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漫画原作者のお仕事-山田隆道第5回-[主人公論]と創作活動における最終的な目標

掲載日:2008.11.28

漫画原作者のお仕事 山田隆道 パート5

漫画原作、コラム、エッセイ、そして小説と多岐に渡って文筆活動を展開する山田隆道さん。
彼が今日のポジションにたどり着くまでにはどの様な道のりがあったのか?
そして、創作活動における信念は何なのか?
貴重なお時間をいただき敢行した全5回の超ロングインタビュー。

作家 山田隆道を構築する源は何なのか?
作家 山田隆道の最終的な目標とは何か?
いよいよ最終回!
第5回は、山田さんのパーソナルな部分に迫ります。

山田 隆道 山田 隆道
漫画原作家・コラムニスト・エッセイスト
大阪府出身。清風南海高校、早稲田大学卒業。
ユニット「あおい」として漫画『彼女色の彼女』『リサーチャー』『借金カノジョ』などを発表。
さらにコラムニスト、エッセイストとしても活躍しており、数多くの雑誌などでエッセイの連載を抱えている。特にプロ野球(阪神ファン)には造詣が深く『ベースボールマガジン』や『ベースボールタイムズ』などの野球雑誌で連載を抱えるほか、その他のメディアにも出演や寄稿が多い。別名「80年代プロ野球をこよなく愛する男」。
また、テレビ・芸能界の事情にも精通している。
山田 隆道 Official Blog 山田 隆道 Official Blog

あおい 【What's あおい】
渡辺啓と山田隆道による作家ユニット。
まったく異なる2つの個性が絶妙な化学反応を起こし、漫画原作、映画ドラマ、単行本、舞台など様々なジャンルの作品を'雑貨屋'の如く生み出していきます。
オフィシャルホームページ

【漫画】
彼女色の彼女』(あおい名義 / 幻冬舎)コミックス1~2巻発売中
彼女色の彼女 (1) / あおい , やしき ゆかり 彼女色の彼女 (2) / あおい , やしき ゆかり
リサーチャー』(あおい名義 / 幻冬舎)コミックス1巻発売中
リサーチャー (1) / あおい , 箸井 地図
『借金カノジョ』(あおい名義 / 幻冬舎)VISIONCASTにてドラマ版配信中!
VISIONCAST  VISIONCAST VISIONCAST

【小説】
『赤ラークとダルマのウィスキー』(ベースボールタイムズにて連載中)

【コラム・エッセイ】
山田隆道の11AM@三軒茶屋』(月刊チャージャー)
山田隆道のにわかでゴメンよ!』(WebMagazine格闘王国)
『野球相伝』(ベースボールマガジン
『山田隆道の男ヂカラ』(月刊クールトランス
『山田隆道の勝手にテコイレTV』(月刊エンタテイメントダッシュ
『山田隆道のR35エンタメレビュー!』(月刊エキサイティングMAX
『ちょっとダメ系?B型男子』(マイコミジャーナル)12月12日から連載スタート!
山田隆道のブログに茶々々!』(スポーツナビ)
『山田隆道のスポーツ茶々々!』(PC fan)1月から連載スタート!

【書籍作品】
『芸能界超ウルトラおバカ名鑑』(ぶんか社)2009年1月上旬発売予定!
SMACKGIRL OFFICIAL BOOK 2000-2006』(インセンス出版)プロデュース

常識を打ち破っていますよね

―― 山田さんのパーソナルな部分をお聞きしたいのですが、好きな漫画、好きな本、好きな音楽、好きな映画、好きなものを一つずつ教えてください。

―― 好きな漫画を一つ教えてください。

『リアル』ですね。
井上雄彦先生の。
最初は、そこまではまらなかったんですが、車椅子の高橋君のエピソードからドーンとはまりました。
『リアル』で描かれている高橋君って感情移入できそうにない子でしょ。
物語のキーを握るキャラクターにしては、あまりにも人に好かれないタイプ、上から目線で嫌悪感を与えるじゃないですか。
そういうキャラクターに、最終的にあそこまで感情移入させられるのは作者のプロットの力とし言いようがないと思いました。
そもそも、作り手っていうのは物語のキーになるキャラクターを愛される人物にして大切にするんですよ。
読者に嫌悪感を持たれたら作品から離れていくし。
不良っていうものを主人公におくときも、不良でありながら愛される不器用な人間とかね。
例えば『こち亀』の両津勘吉もメチャクチャな警察官だけれども、少年力というか天真爛漫で絶対に愛される魅力があるから読者は感情移入できるし感動もできるわけです。
なのに『リアル』における高橋君は最初すごく嫌な奴なんです。
それをあそこまで泣かすことできる、彼に感情移入できるようにするのはこれはもう画期的ですよね。
常識を打ち破っていますよね。
野宮とか戸川君とかっていうのは、よくある主人公像だなって。
野宮っていうのは、どうしようもない不良だけど不器用で、本当は根は優しい奴で、よくあるパターンじゃないですか。
戸川君は、口数が少なくて、不器用で、でも一途でまっすぐで、あれ流川ですよね、井上先生の好きなキャラクターですけど。
でも、高橋君に関しては本当に嫌な奴だもん。
嫌な奴を主人公にして嫌な奴であることがずっと変わっていないんですよ。
でも、嫌な奴がちょっと見せる人間らしさとか。
高橋君が18歳の誕生日のときに初めて泣くんですよね。
そのときに、こっちがもらい泣きしてしまうっていうのは「これってすごいな」って。
そういう作品ってあんまり見たことがないじゃないですか。
だから、好きな漫画はいっぱいありますけど、一つっていうと『リアル』です。

リアル / 井上 雄彦 リアル
井上 雄彦
集英社

『週刊ヤングジャンプ』で1999年48号から不定期連載している青年漫画。
作者は『SLAM DUNK』や『バガボンド』等で有名な井上雄彦。
2001年に第5回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した。

【ストーリー】
自身の引き起こしたバイク事故により高校を中退、他人に一生残る傷を残してしまった罪に苛まれる野宮朋美。
車いすバスケットボールの有力選手でありながら、我が強くチームメイトと上手くいかずにチームを抜けた戸川清春。
自尊心が強く、交通事故で下半身不随になったことを受け入れる事のできない高橋久信。
それぞれが向き合うREAL(現実)――。
(Wikipediaより)

長編より短編を書く人はすごい

―― 好きな本を一つ教えてください。

どうしよう。
僕のバイブルは宮沢賢治なんです。
だから、宮沢賢治なんですが。
最近、奥田英朗さんのすっごいファンなんですよね。
宮沢賢治だと、文句なしに『注文の多い料理店』か『セロ弾きのゴーシュ』なんですが。
ここは奥田英朗さんにします。
宮沢賢治は好きなものにしよう(笑)。

好きな本は奥田英朗さんの『空中ブランコ』と言いたいところだが...。
『マドンナ』という短編集。
平凡な40男が主人公の5編の短編が入っているんですけど...。
平凡な40歳のおっさんが主人公の5編の短編集なんて魅力ないでしょう?

―― 無いですね。

どの主人公も格好良くなくて、普通のサラリーマンが主人公なんですよね。
主人公像としては、とっても扱いづらい。
普通はとことん格好良くいくか、とことん格好悪くいくかのどちらかにする。
小説っていうのはキャラクターを描くんですけど、キャラクターを描くという意味では描きにくいんですよ。
描くのが平凡な40代のサラリーマンだから。

―― そうですよね、みんなサラリーマンだと変わらないですよね。

だけど、リアルなんですよね。
あるあると思わせて物語に引き込んで。

あと僕は、長編より短編を書く人はすごいと思っていて。
短編は難しいって。
あの短いなかで完結させるっていうのは。
それを5編も書くっていうのは非常に難しいと思う。
奥田英朗さんは長編より短編の方が面白いんですよ。
長編より短編のほうが面白い人ってすごいな。
『イン・ザ・プール』にしても『空中ブランコ』にしても『マドンナ』にしても『ガール』にしても、あの人の作品は短編の方が『邪魔』とかの長編よりも面白いから。
だから、奥田英朗さんですね。
特に一つあげるなら『マドンナ』ですね。

マドンナ / 奥田 英朗 マドンナ
奥田 英朗
講談社

40代が分別盛りなんて、誰が言った?
見た目は中年、中身はいまだ少年......。
直木賞作家がユーモアたっぷりに描く新オフィス小説集。
四十にして、大いに惑う。

人事異動で新しい部下がやってきた。
入社4年目の彼女は、素直で有能、その上、まずいことに好みのタイプ。
苦しい片思いが始まってしまった(表題作)ほか 40代・課長達の毎日をユーモアとペーソス溢れる筆致で描く短編5編を収録。
上司の事、お父さんの事、夫の事を知りたいあなたにもぴったりの1冊です。
(講談社BOOK倶楽部より)

「評価が足りん!」って思うんです

―― 好きな音楽を一つ教えてください。

一つか...。

さだまさしさんの『パンプキン・パイとシナモン・ティ』。

―― どういった理由で?

可愛いですよね、絵本だもん。
あの人の音楽は文学ですよね。

さだまさしさんって、もちろん評価されているし、すごい人なんだけど、それでももっと評価されないとダメだと思っているんですよ。
「評価が足りん!」って思うんですよ。
「まだ足りん」と。
極端な話、美空ひばりさんぐらい評価されないとダメだと思っているぐらい、すごい人だと思うんですよ。

さだまさしさんをよく知らない人たちの「暗い曲を歌う」とか「難しい曲を歌う」とか、そういう風なイメージを持たれているのが僕は歯がゆくて。
『償い』とか『防人の詩』とか『精霊流し』とか良い曲はたくさんありますけど、本当にさだましさんが輝くのは楽しい曲を歌っているときだと思います。
楽しくて、ちょっとホロッとさせる曲を、かわいらしい曲を歌っているさだまさしさんが一番魅力的だと思っていて、それをぜひ知ってほしい。

そのなかでも『パンプキン・パイとシナモン・ティ』。
36歳で未だに独身で恋愛に不器用な喫茶店のマスターが常連の美少女に恋をする話なんですよ。
だけど、お人よしで口下手なマスターだから初めてかけた言葉が「まいどありがとう」だけだったという。
とっても、可愛いでしょう。

本当はそういうところが、あの人の一番すごいなっていうか、温かいなって思うところなんだけど。
結構、違うところを評価されているんで「それは違うぞ」っていうのを言いたくて、あえてこれを選びました。

夢供養 / さだ まさし 夢供養
さだ まさし
フォア・レコード

シンガーソングライターさだまさしの1979年4月10日発表のソロ4枚目のオリジナル・アルバム。

【収録曲】
1. 唐八景-序
2. 風の篝火(かがりび)
3. 歳時記(ダイアリィ)
4. パンプキン・パイとシナモン・ティー
5. まほろば
6. 療養所(サナトリウム)
7. 春告鳥
8. 立ち止まった素描画(デッサン)
9. 空蝉(うつせみ)
10. 木根川橋
11. ひき潮
(Wikipediaより)

それでもまた見ちゃうぐらい好き

―― 好きな映画を一つ教えてください。

また、二つだな...

―― これ意外に一つっていうのが難しいんですよね。

...『戦場のメリークリスマス』。
一つだったら...。

―― それはどういった理由で?

僕は戦争映画が好きで。
良いなって。
良いなって言うと語弊がありますが...。
やっぱり、生きるか死ぬかの瀬戸際で一生懸命生きていた人たちの物語ってやっぱり泣けるじゃないですか。

最後のデヴィッド・ボウイの「私は間違っていたんですか」ってセリフが特に。
いわゆる戦争っていう世界の中で...。
これ以上言うと映画評論になっちゃいますが。
とにかく、音楽といい役者といい全てが。
何回見たのかな?
7回くらいは見ていますね。
それでもまた見ちゃうぐらい好きですね。

戦場のメリークリスマス / 大島 渚 戦場のメリークリスマス
大島 渚
ポニーキャニオン

太平洋戦争下のジャワ山中に建つ、日本軍の連合国軍捕虜収容所。
そこでつづられる日本とイギリス双方の軍人たちの確執や奇妙な友情、そして残酷かつ美しい愛情の日々。
大島渚監督が日英合作で描く、戦争ヒューマンドラマの傑作である。
キャストを見ても、デヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけし、トム・コンティ、ジョニー大倉、ジャック・トンプソン、内田裕也など豪華多彩。
それぞれが持ち味をフルに発揮しながら、極限状態に置かれた男たちの心情を赤裸々に表現している。
ラストで「メリークリスマス、ミスター・ローレンス」と唱えるビートたけしの大映しの笑顔は、映画史上に残る優れたショットでもある。
坂本による音楽も大ヒットするとともに、世界的に高い評価を得た。
(Amazon.co.jpより)

メッセージの部分が好き

―― 好きなものを一つ教えてください。

宮沢賢治です。
これはもう小さい頃から。
それも、宮沢賢治の絵本。

僕、おとぎ話とか絵本とか童話とかが好きなんですよ。
単純明快だけど。
サスペンスとかミステリーとか、そういうのはあんまり好きじゃないんですよ。
物語の面白さとか正直どうでもいいというか。
どうでもよくないですけど。
複雑なプロットとか、緻密な構成とかよりも「Aさんが何々をして、何々して、何々だったとさ」っていうシンプルな物語のなかに、すごく言いたいことが一つ込められている。
そして、その言いたいことがズシンとくるっていう、そのメッセージの部分が好きですね。

宮沢賢治の作品は全てシンプルで、読むと教材になっているんです。
僕、教育とか好きなんですよ。
本当に学校の先生になりたくて、小学校の卒業文集には「金八先生になりたい」って書いていましたからね。
だから、この仕事をしていなかったら先生になりたかったですね。

それと、コラムやエッセイを書いていても最終的には言いたいことを伝えるために、分かりやすく書ければいいっていうのは自分のなかで一貫している考え方なんですね。
言いたいメッセージがハッキリしていて、それを伝えるためにはシンプルで読みやすくっていう。
そういう感じで、自分の核になっていて、あらゆる仕事の根幹にあるのが宮沢賢治ですね。

注文の多い料理店 / 宮沢 賢治 注文の多い料理店
宮沢 賢治
角川書店

そこでは森と人が言葉を交わし、烏は軍隊を組織し、雪童子と雪狼が飛び回り、柏の林が唄い、でんしんばしらは踊り出す。
暖かさと壊かしさ、そして神秘に満たち、イーハトーヴからの透きとおった贈り物―。
賢治の生前に刊行された唯一の童話集。文庫本で可能な限り、当時の挿絵等を復元する。
(Amazon.co.jpより)

セロ弾きのゴーシュ / 宮沢 賢治 セロ弾きのゴーシュ
宮沢 賢治
角川書店

楽団のお荷物だったセロ弾きの少年・ゴーシュが、夜ごと訪れる動物たちとのふれあいを通じて、心の陰を癒しセロの名手となっていく表題作。
また「やまなし」「シグナルとシグナレス」「氷河鼠の毛皮」「猫の事務所」「雪渡り」「グスコーブドリの伝記」など、賢治が生前に新聞・雑誌に発表した名作・代表作の数々を収める。
(Amazon.co.jpより)

教科書に載る

―― 最後に今後の活動、目標を教えてください。

本格的に文芸に進出します。

「やっぱ、そこか...」と思うんですけど、たどり着いたのが小説になっちゃったんです。

11月12日から初めての小説『赤ラークとダルマのウィスキー』が『ベースボールタイムズ』で連載されます。
野球をテーマにした小説なんですけど、タイトルの題字をあのプロ野球ニュースの初代キャスター佐々木信也さんに書いてもらったんですよ。
楽しみにしてください。

―― また締め切りが増えますね。

だから、先行して書いていて、もう何本かのストックがあります。
酒を呑んで締め切りを守れなくても大丈夫なように(笑)。
それが、11月12日から始まって、完結するのが来年の夏終わりぐらいを予定しています。

だからといって漫画をやめるわけじゃないですよ。
漫画が好きだから。
要は「表現の仕方をもう一つ増やす」っていうのが一番近い目標で、最終的には「教科書に載る」。

僕は宮沢賢治に憧れているから。
夢みたいなことを言っているのはわかりますが、最終的な目標はそれです。
ミリオンセラーとか、ベストセラーとか、直木賞とか、スーパースターになるとか言うじゃないですか。
でも、そんなの面白くないって考えていて、役者とかミュージシャンとか文筆家という人たちが、みんな言わなかったことって何だろうなって思っていて。
そんなときに「教科書に載る」っていうのは誰もいないなって思って。
半分ネタですけどね(笑)。
ネタじゃなくて本気で、教科書に載るって良いなって思って。
自分が死んだ後に残るってことなんですよね。
だから「教科書に載る」っていうのが最終的な目標かな。

編集後記

少年のような笑顔と、止まることなくあふれ出る言葉。
気づくとインタビューは2時間にも及んでいました。
お酒が好きだという山田さん。
もちろん、インタビュー終了後は酒席で第二幕が開かれることに。

道中の会話で印象に残っているのは「実は音楽一家に育っているんで、音楽の道に進む才能がなかった自分はコンプレックスの塊なんですよね。」という言葉。
「なりたい自分」ではなく「なれる自分」を探すべきという山田さんの人生観に感じた真実味、重みは山田さん自身の人生が表れていたのか...。

また、「放送作家として成功といわれるものを体験した自分が、文芸の世界で飯が食えるようになるとは思えなかった。だって人生そんなに都合よくできてないじゃないですか。まあ運が良かったんですけどね。」と笑いながら語っていた姿が印象的でした。


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