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マンガ評論家夏目房之介氏に聞く『マンガ世界戦略』『ゲゲゲ世界戦略』

掲載日:2007.09.04

世界と日本のMANGAのいまをレポートする連載企画『~なるほどTHE MANGA WORLD ~』。その第4回は、日本のマンガ評論の第一人者、夏目房之介さんにご登場いただきました。
夏目さんが2001年に執筆した『マンガ 世界 戦略~カモネギ化するかマンガ産業~』の出版後6年経った今、世界各国のマンガ事情がどう変化しているかについてインタビューしました。
約2時間、現在の世界市場について大いに語っていただいたロングインタビューとなったため、日本およびフランス、アメリカ、ドイツ、東アジア(韓国中心)など各国マンガ事情に分けてレポートします。

マンガ評論家夏目房之介氏に聞く、2007年度版『マンガ世界戦略』『ゲゲゲ 世界戦略』


プロフィール 夏目房之介
1950年8月、東京に生まれる。獅子座A型。青山学院大学文学部史学科卒業。マンガ家、イラストレーターとしてのみならず、評論、エッセイ、講演、テレビなど幅広い分野で活躍する。海外ではマンガ評論家として高い評価を受け、各国のシンポジウムにも度々招聘されている。1999年、マンガ評論における業績で第三回手塚治虫文化賞特別賞を受賞。
■著作一覧

作品解説 : どうする日本マンガ? 夏目房之介が世界各地で見た「国際化」に戸惑うマンガ・アニメの現状。「マンガと異文化」「アジアからみる日本」「これからのマンガ」など、脱「カモネギ化」構想つきの世界マンガ論。
2001年 小学館刊

21世紀のマンガ世界戦略は欧米から

――この本の出版から6年経ちましたが、その後の各国マンガ事情の変化についてお聞かせください。

この本を書いた時点では、まだアメリカで今のようなマンガブームがまだ来ていなかったんですね。
たしかにポケモンはアニメ放映によってブレイクしていましたが、マンガがブレイクするかというと微妙な時期でしたね。当時、アメリカの市場がここまで浸透するという予想は立てていませんでした。
むしろ、東アジアからヨーロッパ経由の西回りでアメリカに乗り込んだ方がいいじゃないかと。そういう意味ではアメリカ市場の浸透は予想よりかなり早かったです。
もう浸透してしまったアメリカ以外の国の現状については、各国ごとに事情が違います。特にヨーロッパはラテンやアングロサクソンなど民族文化も入り乱れていて、ぐちゃぐちゃです(笑)。
ですからきちんと現地の事情や市場を調査・分析してフィードバックする研究システムが必要です。しかしなから、いまだにそのシステムは整備されていません。

――同一国家の中でも、宗教や言語やら国家の成立過程の問題で地方ごとにばらばらだったりしますよね。

そう。ただ、現時点で国際的なマンガ市場の中心マーケットはどこかと考えると、やはり先進地域の欧米になると思いますね。
東アジア先進地域でマンガ市場が成立しているのは韓国・台湾・香港ですが、いかんせんパイが小さい。要するに通貨の為替レートの問題が大きいのです。
レートの問題で国内の大手各出版社が東アジアで正規に輸出したコミックが現地でかなり売れていた時期でも、各社の海外版権部は赤字だったりしました。黒字に転換できたのは、ドイツで正規輸出版コミックが売れてからだと聞きます。欧州と東アジアでは歴然とした収益額の違いがあるようです。

そういえば先日、テレビでバリバリバリューという番組を観ていたらマンガ家の赤松健さん(代表作『ラブひな』)が「マンガの収入の3割は海外での売上なんだ」と語っていました。おそらく欧米市場での売上拡大の影響だろうと。世界の売上で一番大きい日本マンガ市場はフランスで、ドイツも大きい。そうしたことを考えると、現時点での世界的な日本マンガ市場の中心はやはり欧米なんでしょう。

1975年以降生まれの読者が日本のマンガブームを招いた。

年代的にいうと80年代に、欧米をはじめとして世界的な多チャンネル時代を迎えました。そうした多チャネル時代において、日本製アニメは放映権料が安いという理由で各国の放送局で有力ソフトとなりました。そうした世界的な多チャンネル時代の黎明期に、各国のアニメチャンネルで日本製アニメを視ていた子供たちが90年代に10代になってマンガブームを招いたと思われます。
子供のときにアニメをみた子供からすると、マンガの国籍なんて関係ないんです。だから10代になってオリジナルの日本マンガが徐々に入ってきた時、それを自然と受け入れて読むようになったんです。
今、2000年代になってこうした世代のひとたちが30歳過ぎの大人になっています。こうしたひとたちが大学の博士課程のマンガ研究者になって日本に来たりするんですよね(笑)。

但し、ひとつの世代だけでこのマンガブームを説明すると無理があります。実は、その世代の下に子供のときにアニメでポケモンを観ていたポケモン世代が来ます。この2つの世代のサイクルでマーケットが動くと推測できます。日本で団塊世代と、その下の60年代生まれのおたく第一世代のサイクルを考えてマンガ市場を論じるのと同じように、欧米におけるマンガブームもこの2つの世代サイクルを考えるべきでしょう。

ゲゲゲ世界戦略

マンガとひとくちにいってもさまざまなジャンル、さまざまな作品があり実際にはひとくくりにはできない多様性が日本のマンガにはあります。
そこでマンガ世界戦略を考えるうえでのケーススタディーとして、今年、日本マンガで初めて欧州のマンガ大賞を受賞した水木しげる氏の代表作『鬼太郎大全集』が世界各国の読者に読まれていくには、各国ごとにどんな事に気をつけたらよいかという点にフォーカスし、『ゲゲゲ世界戦略』を伺いました。

【目次】 マンガ評論家夏目房之介氏に聞く、『ゲゲゲ 世界戦略』

■第4回マンガ評論家夏目房之介氏に聞く、2007年度版『マンガ 世界戦略』

・文化圏としては日本に近い土壌があるがビジネス的には難しい。

・なぜ『のんのんばあとオレ』がフランス人の心をわしづかんだのか
・フランス人は日本の下町っ子によく似てる

・不思議の国のドイツ
・キーワードは森

・マンガ文化を持ちえた可能性がもっともあったのはアメリカ
・少女マンガの浸透がひとつのメルクマールになる
・今後の課題は青年マンガが浸透するかどうか
・鬼太郎、ハリウッドへ?

・新しいコミックレンタル流通は、かつての貸し本ブームを再燃させるか
・デジタルコミックには2つの可能性がある
・これからは、日本マンガの新しい仕組みの研究が必要
・番外編:世界マンガ市場最新最新データ

東アジア マンガ事情編

マンガ学校が400校もあるなど、近年は国家的なコンテンツ振興施策としてマンガにかなり力を入れている隣国の韓国。同国では、歴史的背景による反日教育の影響や、自国のマンガ出版が盛んに行われていることもあり、日本マンガの普及が諸外国に比較して遅く、1998年の日本文化開放宣言後に初めて正式に日本マンガが翻訳出版されました。
韓国漫画事情の特徴としては、1990年代からポケット本という日本と比べて小さいサイズの日本マンガの海賊版が出回り始めた後、さらに小さい新書サイズの海賊版をレンタルする貸し本屋が各大学の周辺に増えていった点。また、韓国の消費者はネット上のWEBサイトでコンテンツをダウンロードするのが主流になっており、日本マンガについても男子向けマンガ中心にマンガサイトで違法にダウンロードされている状況のようです。
ただ、貸し本屋やWEBサイトなどで日本マンガを読む層が増えていることは間違いなく、正規の青年向けマンガ誌に「釣りバカ日誌」「沈黙の艦隊」「クレヨンしんちゃん」などが掲載されるなど日本のマンガ市場は徐々に広がっています。

東アジアは、文化圏としては日本に近い土壌があるがビジネス的に難しい。

――フランスに続いて、『鬼太郎』が受け入れられやすいのはどの地域と思われますか?

水木しげる作品に限定すれば、一番受け入れられやすい土壌があるのは間違いなく東アジアです。韓国をはじめとした東アジアでは売れるんじゃないかと思います。
香港でもカンフーの次にニーズがあるのはオカルトマンガです。タイなんかでも安い露天で販売されてるのはピー(妖精)のマンガ、化け物マンガなんですよ。
そういう意味でも東アジアがもっとも文化的土壌が似ている。
東アジアではこれまで日本のマンガに関わらずアニメや萌え文化などを含めた日本のカルチャーは、日本企業側が意図しないところで勝手に浸透してきました。しかし、海賊版の問題もあって、いくら現地の読者に浸透しても儲からないんです。浸透しやすいのとビジネスとして成立するかは別の問題じゃないかと。
そして、東アジアでオリジナルな日本型マンガ市場が成立しているのは韓国・台湾・香港くらいで、いかんせん市場のパイが小さい。マーケットがとても小さいという意味ではどうなんでしょうね。

――確かに中国を除くと、東アジアでマンガが読まれている国は人口も読書人口も少ないうえに、マンガを書店で買って読む人の数を考えると日本と比較にならないほど少ないですね。

韓国に関して言うと、90年代の韓国のIMF不況で韓国の出版界は1/10のサイズになってしまいました。そしてそのときに生き残ったマンガは、男性向けマンガではなくてむしろ純情マンガ。つまり少女マンガでした。
そしてビジネス市場という側面で考えると通貨レートの問題もあり、受け入れられやすいかどうかよりも市場性を考えるべきです。まずは国際マンガ市場の中心マーケットである欧米に浸透するかどうかでしょうね。

フランス マンガ事情編

今年1月、水木しげる作品『のんのんばあとオレ』がフランス最大のマンガの祭典「アングレーム国際漫画フェスティバル」で、ノミネート五十作品の中から、各賞の頂点である最優秀コミック賞を受賞しました。これは日本人初の快挙でもあります。
水木先生も新聞取材に対し、「全然知らない賞をもらってびっくりした。今ごろになってやっとヨーロッパや世界に認められたのだが単に翻訳が遅れただけのことであると思った。しかしうれしいことではある」とのコメント。ご本人もびっくりですが、日本中の水木作品ファンや全国のマンガ読者もびっくりです。
そこで大の水木作品愛読者の一人でもある夏目さんになぜ『のんのんばあとオレ』がフランスで最も名誉な賞を受賞したのか聞いてみました。

なぜ『のんのんばあとオレ』がフランス人の心をわしづかんだのか

――このマンガは日本でも一部のマニアックな読者しか知らないような作品ですよね。フランスでこの作品が受賞したということはマンガがアートとして認められたということでしょうか?

そうです。フランスはアートであるか否かが文化の判断基準ですから。僕もフランスでかつて展示会の準備をした時、まずフランスのインテリ層をこまそうと思ってました(笑)。フランス文化におけるインテリ層の力というのは昔から今まで一貫して強いです。これはフランスが先進国でありながら農業国であることと無関係ではありません。マンガの浸透を考えた場合、この国のインテリ層がアートとして認めるかどうかというのは大きな境目になると思います。

――しかし、『のんのんばあ』は日本でも一部のマニアックな読者しか知らないような作品ですよね。

水木作品は世界に受ける普遍性があると確信していました。だから、なんで世界で売れないのかなぁとずっと思っていました。しかし、あの作品の大賞受賞というのはいきなりでしたね。なにせヨーロッパで一番有名な賞ですから。
実は、僕の知り合いでジャン・ルイという編集者が経営している出版社から翻訳出版されました。その彼はマンガ家でもありアーティストでもありますが、商売人ではない。マニアックでとても良い本を作っていますが、売れない本ばかり出版してる(笑)。

――いかにも水木作品を好きになりそうなキャリアですね。

そう。その彼が、フランスのインテリ層に水木作品が受け入れられるにはどうすればいいのかと考えて、ある戦略をたてたんです。フランスにはそもそも、妖怪マンガというジャンルが無いし馴染みも薄い。フランス人読者に馴染みがあるのは自伝マンガなんだと。その伝統に沿って、「まずは『のんのんばあ』を出したんだ」と彼は言っていました。

編集部注:『のんのんばあとオレ』は、少年時代の水木先生と、実家に出入りし先生に多大な影響を与えたおばあさんの"のんのんばあ"との触れ合いを軸に、少年時代の思い出や妖怪にまつわるエピソードなどが盛り込まれた自伝的な要素の強い作品

最初にこの自伝マンガを読めば、水木氏の作風に慣れるし、作中に自然と妖怪が出てくるから妖怪にも慣れる。妖怪というのはこういう風にリアルなものなのだと。
そのあとに水木作品を出版していったから上手くいったと彼はいうんですよね。各国事情を考慮したマンガ戦略とはこういうことなのか、と目から鱗が落ちましたね。

フランス人は日本の下っ子によく似てる

そして、実はこの大賞受賞の裏側にはフランスにおけるBD(バンドデシネ)の力も大きく働きました。

編集部注:BDとはパリの上流階級のエリート層に「9番目のアート」として支持されたフレンチコミックのこと。階級社会フランスでは属する階層により興味の対象が大きく異なり、スポーツでいうと、上流階層は下流階層が好むサッカーにはあまり関心がなくテニスやゴルフを好む傾向がある。その上流階層で、今一番スノッブ受けする日本に関する話題は日本のアキバ系、萌え文化なのだという。

このひとたち中心に、そろそろ日本マンガをBDが認める水準の文化として認めようという機運が高まっていたんですね。ですから、この『のんのんばあ』の大賞受賞はBDのひとたちが日本のマンガをついに認めたという証でもあったんじゃないでしょうか。
フランスは文化帝国主義とよく言われるように、他国から自国に流入してくる文化に対して、受け入れる前に必ずジャッジをするのがフランス人です。受け入れられる水準の文化、作品なのかというジャッジ。
文化意識がすごく高いし、認めるまではすごくうるさい。日本の下町っ子と同じで認めるまではすごく厳しいけれど、いったん認めてしまうととことん受け入れる国です。それがアメリカとは全く異なるメンタリズムですよね。


日本でも有名なバンドデシネ作家、エンキ・ビラル氏の代表作。リドリースコットやリュックベンソン等世界中の映像作家にも多大な影響を与えた。

ドイツ マンガ事情編 不思議の国のドイツ

フランスでは『のんのんばあとオレ』が賞をとりました。次に鬼太郎が目指すべきは、フランスを凌ぎ、EU経済圏でもっとも大きい市場を持つドイツ。ドイツは世界最大のブックフェア「フランクフルト・ブック・フェア」を開催している世界有数の出版大国でもあります。
但し、ドイツ政府などの公式的なデータがあまり存在しないこの国のマンガ動向は依然として謎につつまれており、ジェトロ(日本貿易興行機構)によるドイツマンガ市場調査でも、数値データのあるフランスとは異なりその市場規模もはっきりしていません。
鬼太郎がそんなドイツ人に受け入れられるためにはどうしたらよいのか、夏目房之介さんと意見交換を行いました。

――フランスでは賞をとりました。次に、EU経済圏でもっとも大きいドイツ市場で鬼太郎が受け入れられるためにはどうしたらよいでしょうか?

ドイツのマーケットの質は実を言うとよくわからないんですよ。
フランス・ベルギーと違ってドイツにはB.D文化がありませんし、文化的な土壌がよくわからないんです。現地の関係者に聞いた限りではドイツではもともとマンガという文化自体がなかったんだと。
マンガ以前には、ミッキーマウス、ディズニーものしかなかったんだと。

――ドイツには日本のようにマンガ雑誌という存在もないと聞きます。そんなドイツ国内で、90年代後半に突如として日本のマンガ単行本ブームが訪れたきっかけは何だったのでしょう?

日本と同じく、この時期のドイツ出版界は不況に陥っていました。
そんな不況の時期に、日本のマンガが輸出されたら爆発的に売れたんですね。特にドラゴンボールとか。その後にセーラームーン、ポケモンというアニメ主導でマンガブームが起きました。
しかし不思議なのは、そもそもディズニーの幼児モノしかなかったような地域で、なぜ市場爆発がおきたのか。また、現在のドイツの出版社が日本マンガのマーケティングをどう考えているのかもよくわかりません。

編集部注:カールセン社とエグモント社という大手2社がドイツの日本マンガ市場の8割前後を寡占しているといわれている。


ドイツで生まれた欧州初の月刊マンガ誌『Banzai!!』(2001年創刊~05年廃刊)

ドイツ マンガ事情編 キーワードは森

――ドイツは謎が多い国なんですね。素人の勝手な印象ですが、ドイツは職人も多く伝統的に緻密な文化、精神を好むという点で日本人に似ている点もありそうな感じがします。 水木作品も背景などを部分的には緻密な画風のようですが、緻密なマンガという点でアピールするというのはどうでしょうか?

ドイツといっても統一国家になったのはつい最近で、もともといろんな公国があって文化が北と南でもぜんぜん違うといいますよね。みんながみんなまじめで緻密な性格というわけでもなさそうです。そんな意味でも非常につかみどころがない国。
水木作品自体が緻密な作品かどうかも検討の余地がありそうですが(笑)、個々の画風や国家としての民族性を考えるのは、あまり有効ではないんじゃないかと思いますね。
じつはドイツは、19世紀に『マックスとモーリツ』という有名な絵本を生み出しました。
今でも本屋で平気で売ってます。日本で例えると、葛飾北斎の北斎漫画がまだ一般書店で売れ筋として並べられている感覚ですかね。
しかし、20世紀になると不思議なことにドイツのマンガの伝統が潰えます。
ドイツって大衆文化という感じがしませんし、ファインアートは別にして絵は子供のものとして軽視する傾向がありますよね。ドイツでも例外的に、東ドイツの前衛マンガという現代芸術的なマンガはありましたけど、基本的には文字を尊重する文化。駅や標識などにもアイコンというか絵文字がない。

――確かに、ドイツの空港の中の標識でも、なんでもかんでも文字でびっしり説明されていて絵があまり使われていませんね。

そう。ジャクリーヌ・ベルントさんというドイツからきた研究者が言うには、日本に来て一番びっくりしたのは、なんでもかんでも機械やら動作やらの説明にマンガやら絵がついていることだと(笑)。
ただ、ドイツはフランスなどの日本マンガの売れ筋とそんなに違うとは思いませんけれどね。
個人的には、水木作品とドイツを結びつけるとしたら『森』というキーワードだと思います。

――『ゲゲゲの森の鬼太郎』ですね。そう言われてみると、ドイツ文学や音楽では、森をテーマにした作品が歴史上多い気がします。

そうですね。ドイツは森というものに対してはとても思い入れの深い国ですから。

アメリカ マンガ事情編

スーパーマンやバットマンなど多くのアメコミヒーローが映画としても世界的に大ヒットしてきた、グローバル市場の象徴ともいえるコンテンツ大国・アメリカ合衆国。
映画にしても音楽にしてもわかりやすい作品、流行の最新作中心のマーケット傾向が強い同国において、昔の日本マンガ、鬼太郎のような日本でしか生まれ得ない作品の読者が育つ可能性について聞いてみました。

マンガ文化を持ちえた可能性がもっともあった国

第2次大戦後に、アメリカンコミック界で自主規制コードが作られるなどの社会浄化運動で全部ついえてしまいましたが、実は、マンガ文化という点ではもっとも可能性があったのはアメリカなんです。

編集部注:アメリカ出版界で、1940年代後半から1950年代前半にかけて、恐怖漫画や実録犯罪漫画ブームが到来。
これらの漫画に対する青少年への悪影響の懸念が教育問題に発展し、保護者や学校・教育関係者によって公的な漫画の出版禁止運動が行われた。
その後、多くのアメリカン・コミック出版社は、1954年にコミックス・コード委員会を設立。
そこで漫画の自主規制としてコミックス・コードが作られ、流通されるほとんどすべての漫画にコミックス・コードの認可シールが張られるようになった。

あの社会浄化運動がなければ、日本より先にバラエティー豊かなマンガ文化が生まれたんじゃないかと。もともと、米国には女性向けマンガやホラーマンガも存在しましたし。
自主規制コードによって潰えてしまいましたが、実際に水木さんもこの国に存在したホラーマンガに影響を受けているはずです。そういう意味で源流は遠くないんじゃないでしょうか。
知りあいのアメリカ人研究者は、日本マンガの発展の原因はテレビアニメと仲が良かったということじゃないかと言います。
さきほどのマンガブームとアニメブームの関係やサイクルにのっとって、テレビアニメとマンガが共同歩調をとって発展していけた。

――日本では結果的に、マンガのキャラクターマーチャンダイジングやアニメ化で漫画業界とアニメ業界が共同歩調をとれた、ということでしょうか?

そうです。アメリカではそれがなく、マンガがより早く新聞紙上の風刺マンガの形で発展し、マンガ・アニメはテレビではなく映画とともに隆盛を迎えた。そういう意味でアメリカはマンガとTVアニメが歴史的に共同歩調を取れなかったようです。アメリカの研究者は今でもそれを悔しがっているみたいです。
アメリカのテレビ文化と日本のテレビ文化は近いというか、日本がアメリカの影響を受けているという意味では日米の文化は意外と近いような気がしますね。
ですから、水木作品もアメリカで受け入れられないというわけではないんじゃないかと思います。
ただし、どの文化的チャネルから浸透させるかというのが問題ですね。これはかなり難しい問題ですから。


米国においてアメコミ表現がどのように変化してきたかを政治や戦争との関係とからめて論じた専門書。

アメリカ マンガ事情編 少女マンガの浸透がひとつのメルクマールになる

そのアメリカでは今、少女マンガが浸透しつつあります。
「アーチー・コミック」など男性が描いていたアメリカの少女漫画しか知らない読者が、日本の少女や女性たちが描く少女マンガにびっくりしたんです。自分たちが投影できる自分たちのメディアがあるということで、アメリカの女性読者たちにとっては眼からうろこ状態。
そもそも日本と東アジア以外ではマンガは男性主体のメディアで、女性が読むメディアではなかった。そんな状況の中に突如あらわれたのが、女性が語るべきことを語り女性が読むメディアである日本の「少女(女性)マンガ」でした。
実は、これは日本にしかないメディアだったんです。
少女マンガがアメリカで浸透するという意味は、部数以上に大きな意味があります。そして不思議なことに、男性向けよりも女性向けマンガのほうが女性の自己表現欲、自分も描き始めたいという欲をなぜかかき立てるように見えます。
少女マンガというメディアが持つ意味が日本と他国で違うんじゃないかと。
この新しいメディアが欧米でも受け入れられています。この現象は、アメリカではマンガが一過性のブームではなくて、真の意味で受け入れられて着実に根を張っているということを意味していると考えています。
そして日本マンガの浸透はアメリカの流通形態をも変えてしまいました。
従来、コミック専門店という小さなチャネルにとじこめられていたコミックが、日本マンガによって一般の書店でも売られるようになった。これは従来の地位の低い一ジャンルとしてのコミックスではなく一般の出版文化としてのマンガが開拓されたことを意味します。
この大きなマーケットの変化が起きた上で少女マンガが浸透していることは、想像以上に大きな可能性をもつと思いますね。


米国の最大手マンガ出版社ビズメディアの創設者が語る「米国人はいかにしてMANGAを読むようになったか」

アメリカ マンガ事情編 今後の課題は青年マンガが浸透するかどうか

残りの課題は多様性ですね。アメリカで多く読まれているのは、まだ『NARUTO』を初めとする少年マンガだけ。
青年マンガが受け入れられるのがいつかということが大事です。
日本では、60年代、70年代にかけて若者文化の革命があった。その革命が、世界的には若者はいつかマンガを卒業するものなのに日本の若者がマンガを卒業しないという社会的条件につながりました。
アメリカや世界で今後、そのような社会的条件が発生するかということ。アメリカでは青年向けマンガ文化はかつてアンダーグラウンドに流れ、フランスではBDなどのアートに流れ、オルタナティブ化した。
日本においては少年のものだったマンガが青年文化になる過程で水木作品があらわれました。
アメリカでもこの青年マンガが浸透したときに水木作品が受け入れられる時なんじゃないかなと思いますね。そして、これは今起きてもおかしくないことだといえます。

アメリカ マンガ事情編 鬼太郎ハリウッドへ?

――最近、韓国や中国で何百ものマンガ学校が作られていると聞きます。
グローバル=アメリカ市場だとすると、映画での成功同様に、近隣の東アジア諸国でハリウッドスタイルを研究して作られたマンガが日本より先にアメリカで成功するという可能性についてはどう思われますか?

これまで、日本のマンガブームというのはいわゆる「ジャパンクール」というような雰囲気に支えられてきました。ジャパンクールというからには、いわゆるアメリカ的ではないもの、グローバルというか無国籍ではないものですよね。
アメリカで受け入れられるようなマンガをつくり、これを流通させることはできると思います。
たとえばジョン・ウーの映画がハリウッドでヒットしましたが、これは従来の香港でしか制作できないような香港アクション映画だとは言えません。香港アクションの成功ではなく、あくまでもハリウッド映画としての成功ですよね。
一方で、宮崎アニメをそのままの作品としてアメリカに持っていったら上映館を制限されました。
これはいまの映画配給の仕組みからすると仕方がないことです。
日本の作品をそのままの形で持っていってもメインカルチャーではなく、カウンターカルチャーの域を出ません。ただ、無理にメインカルチャー風に作っても、それを日本のマンガとは言えないでしょう。それだったらむしろ、カウンターカルチャーのままでいいんじゃないでしょうか?
日本らしさを保持したままでカウンターカルチャーのままでいるのか、日本らしさを失ってアメリカスタイルのマンガになるのかという選択。しかし、日本らしさを失ってしまった時に、はたしてそのマンガに商品価値があるのかという問題もあります。

――無理にハリウッドスタイルで作ってもそれは日本のマンガではなくハリウッドスタイル=アメリカスタイルのマンガでしかないということですよね。

そう。好みの問題ですが、その作品が持つ固有の味わい、日本にしかないようなマンガの魅力、鬼太郎の魅力をそのままの形で伝えられるような流通のやりかたを考えたいのなら、そのほうがよいでしょうね。

最新 国内マンガ事情編 コミックレンタル流通は、貸し本ブームを再燃させるか

21世紀の日本マンガの世界戦略を考えるうえで、欠かせないのが国内のマンガ市場動向の変化。
今年に入り、レンタルビデオチェーンのTSUTAYA・GEOでついにレンタルコミックが始まりました。低迷する国内マンガ市場の中で登場した新しいチャネルであるレンタルコミック。
いま、好調と言われる日本映画市場を考えると、80年代~90年代にレンタルビデオが市場として拡大し、新旧の日本映画をレンタルで借りて観る層が育ったことが今日の邦画興行収入が好調の遠因だとも。
近い将来、レンタルコミックが根づけば、レンタルビデオ同様にふだんマンガを買わない層がレンタルコミックを借りて読み、将来的にはマンガ購入層になるという映画と同じ流れができるかもしれません。
そこで、夏目さんにこのレンタルコミックやデジタルコミックなどの新しいマンガチャネルの可能性について聞いてみました。

――著書『マンガ世界戦略』では、韓国の貸し本流通と一般出版流通では異なるニーズが存在すると書かれていましたね。最近、日本でレンタルコミックが始まりました。レンタルコミック流通という新しいチャネルの登場により、日本でもかつての貸し本文化が再燃する可能性があるのでしょうか?

根づく可能性がありますね。日本のマンガは他国に比べ相対的に安いですから、現在のマンガ不況の原因も高いから売れないということではなく、マンガを置くスペースが家にないから買わないし売れないということもありますよね。特にコミック誌を置いておくのは大変。だから単行本で読むという傾向が強まってるんだろうと。しかし単行本も点数が多いので全部は買えない。レンタルで欲しいものを借りて読むというのはそういう意味では合理的ですよね。
そもそも我々の世代は若かったころに貸し本を読んでいましたから。

――著書『マンガ世界戦略』では、韓国の貸し本流通と一般出版流通では異なるニーズが存在すると書かれていましたね。
今回のレンタルコミック流通においても、大手コミック出版社に代表される一般の出版社以外にレンタルコミック専門の出版社が出てきて、レンタルコミックならではのマンガを制作し流通させるようになると新しいニーズが生まれてくるんじゃないでしょうか?

そうですか。僕の感覚では、レンタルコミックではブックオフに置いてあるようなちょっと古い長編作品のニーズがあるんじゃないかと。僕の読みたいマンガってブックオフにあまり無いんですよね。たぶん読者が買った後にブックオフに売らずに家にとっておくようなマンガが多いからでしょう。

――ブックオフには売ってないけど、古本屋で探して高値で買うまでもないという位置のマンガにレンタルニーズがあるということですね。

ええ。それと日本のマンガの過去の膨大な発行点数を考えると欲しいものを全部買うスペースがもう無いですから。そんな理由でレンタルコミックのニーズがあるというのが僕の考えです。
今の日本人がマンガを読まなくなっていると言われていますが、世界的に見ると相当読んでます(笑)。
マンガを全く読んでないと言うひとでもよくよく話を聞くと『釣りバカ日誌』とか『ゴルゴ13』だけは全巻持ってますと答えたりしますから。それは読んでるって言うんだろと(笑)。
しかしその人たちは自分が持ってるマンガをマンガと認識してはいないんですよ。日本でマンガを読むひと=おたくというのは一般的なイメージじゃないですか。。

――『釣りバカ』はマンガ好きだから買うのではなく『釣りバカ』好きだから買っているだけ、ということですよね。買うマンガは好きなマンガ家の作品や好きなジャンルの作品だけ、というのが日本の一般的なマンガ読者かもしれませんね。

商業的に成功するどうかはわかりませんが、そうした「一般的な」マンガ読者を呼び戻すにはレンタルというのは、けっこうあっているんじゃないかと思います。

最新 国内マンガ事情編 デジタルコミックには2つの可能性がある

――マンガ界の新しい潮流として、『となりの801ちゃん』や『きょうの猫村さん』に代表されるWEBやケータイ発のコミックと、デジタルでふつうにマンガを読む若い世代による新しいマンガリテラシーの出現という新しい潮流があります。デジタルだからこそできるというようなマンガの可能性や疑問を感じることはありますか?

実際に自分でデジタルコミックを読んだことはあまりないのですが、既存の紙媒体とリンクした形でネット上のマンガアーカイブが作れるし読めるという可能性がありますよね。たぶん今後は、自宅の本棚のスペースの問題やマンガ研究という観点で考えても、ネットでのアーカイブ化という利便性を選択する流れが強くなってくる気がします。それと、デジタル化のメリットとして海外への翻訳出版が劇的に簡単になりますね。
また、海外へのマンガ技術移転という観点で考えた場合、翻訳作業自体が日本マンガを学ぶ最高の教科書になります。
特にタイではマンガ読者自体も自分用のパソコンを持っている中流以上の階層なんですが、タイの出版社のひとに聞くと、タイのマンガ家はマンガをパソコンで描いて出版社に回線で送りパソコン上で読んでいるそうです。
マンガを描く手段、届ける手段、読む手段のデジタル化の流れが世界同時進行で起こりつつあるんじゃないでしょうか。

――デジタルならではのマンガ表現という点ではどうでしょう?

今後、ネット発作品というのは、『きょうの猫村さん』のようなゆるい、ブログ的なマンガになってくるんじゃないかと思います。
デジタルを使ってネット上で従来のようなコミック雑誌をつくって編集者がそこに加わっていく、という形ではもうないような気がしますね。
ネットという空間を一般の描き手に開放してあげて、大勢の描き手の好きなようにどんどんマンガを投稿したり、発表してもらう。新しい表現を模索して試行錯誤するスピードという点ではそれが早いような気がします。
僕の知人で名古屋でマンガを描いているマンガ家の女性がいるんですが、彼女がmixi上でポールペンを使ってマンガを描いてるんですよね。ボールペンマンガ(笑)。ひとつひとつのエピソードはどうってことないんですけど、ずっと読んでいくとなんだか微妙な面白さがあります。敷居を低くして読める面白さ、ノンプロ的な面白さというか。
それと、マンガの書き手として面白かったのは、コマの全部ではなく1ヶ所だけアニメーションで動くようなちょっとした表現の面白さ。

――これは先日、取材したしりあがり寿さんもおっしゃっていました。フラッシュマンガというようなものですね。

当然、マンガ創作ソフトの技術進化の問題もあるとは思いますけど、大袈裟にコマ全部を動かしたり、BGMを流したりするのではなくてちょっとしたアクションや音を効果的に使うという面白さがあります。メディアに応じた新しい形のマンガはまだあらわれてなく、それについては現在まだ想像できないですね。デジタル・ペーパーとか技術革新も何がおきるかわからず、変わり始めると早いですから。

最新 国内マンガ事情編 これからは、日本マンガの仕組みの研究が必要

――世界的な出版産業のデジタル化を含め、創作や流通面でかなり早いスピードで変化が起きていますよね。マンガ界に関して、他国状況に比べ日本国内のマンガ学校やマンガの創作現場でのマンガ教育、伝統継承の現状の変化についてはどう思われますか?

たとえば映画の場合、映画の本場であるハリウッドの映画産業がとても理論化されていたものだったので、日本や韓国をはじめ他国の映画人でもその映画理論を学ぶことができました。果たしてそれと同じことをマンガの本場である日本のマンガでできるのかという問題があります。
日本のマンガはほとんどそのような理論化・マニュアル化がなされていません。マンガ家や編集者といったマンガを生み出す現場には、マニュアル化に抵抗感を持つ伝統的な文化があります。

現場では、理論化できないことと理論化しなくてはいけないことが混同されてきたんですね。

――マンガ賞を取るマンガや爆発的に売れるマンガ作りのマニュアルは作れないけど、マンガ理論の体系化が可能だし、必要だということですね。野球で例えると、イチローや野茂にはなれないけれど、野球の基礎や応用を学ぶための野球教則本はたくさん作れるということでしょうか。

ええ。ヒットマンガを生み出すためのマニュアルと創作についての体系的な知識、理論の伝承はまったく異なるものです。そして、体系的な理論の積み上げと伝承無しにハリウッド映画のような教育カリキュラムを組むことはできません。

――マンガの世界化を国家戦略として考えるのであれば、マンガ理論の体系化が必要だということですよね。

そうです。国がやるべきことはそれです。マンガの賞を設立したりすることには全く意味がありません。
まずは体系化した理論研究の前提としてきちんとしたアーカイブの充実が必要で、その整備をする研究機関が必要なんです。
日本にそうした研究者の数は少ないですが、これを理論化することは今であれば可能です。

――これまで日本マンガを支えてきた仕組みともいえる、大手コミック誌の伝統的な編集者制度で伝承されてきたノウハウは体系化できるのでしょうか?

日本の編集者制度は世界的に見てもかなり独特です。理論的にも体系化されていません。他国のマンガ編集者やマンガ家からみると「日本ではそんな馬鹿なことをやってるの?」と思われています。他国の編集者はふつう午後5時で帰ります。5時に帰られたら日本ではマンガが出来ませんよ(笑)。
世界の編集者は日本の伝統的な編集者制度ではなく他の方法論を考えて実践するでしょう。

――日本で伝統的な編集者制度が日本のマンガ市場状況・出版社側の雇用制度の変化により存続しえなかったときにどうするかということですよね。

他国の方法論が別に存在する中で、今後、どのような方法論を選択するかということです。
おそらく、編集者はマンガ家のエージェントのような存在になっていくんじゃないかと思います。
編集者というのはもともと出版社という名の企業とマンガ家という個人の間に立っている、というよりかなりマンガ家寄りの立場に立つ奇妙な存在です。本来、これは編集者ではなく、個人事業者のエージェントの役割です。編集者が本来の会社員の仕組みにそぐわないあまりにもいろんなことを一個人としてやりすぎていたので日本ではエージェントというプロフェッショナルな職種が育たなかったのが実情だろうと考えています。

編集部注:海外では、「出版エージェント」と呼ばれる専門職が存在する。
作家は出版エージェントと契約し、出版エージェントが作家の代理人として出版社と出版化交渉を行う
というのがごく一般的な流れ。
エージェントの存在により、作家は出版社や編集者に原稿を売り込む営業活動にエネルギーを費やすことなく、執筆に専念できるのがメリットがある。
ちなみに日本ではマンガ界に限らず、出版エージェントのような職種はまだ一般的でないとされている。

ですから、会社員でありながらもともとエージェントの役割に近いような仕事をしてきた編集者制度が限界に達したら、本来のプロフェッショナルな職種であるエージェントが日本でも育ってくるんじゃないでしょうか?

――『PULUTO』など浦沢直樹作品を手がけている長崎尚志プロデューサーのようなフリーの漫画家エージェントのような職種ですね。

漫画を作るということに限定すると、エージェントという職種が育てば、必ずしもハリウッドのような理論化は必要ないのかもしれません。
ただ、マンガ批評や評論の役割というのは、日本のマンガを支えてきた従来型の制度が存続し得ないとなったときに、理論の体系化など他の方法論の筋道を立ててあげることなんですよ。
幸いなことに最近、往年の名編集者たちが昔のことを語ってくれるので非常に面白いし役に立っています。
日本人というのは理論化が苦手ですし、現場で使うことも慣れていない。そういう意味ではアメリカ型ではなく、そんな伝え語りの方法でもいいんじゃないでしょうか?
そして日本の伝統と現状にみあった新しい仕組みをきちんと研究しなければなりません。

――マンガ創作の仕組みもそうですが日本特有のマンガ流通の仕組みもそうですよね。

ええ。日本のマンガ流通を支えてきたもの、ジャンプ600万部を実現してきたものは、実はトーハン・日販に代表される世界でも稀な一本化された出版流通インフラです。

編集部注:マンガ流通は発売日に日本全国津々浦々に一斉に配本される世界一の大規模な雑誌流通の仕組みによっている。アメリカを含む他国に、日本のように国土をすべて網羅する流通の仕組みは存在しない。

マンガが他国では日本のように売れないとよく言いますが、そりゃ日本ほどの流通インフラが他国に無いんだから同じように売れるわけがない(笑)。流通の問題は非常に大きいですよ。
日本では戦時体制を引きずったまま出版流通が一極集中化した結果、マンガ流通が一本化されていますから基礎データが膨大に残っています。実は世界一研究がしやすい環境なんです。ただしその膨大な蓄積を体系化したものがほとんどない。マンガでいえば、中野晴行さんが書いたマンガ産業論しかない。
そもそもこれまではマンガというのは研究対象ではなかったんですね。
マンガの世界化ということを考えるにあたっては、これからは研究されていなかったマンガの創作から流通のもろもろをきちんと研究していくことがまずは重要だと考えています。

番外編:世界マンガ市場最新データ

1.『日本と世界のコンテンツ市場データベース2007』で知る、日本のマンガの世界進出状況

出典:ヒューマンメディア刊「日本と世界のコンテンツ市場データベース2007」
【書籍紹介】
国内・海外のコンテンツ各分野の統計・白書から、映画・テレビ・アニメ・マンガ・音楽・ゲーム・インターネット・携帯電話など多ジャンルデータの中から厳選されたデータを抜粋。
「ジャパンクール」と称される海外に進出する日本コンテンツの一つとして注目されるマンガ。
これらは、いつ頃から、どのようなファン層に、どのように受け入れられ、どれほどのマーケットになっているのか。
専門家でも、全てのエリア、全てのジャンルを知る人は少ない問いに、初めて公開実績と海外からのレポートで答えた1冊。
https://www.humanmedia.co.jp

■世界でMANGAといえば、日本のマンガを指す言葉として通じる状況になっている

・日本マンガの海外での権利販売売上は約120億円程度(世界での発行売上の10%で計算)。
・翻訳出版の権利販売を担う日本の出版社は大手中心に十数社程度。

■普及率は東アジア、東南アジア(オセアニア含む)、欧州、アメリカの順

・海賊版の多いアジアでも、正規版出版が増えている。
・世界各国ともに、男子のみならず女子にまで少女コミックが普及、マニアの青年男女にも広がる。

■右とじのマンガ翻訳出版は、欧米においてひとつの文化革命ともいえる現象。

・かつては欧米でのマンガの翻訳出版は、左とじの横文字出版にあわせ版下を逆に印刷していた。
・ここ数年、欧米で広がったファンの「本物を読みたい」という強い要望を受けて、日本マンガと同じ装丁である「右とじ」のマンガ翻訳本が増えている。
・これは有史以来、横文字を左から右へ「左とじ」の本でのみ欧米において、ひとつの文化革命ともいえる現象である。

2.JETROレポート『欧州におけるコンテンツ市場の実態』で知る、欧州での日本マンガ進出動向

出典:『欧州におけるコンテンツ市場の実態(輸出促進調査シリーズ)』
2007年3月 JETRO市場開拓部輸出促進課発行

■欧州のマンガ市場概況のポイント

・日本マンガの各国語訳は近年、急速に出版部数・タイトル数・金額ともに増加している。
・日本側に収益配分相手が少ない(出版社・著者のみ)ため、映画など他コンテンツに比して日本マンガは利益率が高い。
・各国ともドラゴンボール、NARUTOなどアニメ放映された少年冒険ものマンガが一番人気。人気の2番手以降は各国によって異なる。
・各国とも現地出版社が自国ニーズにもとづき、自由に日本の出版社に版権交渉することで現地出版 社のイニシアティブのもとに市場が拡大してきた。
・マンガは活字離れ対策のため、マンガ好きなこどものために図書館に置かれるなど教育的にポジテ ィブな面も意識されている。
・反面、書店や図書館では子供向けマンガとアダルトマンガを識別・分類する方法がないため(連載誌がなくいきなり単行本が発売されるため)、違うジャンルを同じ棚に並べられてしまうなど販売サイド、図書館司書や読者への混乱が生じているのが課題。

■フランスマンガ事情

・フランス政府の公式統計に「MANGA」という分類が新設された。同統計によれば、2004年時点で、日本マンガの発行部数は1,000万部、売上は3,796万ユーロに達している。(フランス出版市場全体の1/40、BD市場の1/10前後のシェア)
・タイトル数は2005年に年間1000タイトルをこえ、現時点では欧州最大のマンガ市場。
・NARUTO最新巻は10万部
・アニメ放映されたマンガが人気だが、ランキング2位の『銃夢』などアニメ放映のないマンガも人気
・特に『ドラゴンボール』、『NARUTO』(2位)の累計販売部数はBDの人気作品と遜色ない数字。
・人気が高いジャンルは、BDの対象読者(青年・少年)が好む少年・青年マンガ。
・1タイトルを全部1社で翻訳出版するケースが基本。版元倒産時は刊行が止まってしまう問題も。
・欧州における日本映画最大のマーケットでもある(北野武監督作品などがアートとして認知
 ※主な観客はインテリ左派といわれている

■ドイツマンガ事情

・出版点数も多く急速に市場拡大中(但し、フランスの半分~2/3程度の市場か)
・大手2社寡占状況のなか、アメリカ系のマンガ出版社が2002年に進出(ハンブルグ支店)、シェアを10%以上に拡大した。
・フランスでは日本映画がアートとしてある程度受け入れられているのに比して、ポケモンと宮崎アニメと一部のゲームキャラクター映画以外はまるで公開されない日本映画不毛の地である。

■イタリアマンガ事情

・仏独で翻訳されてない萩尾望都、いがらしゆみこなどの懐かしの少女マンガ名作の翻訳が多い。
・少年漫画も古い作品の翻訳が充実(永井豪、手塚治虫など)
・文学性の高い作品の需要もあり、翻訳タイトル数も多く、他国に比してバラエティに富んでいる。
・販売面では、キオスクでの販売が主流で、書店でのマンガ販売ややや遅れている。
・独と同じく、伊ではアタックNo.1、セーラームーンが人気で少女マンガ人気が出色。


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