漫画原作者のお仕事-山田隆道第3回-言葉を扱う作家としての美意識
掲載日:2008.11.26
漫画原作者のお仕事 山田隆道 パート3
漫画原作、コラム、エッセイ、そして小説と多岐に渡って文筆活動を展開する山田隆道さん。
彼が今日のポジションにたどり着くまでにはどの様な道のりがあったのか?
そして、創作活動における信念は何なのか?
貴重なお時間をいただき敢行した全5回の超ロングインタビュー。
放送作家からスタートし、徐々に活動の場を広げてきた山田さん。
彼の文筆活動における信念とは何か?
そして、渡辺啓さんとのユニット「あおい」とは?
第3回は、言葉を扱う作家としての美意識をお聞きしました。
山田 隆道
漫画原作家・コラムニスト・エッセイスト
大阪府出身。清風南海高校、早稲田大学卒業。
ユニット「あおい」として漫画『彼女色の彼女』『リサーチャー』『借金カノジョ』などを発表。
さらにコラムニスト、エッセイストとしても活躍しており、数多くの雑誌などでエッセイの連載を抱えている。特にプロ野球(阪神ファン)には造詣が深く『ベースボールマガジン』や『ベースボールタイムズ』などの野球雑誌で連載を抱えるほか、その他のメディアにも出演や寄稿が多い。別名「80年代プロ野球をこよなく愛する男」。
また、テレビ・芸能界の事情にも精通している。
山田 隆道 Official Blog
【What's あおい】
渡辺啓と山田隆道による作家ユニット。
まったく異なる2つの個性が絶妙な化学反応を起こし、漫画原作、映画ドラマ、単行本、舞台など様々なジャンルの作品を'雑貨屋'の如く生み出していきます。
オフィシャルホームページ
【漫画】
『彼女色の彼女』(あおい名義 / 幻冬舎)コミックス1~2巻発売中
『リサーチャー』(あおい名義 / 幻冬舎)コミックス1巻発売中
『借金カノジョ』(あおい名義 / 幻冬舎)VISIONCASTにてドラマ版配信中!
VISIONCAST
【小説】
『赤ラークとダルマのウィスキー』(ベースボールタイムズにて連載中)
【コラム・エッセイ】
『山田隆道の11AM@三軒茶屋』(月刊チャージャー)
『山田隆道のにわかでゴメンよ!』(WebMagazine格闘王国)
『野球相伝』(ベースボールマガジン)
『山田隆道の男ヂカラ』(月刊クールトランス)
『山田隆道の勝手にテコイレTV』(月刊エンタテイメントダッシュ)
『山田隆道のR35エンタメレビュー!』(月刊エキサイティングMAX)
『ちょっとダメ系?B型男子』(マイコミジャーナル)12月12日から連載スタート!
『山田隆道のブログに茶々々!』(スポーツナビ)
『山田隆道のスポーツ茶々々!』(PC fan)1月から連載スタート!
【書籍作品】
『芸能界超ウルトラおバカ名鑑』(ぶんか社)2009年1月上旬発売予定!
『SMACKGIRL OFFICIAL BOOK 2000-2006』(インセンス出版)プロデュース
作者が言わせたいセリフは一つ
―― 放送作家を辞められて漫画原作に活動をシフトされたとのことですが、漫画原作にしても読者との間に作画などのフィルタが入りますが、それについてはどう考えていたのですか?
最初が漫画原作者だったら、僕の性格だと鬱陶しいと感じていたかもしれませんが、散々色々なフィルタを見てきたので、正直少ないなと感じました。
ただ、編集者はすごくありがたい存在ですね。
色々な見え方などをアドバイスしてもらえますからね。
編集者とブレインストーミングを繰り返す方法が好きです。
作画に関してはセンスが合う人合わない人がいますね。
それは僕的にね。
作画の方と原作者が会わないケースもあるんです。
だから、僕の『リサーチャー』って漫画は作画の方に会ったことがないんです。
作画の方に会って進める場合もありますけど、それは本当に相性ですね。
ただ僕がよくやることは、作画の方に対して自分の思いを伝えたいからシナリオ書くときに、ここをこうしてほしいとかト書きに書きまくります。
できる限り僕の思っていることは作画の方にも伝えたい。
だから、大事なセリフを表現したいときなどにはフォントサイズを大きくしたり、細かく状況説明をしています。
最初はしていなかったんですけど、そのときに完成した漫画を見たらあまりにも違うと思ったんですね。
良い悪いは別にして自分の思った感じと違うのはやっぱり嫌じゃないですか。
漫画の一話で作者が言わせたいセリフは一つなんです。
『スラムダンク』で三井寿の「バスケがしたいです」ってセリフがありますが、そのセリフが小さかったら「オイ!」ってなるじゃないですか。
だから、そこへ向っていくシナリオを壊さないためにも文字を大きくしたりして伝えています。
作者が言わせたいセリフってのは本当に一つか二つなんですよ。
全てはそこにもっていくためのシナリオ。
映画でもドラマでもそうですが、絶対的に決めのセリフってあるんですよ。
主人公は、それを言うためにやってきたんですよ。
文章は読みやすくてナンボ
―― コラムやエッセイであれば、それ自体を読ませる文章だと思います。それに対し漫画原作やシナリオ、脚本などは、漫画や映像の設計図としての役割があると思います。この二つは書いているときに違いはあるのでしょうか?
コラムやエッセイに関しては活字が勝負です。
だから、意識しているのは読みやすさですね。
僕は文章で大事なのはリズムだと思っています。
音楽にリズムってあるじゃないですか?
テレビにおいてもナレーションのリズムってあるんです。
耳に入りやすいリズム。
それと一緒で頭に入りやすい文章のリズムもあるんです。
体言止めが5回続いたら読みにくい。
センテンスや句読点が多すぎても読みにくい。
文節が複雑すぎたら読みにくいし、複雑すぎるなら文章を二つに分けるとか。
たとえば、一つの文が4行とか5行に渡るような文章ってあるじゃないですか。
わりと文学オタクっていわれている人ほど複雑な文章を書きたがるんですよ。
なかでも太宰好きに多いですね。
太宰好きの書く文章は句読点が多すぎる。
太宰治って典型的な句読点が多い作家なんですよ。
芥川賞を取った川上未映子さんが仰っていましたが文章が模様に見えてくる。
絵を描いている感覚で文章を書く。
僕にはその感覚が分からなくて、あまり好きじゃなくて...。
そういったことを踏まえて文章は読みやすくてナンボでしょ?
読者が読みやすい文章が良いんです。
例えば、お笑いが好きな人ってシュールというか難しいネタを笑おうとするじゃないですか。
そうじゃなくて分かりやすいかたち。
ピカソの絵を見て「ラクガキやん」って言える感覚っていうのかな。
文章が芸術とかの感覚ではないんです。
僕は言いたがりだから、その文章で何が言いたいのか、より伝わりやすいかたちを求めています。
シナリオなんかの場合も「分かりやすく」をモットーにしています。
その言いたいことを美しく表現するよりもシンプルに伝える。
僕は言いたいことを一言、二言で書けるんですよ。
その一言を伝えたいがために文章を書いています。
僕は説教くさいんですよね。
僕は嫌いなんですよ
―― 最近はケータイ小説が流行っていますよね。30代の我々からすると文章のボリュームはどうなの?など色々と思うところがあるのですが山田さんはケータイ小説について、どうお考えですか?
僕は嫌いなんですよ。
分かりやすい文章を書くというのが僕の理念なんです。
分かりやすい文章っていうのは正しい日本語からくるんですよ。
正しい文章、文法をシンプルに使っていくのが一番読みやすいと考えています。
若い子がそれを読んで理解していたとしても、僕はメチャクチャな文法は嫌いですね。
変な話、横書き小説が嫌いですもん。
そこは文芸オタクじゃないですけど、国語は好きというか。
何て言えばいいんだろう...。
正しい日本語じゃないと...。
だから「上を見上げる」という言葉は嫌いですね。
「上を見上げる」のは言葉の重複だと思うし、そういう細かいところがすごく気になるんです。
「一見何々に見える」も嫌いですね。
「一見何々に思える」だったらありです。
何故なら「一見」「見える」って言葉が重複しているからです。
正しい日本語の文章にはこだわりがあるし、それが一番読みやすいって思っているし。
ケータイ小説を読んでいると「句読点の打ち方が違う!」とか思っちゃいます。
その辺も含めて好き嫌いで言うと嫌いです。
良い悪いは、また違う話なんですけど。
売れているから良いとは思うけど。
意味が分からない日本語だからね。
一人称だったのに急に三人称になったりしますからね。
これがウケているのかと思うと切なくなります。
評論をする気はないけどケータイ小説は嫌いです。
売れているから良いな~とは思いますよ。
嫌いだけれども、仕事がきたらやりますよ。
ただ、僕がケータイ小説を書いたとしても、いわゆるケータイ小説の書き方はしません。
たまたま僕が書いた文章が携帯コンテンツに落とし込まれるだけですね。
それと「○○がレイプされ、中絶されて、ああ妊娠」とかしんどいですけどね。
分かった、分かった、ちゃんとお前ら避妊しろって(笑)。
ピッチャーとキャッチャー
―― 渡辺啓さんとのユニット「あおい」としても活動されていますが、ユニット内では役割分担はあるのですか?
これはよく聞かれる質問ですけど、作品に応じて使い分けています。
「ピッチャーとキャッチャー理論」とか「バッテリー理論」って呼んでいるんですけど、作品に応じて、片方がピッチャーで、もう一方がキャッチャーっていうのが何となく決まるんです。
山田隆道の世界観と、渡辺啓の世界観って驚くぐらい違うんですよ。
仲が良いわりに全然違う。
だから、作品に応じて自分たちの嗅覚が利いて、どっちがピッチャーでどっちがキャッチャーか何となく決まります。
具体的な話をすると、どちらがメインライターになるかですね。
結局二人でやる共同作業というのは構成打ち合せと改稿作業なんですよね。
まず構成打ち合せを二人でやって、初稿をどちらが書くか決めます。
その初稿を書くのがピッチャーで、キャッチャーはそれを見て俯瞰的に見直したり、アドバイスしたり、修正したりします。
要は読者目線で見る感じですね。
それがときに啓であったり、逆に僕であったり。
作品によって、向き不向きがありますからね。
―― 渡辺啓さんとのユニットを組んだきっかけは何ですか?
僕が放送作家だったときに知り合ったのが縁ですね。
啓が元々グレートチキンパワーズとしてタレント活動をしていたんです。
大きなきっかけは彼が主演の舞台脚本を僕が書く機会がありまして。
それは彼の初舞台だったんですよ。
初舞台で怪我させちゃダメでしょ。
月9も出ているし、連ドラも出ているし、野島伸司作品にも出ているし。
そんな子を怪我させられないでしょ。
それで、啓が一番やりやすい役というのもあるので本人と一緒に作品を作ったんですよ。
脇役には失礼かもしれませんが、ドラマや映画は主役が立ってナンボですから。
毎日、僕の家で作っていました。
そのときの脚本執筆が今思うとユニットの原型ですね。
宮崎あおい
そのときの作業が楽しかったんでしょうね。
勉強しだしたんですよ。
彼は芸能活動を休止して、脚本家を目指したんです。
その心意気は親友としては、単純にすごいなと思ったんです。
彼が凄かったのが独学で勉強したんですよ。
わからないことがあったら僕に聞いたりして。
タレント作家と思われるのが嫌だったみたいなんですよね。
日本テレビのシナリオ登竜門ってコンクールに正体を伏せて応募したんです。
職業は「サービス業」って書いて本名で送ったんです。
所属事務所も知らなくて、僕だけが知っていたんです。
最終選考に残ったと日本テレビに呼ばれて、ドアをガチャッと開けたら自分が出演したドラマのプロデューサーとかが座っているわけですよ。
「え?そうなの?」みたいなことになって、結果的には入賞したんですよ。
「実はあれはグレチキでした」って感じでスポーツ新聞に載ったときに初めて所属事務所が知ったんですよ。
「内緒で何やってるんだ~、なかなかやるな!」みたいになって。
まだ、プロですぐ活躍できるかたちではなかったんですが、はまったんでしょうね。
彼は僕と違って映像が好きなんですよ。
自分がドラマに出演していたからでしょうね。
だから、彼はソロではドラマの脚本などを書いているんです。
昔から何かしたいねって話はあったんですよ。
それと、お互い同じような職業でありながら、目指すところが微妙に違ったのでぶつかることがなかったんですよ。
音楽で例えると演歌とロックの違いと一緒で。
そんな二人が組んだときのユニットが「あおい」ですね。
いわゆる一つのレーベルです。
「山田隆道」と「渡辺啓」と「あおい」の三つは別々のブランドがあるって感覚ですね。
―― ちなみにユニット名の由来は何ですか?
5分ぐらいで決めたんですけど、オフィシャルには「まだまだ青い二人だから」ってことになっていて「謙虚な気持ちを忘れずに、これからもやっていきます」みたいな。
でも、本当は命名当時二人とも「宮崎あおい」が大好きだったので。
だから、「まさみ」とか「エリカ」とかに変わっていく可能性もあったんですよ(笑)。
今なら上戸彩で「彩」かもしれません(笑)。
多忙なスケジュールのなか次々と作品を生み出しつづける山田さん。
その創作活動には信念に基づいたライフスタイルがあった!
次回は、作家の卵たちに対する苦言・提言・アドバイスを含めた山田イズムをお届けします。
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