたいですよね。
あとは北斗にあるいろんなギミック、例えば経絡秘孔を突くと敵が内部から破裂するシーンなどは西洋にはないある種の東洋の神秘的な魅力を感じてくれて面白いとして感じるひとも多いですよね。

――オリエンタリズムというか、日本にしかないようなユニークな表現ということですね。

あとは、作画の原哲夫さんが描く、力強く美しい肉体などの絵のテイストも海外の読者は好きですよね。でもまだまだ海外では、日本のマンガを読んだことがある人が少ないんじゃないかなぁ。海外のふつうの読者は読んでないでしょう。むしろ、こうしたふつうの読者、北斗はもちろん、マンガ自体に興味がないような多くの読者に観てもらいたいと思います。
北斗の拳を知ってる人はもう読んでますよ。そしていまさらこれ以上北斗、北斗って言ってもうざいんじゃないかなぁ(笑)。
ですから、映画に関しては、北斗の拳の世界観を知らなくても楽しめるようにということを留意して作りました。
ラオウ伝、ユリア伝、トキ伝などの外伝をつくっているのもそうした目的です。

――従来のケンシロウに象徴されるメインの入口だけでなく、いろんな入口から入れ、いろんな切り口で楽しめるようにということですね。
入口をさらに広げるという点では、マンガの吹き出しを多言語翻訳して電子書籍によって世界中に配信することも今はもう可能になっています。
北斗の拳を電子書籍で世界配信するような構想はすでに準備されているのでしょうか?

いまはまだ具体化していませんが、そういったことも視野には入れています。
ただ、言語ごとに翻訳する際の翻訳センスがとても重要。ラオウの一人称が英語で「I」でいいのかということです。台詞をどう翻訳するかで北斗の世界観が正確に伝えられるかどうかが決まりますから。

――ラオウの昇天の際の名台詞、「わが一生に一片の悔いなし!!」が「There is no a piece of regret for my life!!」でいいのかということも含めて翻訳センスは大切ですよね。

そう。いろいろ慎重に考えなければならない課題は多いです。
ただいずれにしても、いまは映画に加え、ケータイもネットもありますので、いろんなチャネルを使って北斗を広げていきたいと考えています。

北斗世代へ『北斗の拳』の生みの親が語る、
ジャンプチルドレンへのメッセージ

20xx年、マンガ新世紀に向けて

――21世紀になって拡大した、ネットとケータイなどの新しいチャネルについてはどう思われますか?

従来のマンガをWEBやケータイでそのまま見せるというモデルは、どこかで限界がくるかもしれませんよね。
新しいフォーマットで新しい作品をeBookにも供給したいですね。
1947年に手塚先生が『新宝島』で映画の手法を取り込んで今のマンガフォーマットを確立してから、もう60年も経っています。
今のマンガ界は、かつての手塚先生が革命をおこしたように新しいマンガフォーマットを作りあげないといけないと思っています。そうしないとマンガが滅びます。また何よりもそうでないと面白くないでしょう。
ケータイやWEBに読者が親しんでいるこの新しい時代に沿うように、マンガ家さんのマンガの描き方を変えようと。
いま、うちの会社でもマンガ家、編集者、技術者の三位一体で取り組んでます。まだ正式発表する段階にはありませんが、いつか新しいフォーマットによるマンガ新作を出版する予定です。

――マンガの読み手だけではなく、作り手、売り手も時代の変化に対応せざるを得ないということだと思いますが、セカンドライフやDSソフトなどさまざまなチャネルが増えてきましたよね。
ご自身は特にどのチャネルに関心が深いですか?

ケータイですね。出版市場が急激に落ち込んだのは、急激にケータイ市場が伸びたことと深くリンクしています。
今までの本の読者、マンガ読者がケータイユーザーへと移行したんです。
要するに、これまではマンガを読むことに使われていた若者の暇な時間をケータイに奪われた。いまはワンセグもあるし。

北斗世代へ『北斗の拳』の生みの親が語る、
ジャンプチルドレンへのメッセージ

20xx年、マンガ新世紀に向けて(2)

――私も最近、ワンセグケータイを買ったのですが、予想以上にワンセグでTV番組を観てますね。

新しい流れはどんどん強まってきますよね。ですからケータイを中心とした新しいメディアに対してマンガ界がどういう工夫をするか、ということが今後の課題だと思います。ケータイ小説のほうが読ませる工夫をしています。ケータイマンガは工夫の点で小説に負けていますよ。うちのようなマンガ屋が率先して新しい工夫をしていかないといけないと思っています。
電子書籍配信会社のeBookJapanさんもケータイ・WEBのダウンロード数はどんどん伸びていると思いますが、昔の作品をデジタルで読者に届けるという今のモデルはいつか限界が来るように思います。
電子書籍市場がさらにブレイクしたときに、のeBookJapanさんらといっしょになって新しいものを開発していくということが大事なんじゃないかと思います。

――電子書籍に期待するものは何でしょうか?

それはライブ性。マンガというのはライブ感が大事なんです。マンガが面白いのは週刊誌という形で読むライブ感があるから。週刊誌は世の中の風を感じながら読めるから面白いんです。

――そうした既存の、週刊誌などの雑誌を軸とした出版モデルが立ち行かなくなっている今、
確かに電子書籍であれば、週刊や日刊でタイムリーかつローコストで配信することが可能です。

そうですね。マンガが持つそんなライブ感を感じることができる新しい作品を、新しいフォーマットで届けられるんじゃないかというのが電子書籍に期待している点ですね。

北斗世代へ『北斗の拳』の生みの親が語る、
ジャンプチルドレンへのメッセージ

努力・友情・勝利はいつの時代でも普遍

――ケータイといえば、モバゲータウンの隆盛が象徴的ですが、10代ユーザーのコミュニケーションアイテム化してますよね。ケータイコミックユーザーも10代読者が非常に多く、従来のマンガを読んでいた層のニーズや売れ筋とはかなり変わってきています。
かつてのジャンプ黄金期の10代読者と最近の10代読者を比較して何か変わったなぁと思う点はありますか?

僕は、少年たちとずっといっしょに仕事をしてきてつくづく思うのは、本質は変わらないということ。子供はいつだって生き方の情報を欲しがってる。そして、面白いことがいつだって大好き。
大人にとって子供がわからなくなるのは、子供がいる場所がわからないからですよ。
いままでいると思ってたマンガや雑誌の場所に今の子供はいない。
それは子供の遊び方が変わっただけ。どこで遊んでいるか、彼の居場所がわかればかれらの求めるものがはっきりわかる。今、子供たちはケータイの中にいるんですよ。

――確かに、モバゲータウンの中にはかなりいますね(笑)。

そう。そんな行きつけの場所にいる子供たちへ、しっかり面白いものを届けてあげればいいんですよ。

――かつてのジャンプが掲げていた「友情・努力・勝利」へのニーズという点でも同じなのでしょうか?

そうだね。友情という点では、むしろ今はコミュニケーションツールが多くなってきてるから、当時よりも今の子供たちの方が求めてるんじゃないかな。

――ゆとり教育で以前ほど努力や競争をしなくてもいい環境に変わってきたという点で、努力や勝利のニーズが低くなってるという調査報道もありますが。

10代など若いときほど自分の将来に対して希望を持っています。そんな子供が成長するにつれ、現実が見えてきて将来に悲観的になってきたりする傾向があります。
でも、生まれてから棺おけに入るまで、世の中の2/3の人は将来が良くなると思っている人たちですよ。
どちらかというと、将来が良くなると思っている人を読者にしたほうがいいっていうのが僕たちの考え。将来がどうなってもいいやっていう人を対象にしたマンガは作れないなぁって。
自分の将来がよくなると思っている多くの子供は、やはりがんばっている人、目標に向かって努力している人に共感する。努力して勝利する主人公が子供たちのヒーローなんですね。
そうした意味ではジャンプ的キーワードに対するニーズは昔も今も変わらないと思いますよ。

ジャンプ関連書籍紹介

ジャンプチルドレンたちへ

『わが青春の少年ジャンプ』 西村繁男著 幻冬舎刊
『少年ジャンプ』神話はいかにつくられ、崩れていったかのか。創刊の経緯から黄金期、そして低迷に至る三十年の歴史を描いたドラマティックな1冊

――95年にジャンプは653万部という驚異的な部数を記録しました。
あのジャンプ黄金期当時に読者だった子供たち、将来がきっと良くなると思っていた子供たちは、あれから10年以上たったいま、ロストジェネレーションとか貧乏くじ世代とも呼ばれています。
俗にいう「失われた10年」を経て、この世代ではフリーターやニートになって社会を漂流しているひともけっこういます。
そんな団塊Jr世代について、団塊Jr世代のカリスマ誌の元編集長として何か思うことはありますか?

そうだねぇ。確かに当時のジャンプは彼らとともにあった。
団塊Jr世代は、社会的には貧乏くじをひいてしまって現実というか先が見えてしまうようなところがあるよね。不況というか時流に否応無しに世代ごと巻き込まれてしまったというか...。
そんな団塊Jrが共感するヒーローっていうのは巻きこまれ型ヒーローなんだよ。映画でいうと、ダイハードとかね。

――インディ・ジョーンズやハン・ソロ、『マトリックス』のネオもそうですね。

そう。実はケンシロウも巻き込まれ型ヒーローなんです。彼は、自分の意思ではなく北斗神拳の伝承者となって、始めはすごくいろいろ悩み葛藤します。最初から強かったわけではないし、長男でもない。

――そもそも末っ子ですもんね。そんなケンシロウが北斗神拳の伝承者という宿命から逃げずに、数々の強敵たちと戦う過程で強くなりヒーローとなっていく姿に、子供時代の僕たちは激しく共感しました。

北斗の拳を世代論で例えると、ラオウは強圧的というかおしつけがましい団塊世代。
トキはその下で比較的自由にしている新人類世代。
ケンシロウは、上の世代の後始末というか責任を押し付けられて巻き込まれている団塊Jr世代のイメージだね。
ケンシロウは、まさしく団塊Jrの子供たちの気持ちを代弁するようなヒーローだったんだよね。

――堀江さんご自身はキャラクターでいうと、誰の性格に似ているんでしょうか?

そうですねぇ。表向きはラオウかな。でも本質的にはケンシロウだね(笑)。
あとは、世代で言うと、僕は団塊世代と新人類世代の中間にあたる世代なんですね。
ちょうど二十歳の時に「ポパイ」が創刊されて夢中になって読んだんだ。
当時の「ポパイ」が提示した、みんなで楽しく明るくなんていうカリフォルニア文化に影響されたよね。サーファーファッションが流行してたから、サーファーでもないのにそういう格好もしてたよ(笑)。

北斗世代へ『北斗の拳』の生みの親が語る、
ジャンプチルドレンへのメッセージ

ジャンプチルドレンたちへ(2)

――今で言う、陸(おか)サーファーですか。それはあまりケンシロウらしくないですね(笑)。

「活気あふれるコミックバンチ編集部。
とにかく忙しそうでした」

あと、僕らの世代は、無気力・無関心・無責任の「三無主義」なんて上の世代からは言われていた。
その後、社会人になって働き盛りのときにバブルを迎えたんだけど、僕個人としては、バブルは経験していないんですよ。狭い編集部の一室で、朝から夜中まで原稿の山にうずもれてずっとマンガの仕事をしていたから「バブルなんてどこにあるの?」という感じだったね。

――最後に、黄金期のジャンプを読んで育ったジャンプチルドレンたちにメッセージをお願いします。

団塊Jrという名前がついているけど、いつのまにか次の世代におじさん呼ばわりされないように注意してね、ということかな(笑)。
上の世代に対して不満があったりしても、いつのまにか自分が上の世代に言われてた小言を下の世代に言ってたりするからね。

――あっ、それはもうかなり頻繁に言ってますね。ケンシロウからいつの間にかラオウのようになりつつあります(笑)。

そうだよね。あとは10歳上と10歳下の友人を持つことが大切。
10歳上とは仕事を通じて友人になれたりするけど、意外と下の世代とは難しいんだよね。
僕は、幸い10歳下のプライベートな友人ができてすごく勉強になった。
他の世代を知ることで自分の世代のことが理解できたり相対化できて、自分の世代の居場所がわかった。
あとはいろんな人とお酒をいっぱい飲むことが大事だね(笑)。


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