漫画原作者のお仕事 山田隆道第1回「放送作家は儲かります。でも向いてなかった」
掲載日:2008.11.24
漫画原作者のお仕事 山田隆道 パート1
漫画原作、コラム、エッセイ、そして小説と多岐に渡って文筆活動を展開する山田隆道さん。
彼が今日のポジションにたどり着くまでにはどの様な道のりがあったのか?
そして、創作活動における信念は何なのか?
貴重なお時間をいただき敢行した全5回の超ロングインタビュー。
第1回は、文筆活動にたずさわるきっかけについてお聞きしました。
山田 隆道
漫画原作家・コラムニスト・エッセイスト
大阪府出身。清風南海高校、早稲田大学卒業。
ユニット「あおい」として漫画『彼女色の彼女』『リサーチャー』『借金カノジョ』などを発表。
さらにコラムニスト、エッセイストとしても活躍しており、数多くの雑誌などでエッセイの連載を抱えている。特にプロ野球(阪神ファン)には造詣が深く『ベースボールマガジン』や『ベースボールタイムズ』などの野球雑誌で連載を抱えるほか、その他のメディアにも出演や寄稿が多い。別名「80年代プロ野球をこよなく愛する男」。
また、テレビ・芸能界の事情にも精通している。
山田 隆道 Official Blog
【What's あおい】
渡辺啓と山田隆道による作家ユニット。
まったく異なる2つの個性が絶妙な化学反応を起こし、漫画原作、映画ドラマ、単行本、舞台など様々なジャンルの作品を'雑貨屋'の如く生み出していきます。
オフィシャルホームページ
【漫画】
『彼女色の彼女』(あおい名義 / 幻冬舎)コミックス1~2巻発売中
『リサーチャー』(あおい名義 / 幻冬舎)コミックス1巻発売中
『借金カノジョ』(あおい名義 / 幻冬舎)VISIONCASTにてドラマ版配信中!
VISIONCAST
【小説】
『赤ラークとダルマのウィスキー』(ベースボールタイムズにて連載中)
【コラム・エッセイ】
『山田隆道の11AM@三軒茶屋』(月刊チャージャー)
『山田隆道のにわかでゴメンよ!』(WebMagazine格闘王国)
『野球相伝』(ベースボールマガジン)
『山田隆道の男ヂカラ』(月刊クールトランス)
『山田隆道の勝手にテコイレTV』(月刊エンタテイメントダッシュ)
『山田隆道のR35エンタメレビュー!』(月刊エキサイティングMAX)
『ちょっとダメ系?B型男子』(マイコミジャーナル)12月12日から連載スタート!
『山田隆道のブログに茶々々!』(スポーツナビ)
『山田隆道のスポーツ茶々々!』(PC fan)1月から連載スタート!
【書籍作品】
『芸能界超ウルトラおバカ名鑑』(ぶんか社)2009年1月上旬発売予定!
『SMACKGIRL OFFICIAL BOOK 2000-2006』(インセンス出版)プロデュース
活字が伝わってなんぼ
―― 山田さんのプロフィールを拝見すると漫画原作者・コラムニスト・エッセイストとありますが、どのようなきっかけで今のお仕事を始められたのでしょうか?
僕は元々テレビの放送作家だったんです。
大学一年生のときに、ある先生に弟子入りをしてテレビの放送作家を10年ぐらいしていたんです。
色々なテレビ番組の台本を書いていました。
コント、バラエティ、漫才、舞台、ドラマ、お芝居、ドキュメンタリー、ニュースなど、全ジャンルの構成台本を書いたんじゃないかな。
株式の経済情報番組の構成台本なんかも書いたことがあります。
そういう風にあらゆるジャンルを扱うのは、デパートみたいな感覚なんです。
テレビというのは不特定多数の人に向ける媒体だから、感覚的にはデパートやコンビニに商品を並べる作業と一緒なんです。
それで、5、6年経ったころからストレスがすごく溜まってきたんです。
元々、性格的にオタク思考が強かったというのもあるんですけど、デパート作業よりも専門店にもっていきたいと思っていました。
あと、どうしても納得できなかったのは、自分が書いた文章が世の中に映像として伝わっていくじゃないですか。
それは、文章を書く人間として考えたら、おかしいことじゃないですか。
文章を書く人間というのは「活字が伝わってなんぼ」であって、だからこそ文章を書くと思うんです。
「自分が書いた文章が、なぜ映像でエンドユーザーに届くのか?」「自分が書いた文章を、なぜタレントが代弁しているのか?」「そして、なぜタレントが発言したことになっているのか?」といったように、だんだんと自分の仕事の意味がわからなくなってきてストレスを抱えていました。
そして「放送作家は作家だけど、作家じゃないな」って思うようになったんです。
最終的には「一番の言いたいことは、自分の顔と口と活字と言葉で世の中に伝えないと納得いかない」と思ったんです。
それまでは「自分の書いたもの」「自分の考えているもの」「自分の作りたいもの」を映像を挟んで人に見てもらっていた。
あるいは、タレントを挟んだり...。
何でお前らの手柄になんねん?
...そこに挟まっているものはいらない。
もっと乱暴な言い方をすると「何でお前らの手柄になんねん?」
目立ちたがり屋だし、自己顕示欲が強かったし、表現者としてのプライドが高かったんでしょうね。
自分が書いた番組を評価されればされるほど、腹が立ってきたんですよ。
「面白いよね、上沼恵美子」「面白いよね、島田紳助の番組」「面白いよね、ウンナンの番組」「面白いよね、ますだおかだ」って言われたときに、何でそいつらが最初に出てくんの?と。
視聴率が良かったときに、番組のディレクターが褒められたり...。
それが悪いことではないし、タレントやディレクターも頑張っていることも勿論分かっていたんですけど。
三谷幸喜さんの『ラヂオの時間』をみましたけど、色々な事情で色々と変えられて...、タレントがどうだとか...、あの気持ちもすごく理解できる。
そのときに僕は共同作業に向いていない人間なんだと思ったんです。
自分も20代で若くてどうしていいのか分からなかったんですね。
それと収入が良かったんです。
今より、収入が多いぐらいですからね。
これを読んでいる人で放送作家に興味を持っている人がいたら、はっきり言えますが儲かりますよ。
でも、放送作家としての向き不向きというのは、書き手としての志向とか、精神的なバランスの保ち方が重要だと思います。
僕は仕事としてこなすことはできましたが、心を壊してしまったんです。
仕事というのは評価されたら嬉しくなるのが普通なのに、評価されたら苛立つといった状況になって、これはあかんなと思ったんです。
26~27歳くらいかな、酒ばっかり飲んでいたんですよ。
キャバクラに毎日行っていました。
お金は持っているし、アホみたいに入ってくるから宵越しの銭は云々といった感じで。
堅実的に貯金をするタイプじゃなかったし、どんどん自虐的な感じになったんですよ。
今考えると、鬱病だったのかもしれませんね
ダメだったら帰ろう
今でこそ笑いながら言えますけどね、当時一緒に住んでいた妹からものすごく嫌われて大喧嘩しまして。
毎日飲んだくれて、女の子連れて帰ってくる感じだったからね。
これはダメだなと思って、テレビの仕事を全部辞めたんです。
今までお世話になったプロデューサーに頭を下げて...。
そのときに、ちょっと嬉しかったのが皆さんに引き止めてもらったことですね。
結局、テレビ業界が悪かったんじゃないんですよ。
自分と伝えたい相手の間に、何かを挟んだり、共同作業に向いていないんだなと...。
共同作業といっても、二人とか三人じゃないですよ。
大人数ですよ。
そこまで屈折していません。
二人もダメだったら世の中やっていけませんよ(笑)。
それで、テレビの仕事を辞めた後は違う職種の仕事をしてみたり、フラフラとしていたんですが、それも上手くいかなくて、20代の終わりぐらいに、ふと大阪に帰るものもありかなと思ったんです。
帰って普通の仕事、塾の先生なんかをやりたいなと思ったんです。
一応、教育学部だったから(笑)。
そんな感じで、文章を書く業界じゃなくても最悪生きていけると踏ん切りがついたので、ダメもとで最後に挑戦しようと思ったんです。
自分の書きたい言葉、自分が全面にでる文芸。
物書きとしてハードルが高いとされている文芸に挑戦してみようかなと思ったんです。
「ダメだったら帰ろう」「食えなかったら帰ろう」「貯金がなくなったら帰ろう」そう思って文芸に挑戦しようと思ったんです。
漫画の原作者にこだわっていたわけではないんです
漫画の原作者、倉科遼先生などには失礼かもしれませんが、僕は漫画の原作者にこだわっていたわけではないんです。
文章を書けるのであればジャンルは、あまり気にしていません。
コラムも書きたいし、エッセイも書きたいし、馬鹿っぽい文章も書きたいし。
思いついたこと、書きたいと思ったことは全てやりたいなと思っています。
そのなかで、自分が何者なのかと世の中に対して明確にしていきたいなと。
僕がすごく有名であれば名前が名刺になってやりたい仕事ができたんでしょうが、当時の僕には何かしらの肩書きがないと仕事がしにくいと考えて、コラムニストやエッセイストといった肩書きが必要かなと思ったんです。
ただ、コラムニストとかエッセイストといった職業は実際には存在しないんです。
そういう肩書きを付ける人は、本来、小説家だったり、漫画家だったり、女優だったり、メインの仕事があったうえでコラムやエッセイを書いているわけです。
そのとき、放送作家だった僕であれば漫画の原作者から始めるのが良いかなと思ったんです。
そこから営業戦略を考えて、自分だったらどんな漫画が面白いのかと企画を立てて出版社に持ち込みに行ったんです。
まずは、原作者として面白い漫画を作るために必要な知識・アイデアを持っていなければ、出版社が原作者を使うことはないと考え、自分の持っている知識で何が一番面白いかなと考えました。
そのときに自分の格闘技オタク、プロ野球オタクとしての知識と、テレビの仕事を続けてきた経験がアドバンテージになると考えたんです。
だから、最初は格闘技の漫画原作を書こうと思ったんです。
だけど、格闘技漫画って世の中には『グラップラー刃牙』『はじめの一歩』などたくさんあるんです。
そういった漫画と同じような内容だと、ひきが弱いなと思ったときに、女子総合格闘技を考えました。
「女子」というのはフックになるなと。
パッケージとして売るために
漫画だけじゃなく小説でも映画でも何でもそうで、古典的ではありますが、今まであるものに何かをのせる。
今まであるものは何かしらの存在理由があるはずです。
その何かに他のものをのせる。
そして、新しいものを作る。
「カレー」に「カツ」をのっけたら「カツカレー」っていう違う料理になりますよね。
「総合格闘技」に何をのせよう?
「女子」っていうのはわかりやすいなと。
それと、当時『ミリオンダラー・ベイビー』って映画があったんです。
これが邦画だったら僕も手を出さなかったのですが、アメリカでボクシングが流行ったんだったら、日本で女子総合格闘技はありだなと思ったんです。
さらにもう一つフックを考えて、あえて女性誌向けの漫画にしようかなと考えました。
当時「エロカッコイイ」「エロカワイイ」という風に今まで女性として敬遠されがちだった部分をあえてフィーチャーすることによって肯定されていく文化が生まれ始めていました。
「強い女」というのは、女性は最初こそ敬遠するかもしれないけど、描き方によってはとても女性ウケする、かっこいい見せ方ができるなと考えました。
女性誌で格闘技漫画って普通に考えたら無いですよね。
そこがフックになって、企画がビンビンに立っているなと考えました。
パッケージ感があるなと。
話が面白い面白くないと判断するのは書き手として当然の思考ですが、出版社に企画を持って行く場合は、そういった感じでパッケージを作っていくと出版社からは重宝されるんです。
逆にそのパッケージさえ作っちゃえば、後は自分の好きなことができるわけです。
その企画を幻冬舎コミックスさんに持って行ったときに「編集みたいなことを考えますね」と言われました。
普通、出版社に持ち込むのは原稿らしいんですが僕は企画書だったんです。
それが珍しがられて企画はすぐに通りました。
僕は漫画の原稿は企画が通ってから書くものだと思っています。
まずはパッケージとして売るために、前段の準備が必要なんだよって考えています。
「なれる自分」を求め続けて
多くの人は「なりたい自分」に向かって努力をしますが、理想と現実のギャップで挫折したり、つまずいたりします。
だから、僕は「なれる自分」を考えたんです。
「なれる自分」を求め続けていけば、その先で自分の好きなことができると思っています。
漫画を作りたいと思って始めたのではなく、そのときの自分ができることが漫画原作だったわけです。
まずは漫画原作者という感じで、ステップを一つあがる感覚でしたね。
このステップを使って、コラムニストやエッセイストとしての仕事が多くなりました。
気づいたら漫画原作の仕事以上に増えているのが現状です。
エッセイなんかは好きなことばかり書いていますよ。
読者から感想をもらったときは、テレビの仕事をしていたときにはなかったエクスタシーを感じました。
「文筆活動にたずさわるきっかけ」についてお聞きした我々に対し、怒濤の勢いでお答えいただいた山田さん。
止まるところを知らないそのトークは、なんと40分強!
次回は、今回お答えいただいた内容を一つずつ紐解き、作家 山田隆道の実像に迫ります。
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