海外MANGA事情

浜野保樹東京大学教授~日本のマンガが「第二の浮世絵」にならないために~

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連載第5回は、コンテンツ産業や映像制作に関する研究開発の第一人者で、今年7月に発表された『国際漫画賞』の実行委員でもある、浜野保樹東京大学教授(海外交流審議会ポップカルチャー専門部会部会長)へのインタビューです。
浜野教授は今から20年近くも前、1988年に出版した著書『ハイパーメディア・ギャラクシー―コンピューターの次にくるもの』にて現在のネット社会の到来を予見していました。
当連載ではマンガ界の方々にインタビューをしてきましたが、今回は、マンガ界の外部からの視点ということで、世界のコンテンツ市場動向・IT動向に精通されている浜野教授に登場いただき、「マンガ版ノーベル賞」を目指して設立された『国際漫画賞』の舞台裏と日本のコンテンツ産業全体におけるマンガの重要性や将来課題についてお話を伺いました。

国際漫画賞設立のウラ側と日本文化の海外発信戦略 ~日本のマンガが「第二の浮世絵」にならないために~

プロフィール 浜野保樹
1951(昭和26)年生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。工学博士。コンテンツ産業や制作に関する研究開発に従事する。最近の主な著書として、『模倣される日本』(祥伝社)『表現のビジネス』(東京大学出版会)『メディアの世紀』(岩波書店)などがある。財団法人黒澤明文化振興財団理事、財団法人徳間記念アニメーション文化財団評議員、社団法人日本料理研究会顧問、文化庁メディア芸術祭運営委員など。
著作一覧
近著『模倣される日本
作品解説 :経済力の復活を切望する日本。だが、今や海外が注目するのは日本の文化、とくにポップカルチャーである。彼らはそれをクール(カッコいい)と呼ぶ。〈模倣する国家〉は〈模倣される国〉へと変貌した。はたして世界を魅了する日本文化の特質とは?
伝統的生活様式に根ざした美意識、多元的価値を認める世界観。今こそわれわれはその意義を認識し、世界に広めるべく文化戦略を築くべきではないか。メディア学の俊英が提言する日本の指針!
2005年 祥伝社刊

国際漫画賞が生まれたウラ側

――まずは最近のエポックメイキングな出来事として、麻生太郎前外務大臣の音頭の下、今年7月に第1回大賞受賞者が発表された国際漫画賞についてお聞かせください。5月の設立発表から大賞の表彰まで2ヶ月弱と期間が短かく随分急な印象があったのですが、これは麻生大臣在任中になんとか設立しようという狙いだったのでしょうか?

賞の発表こそ今年に入ってからですが、賞の設立については発表する1年ぐらい前から麻生大臣がご自身の講演などで構想を語っておられます。その時から、賞の概要や応募の手段、外国のマンガ家の方々への告知方法などもろもろについて(外務省の事務方も)緻密な準備をしていました。
但し、政治家、特に大臣の発言は重いので、周到な準備をして設立が確実になってから発表したわけです。
こうした新たな試みというのは実際に告知してみないと応募があるのかどうかもわからない。しかし、民間主催の賞と違う点は、発表してみてやっぱりできませんでしたということは税金を使って設立する以上許されません。しかも大臣の発意で始めたことですので、慎重に上にも慎重に準備しました。

――実際、記念すべき第1回を終えてみてどうでしたか?

発表する前から、準備をきちんとやって、奇をてらわず粛々と行えば成功するという確信はありました。
蓋を開けてみたら応募期間が短かったのにも関わらず、アジア中心に150以上の応募作品があり、海外のマンガ家の方々にも喜んでいただけたと思います。海外メディアが敏感に反応してくれたことも凄く嬉しかったことですね。

――マンガをはじめとするコンテンツ振興に関わっている省としては「JAPANコンテンツフェスティバル」を主催する経済産業省や「メディア芸術祭」を主催する文化庁などが知られていますが、今回の賞はなぜ外務省主催だったのでしょうか?
大臣がマンガ好きだったから(笑)という理由ではないと思うのですが...。

経産省はコンテンツ輸出などの経済面の担当ですし、文化庁は著作権やコンテンツの内容について担当していますが、海外への日本文化の総合的な発信という点からすると、外務省が担当するものだと思います。
そして今回の賞設立は省庁や業界団体からの働きかけからではなく外務大臣自らが音頭を取られたものです。日本の表現手段が世界に受け入れられたという点でマンガは日本の宝ですから、国としてのきちんとした姿勢を示してくれたことは意義深いことだったと思います。

――今後の国際漫画賞の展開構想と将来課題についてお聞かせください。

今回の賞については、時間があまりなかったため出版社の方々の大変なご協力を得て告知しました。次回からは、フランクフルトなどの世界的なブックフェアでの告知や、各国の大使館を通じてより周知を徹底して、日本発のマンガイベントとしてしっかりと海外に告知していきたいですね。

――日本には出版界の監督官庁がないですよね。情報交流の課題点として、海外の出版社やマンガ家からみて日本と連携してなにかやりたいといった時に日本サイドの相談窓口がわかりにくいと思われています。
今後のマンガ振興の担当窓口となる省庁は外務省になるのでしょうか?

いや、それは切り口次第でしょうね。これまで国内の漫画出版は経済的にしっかり自立していたため、国内側としては出版社などの民間側が窓口となって海外の大手出版社との対応はできていたのでしょうが、海外で日本の漫画人気が高まるにつれ、海外の小さな組織も関心を持つようになると、そういったところが日本の事情も分からず、日本の出版社を1社1社調べて訪ねるのはかなり面倒だし、不可能だという声は出てくるでしょうね。
これからは私企業だけでなく、関連団体などの公的機関の充実と対応が必要になるでしょう。

デジタルマンガが飛躍するうえで必要なもの側

――浜野先生はデジタルコンテンツについても本を書かれていますが、ネットビジネスやデジタルコンテンツ全般におけるマンガの可能性についてどう思われますか?

これはかなり期待しています。というのも、デジタルコンテンツについてはいろいろと新しい試みをやったのですが、まず長尺物は今のところ難しい。90分や2時間前後の長い映像を有料でネットユーザーに見せるというモデルはまだビジネスになっていない。
そういう意味ではマンガ、特に通勤時間で読めて自分のリズムで読み進むこともできるケータイコミックのビジネスモデルは有効だと思います。自分のスピード・自分のリズムでというのはインタラクディブメディアが持つ最大の魅力、双方向性のメリットですから。

――しかし、ケータイビジネスは日本独自のフォーマットでしか読めないうえに、キャリア中心のクローズドなビジネスモデルですよね。デジタルの利点を生かした世界展開がしにくいと言う点では疑問ですが。

現在はそうですね。本当にブレイクするのは、紙で出版された古い作品をデジタル上で読むという今のモデルではなく、ケータイやネットという独自のメディアで読む新しい演出方法が生まれた後でしょうね。ケータイが生んだ決定的な視覚的なコンテンツというものはまだ無いです。
現在のマンガとアニメの中間のような動きのある新しいマンガ演出が必要。アニメで話題になった、新海誠さんの『ほしのこえ』は「動くマンガ」というような感じですよね。かつての手塚治虫作品や24年組による少女マンガもそうでしたが、革命的な新しい演出方法が出てくれば、新しい読者や大きなマーケットが生まれ、フォーマット等の技術革新もそれについてくると思います。
かつての映画界もしかり、そのメディアならではの演出方法が出てくればいろんなことが変化しますから。

――先生には『表現のビジネス―コンテント制作論』という著書がありますが、映像コンテンツ制作研究の専門家の視点からみて、他コンテンツに比較したマンガの制作面の課題を感じることはありますか?

デジタルマンガの制作に関して言えば、スペックやフォーマットが統一されないと難しいでしょう。スペックが一つに決まっていないと作家としても表現も難しい。iPhoneが携帯電話として、携帯型ゲームと同等の比較的大きなディスプレイを使っていますが、ディスプレイについてはあのくらいの大きさは欲しいですね。
また、多くのマンガ名作は、天才的マンガ家と優れた編集者によって生み出されてきました。
マンガの将来的には、従来のマンガ家と編集者に加えて映画監督のような全体をみる演出家のような存在が必要になってくるかもしれません。マンガ制作においても映画・アニメの製作過程に似たフローが出てくれば、今とは異なる演出方法が出てくるんじゃないでしょうか。

――制作の次に、流通についてお聞きします。マンガ界には映画・アニメ界のように作品の企画が生まれてからユーザーに届くまでの全体を統括するプロデューサーや、作家の権利交渉や海外販売ができるエージェントという存在がほとんどいません。マンガの海外展開を考える上で、法律や会計知識にも明るいコンテンツ流通の専門家がいないということは契約面でも販売面でも相当に不利ですよね。

流通は大切です。これまでマンガ界は大手の出版社のマンガ編集者によって支えられてきましたよね。
ただ、どんな世界でも既存の仕組みや商慣行を変えるのは骨が折れますし、歴史的経緯を無視することもできません。
古いものを無理矢理変えるために消耗するより、ネットを生かした新しい制作・流通モデルを一から作り上げた方が早いんじゃないでしょうか。

――流通を握るものが市場を制すという先生の持論からすると、マンガ界で育成すべきはクリエイターや社員編集者というよりむしろ、新しいモデルを作ることができるフリーのプロデューサーや海外流通のプロフェッショナルなのではないでしょうか?

そうですね。しかしコンテンツビジネスというのはすごく難しい。アニメ界の課題も同じです。
ビジネス面で有能なプロデューサーだけ育てても、良い作品が生まれないことには本当の意味ではユーザーに支持されない。突出した作品を生み出せるクリエイターと国内外全体を見渡せるプロデューサーの存在が両方必要です。

マンガ原作映画の功罪側

――マンガ界に比べ、映画界・アニメ界におけるプロデューサー主導型の作品づくりについてお聞きします。
現在、数字的には活況と言われる邦画ですが、実際にはマンガ原作依存・制作委員会を主導するTV局によるプロモーション依存の状況と聞きます。

■邦画の07年上半期作品別興収の上位10本
(1) 松竹「武士の一分」 
(2)東宝「ドラえもん のび太の新魔界大冒険 7人の魔法使い」
(3)東宝「どろろ」
(4)東宝「アンフェア the movie」
(5)東宝「名探偵コナン 紺碧の棺」
(6)松竹「ゲゲゲの鬼太郎」
(7)東映「大奥」
(8)東宝「舞妓Haaaan!!!」
(9)松竹「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」
(10)東宝「劇場版 どうぶつの森」
※オレンジ色の4作品がマンガ原作の映画化作品
※オリジナル脚本の映画化作品は「舞妓Haaaan!!!」1作品のみ。
※出典:文化通信.com
※編集部注:07年上半期の邦画興収上位10位のうち、4作品は漫画原作作品。

映画・アニメ界の将来を考えるうえで、このような現状についてどのように捉えられているのでしょうか?

これまでは自由な表現ができるマンガを映像化しようとするとアニメーションが最もふさわしいものでしたが、いまではCG技術の発達もあってアニメーションにするよりも、実写化した方が興行的に有利であるという結果になっています。マンガの「実写」映画化のビジネスモデルができあがりつつあります。アニメーションは子どものメディアで、アニメファンのメディアで、見る人が限定されますが、マンガを実写化すると中高年層やファミリー層など広い層の観客を対象にできます。どんなに優れた作品でも、中高年層はアニメーションを好ん で見る人は残念ながら少ない。

――ここ10年ほど、大ヒットした日本映画の半分ぐらいは大手配給会社3社×マンガ原作という組み合わせですよね。マンガの実写化という安定路線の中で、オリジナル脚本の映画を作りたい映画人には厳しい状況じゃないですか?

いま、オリジナル脚本の映画なんてほとんどないですね。なにしろプロモーションが難しい。ほとんどの人が年に1、2回しか劇場に足を運ばない中で原作を知らない映画を観に行くことはあまり無いはずです。

――そんな中でシネカノン(『パッチギ』や『フラガール』を製作)はマンガ原作にたよらずにオリジナル脚本でヒットを生んだり映画賞を受賞するなど孤軍奮闘していますよね。

シネカノンはプロデューサーの李鳳宇(リ・ボンウ)さんがとても優秀な方ですし、脚本のクオリティも高くて在日を繰り返し取り上げるなどメッセージ性の強い映画を昔から製作しています。そうしたメッセージ力と質の高さに対する信頼から得たブランドは固定客がついています。自社の映画館という出口も持っていることがなによりの強みで、いざとなれば大手配給会社やシネコンに依存する必要がない。賢明な戦略ですが、他のプロダクションが真似しようと思ってもなかなかできない。
しかし、シネカノン作品を好んで観る映画ファンというのは全体のごく僅かです。というよりも正確に言えば自分で作品を見いだそうとする映画ファンそのものが極僅かです。ほとんどの日本人はジブリファンを含め大ヒット映画のファンです。

――TV局主導の制作委員会方式で、TV局の自社番組枠で大々的に宣伝をする映画でないと一般の人はなかなか映画館に足を運ばない状況です。しかし、国内で強いマンガの実写映画やTV局のタイアップ映画は、海外の映画ファンにほとんど届いていないのですが。

いろんな理由があると思いますが、まず日本の映画は観る前の約束事が多すぎます。「踊る大捜査線」なんかもそうですが、TV番組を観ていることが前提になっていて、そういう観客には面白い。それに自分たちより、なんらかの点で優れていると思っていないと、その国の映画は観ないと言われています。アメリカは何でも自分が世界一だから、インテリ以外は外国の映画はほとんど観ません。

――浜野先生個人として、日本のコンテンツ界全般で、注目している作品やクリエイターはいますか?

アニメーション作家の原恵一監督ですね。彼の良いところは自分の実体験から表現していることです。自分の体験から表現しているから人の心を強く打つ。そこには、泣かせてやろうとか、面白くしてやろうといったあざとい作為がありません。今夏の映画『河童のクゥと夏休み』も素晴らしかった。
ところが最近の若いクリエイターは、実体験からではなく自分が昔観た作品、好きだったマンガやアニメから学んできたものを紡いだ作品が多い。彼らが作るものはよく出来ていて完成度は高いけれど、実体験に基づかないから表現に切実さがない。

――それはアニメだけでなく、マンガでもそうなのかもしれませんね。第2の原恵一は育てられるものなのでしょうか?

才能は育てて育つものではないですよね。フランスのように政府に生活を保障されたり、学校などで保護・育成されたクリエイターの作品は観客から遊離して、面白くなくなり、評論家のものになってしまうことが多い。日本でも最近のクリエイターはテクニックこそありますが作家として表現せざるをえない必然性が希薄なものが多い。

マンガこそ日本のブランド

――日本人はなにを考えて映画を作っているのかわからない、どのようなメッセージを伝えたいのかがよくわからないと海外の映画人に言われる理由でしょうか。マンガ、アニメをはじめとする日本発コンテンツは世界における日本のブランド形成に大きく寄与するという先生の自説からすると痛いことですよね。

海外の方が日本製の商品を使って楽しんだり感動したりすると日本に対して良い印象を抱きます。
昔は日本製商品といえばウォークマンなど高品質の家電製品でしたが、いまやそれはマンガに代表されるコンテンツです。
確かに、マンガがいくら世界中で読まれても、日本人全員が経済的に豊かになるわけではないですが、海外に旅行したりビジネスをしていくうえで相手が日本に好印象を持っているということが個々人にも影響を与えます。そして、経済的にも文化的にも良いブランドを持っていることは重要。但し現在はそのマンガですらまだまだ限られた一部の人にしか届いていない状況です。
今、日本という国の国際社会における発言力・存在感は低いですよね。

――TVや新聞を読んでるだけだとわかりませんが、海外メディアの扱いも年々小さくなってるそうですね。

それは現在の日本人の顔や文化、社会というものが他国からはよく見えないからです。
そうした意味でも、日本のマンガを読んで感動した読者がその作品が生まれた日本や日本の文化に興味を持ちさらに深く知りたいと思うことは自然なこと。これまで日本は、国としてそうしたブランド戦略をやってきませんでした。戦後はずっと、モノや金を海外に提供するという経済支援政策が中心。モノや金は日本の現代社会を直接的には反映していません。やはりマンガなどのPOPカルチャーの方が現代社会の実像や悩みを良くも悪くも反映しています。

――青年マンガや萌えマンガが象徴的ですが、日本のマンガはバラエティーに富んでいるので、よくも悪くも日本の実像が多種多様に描かれていますね。

POPカルチャーを通して、まず日本というものを知ってもらい、中には好きになる人もいるでしょう。
嫌いなやつの言うことは聞かないけど、好きな人の主張は耳を傾ける。
そんな良い関係の中でこそ、我々日本人はこう考え、こう悩んでいるというメッセージが押しつけではない形で海外に伝わるんじゃないでしょうか。そうした意味でも、現代社会のメッセージが含まれた日本のPOPカルチャーを偏りなく届けていくことで、日本というものをありのままに判断してもらおうということ。それでもなお、嫌いであればしょうがない。マスコミでアジアのよく反日的な運動を取り上げますが、それらは極端な例が多く、そういった国でも日本のことを好きなひともたくさんいます。
そしてPOPカルチャーは世界の若者への伝播力が大きい。まだ若いうちに日本の作品に触れてくれれば日本への親和性はこれまでとは比較にならないほど高いはずです。いまの日本政府の中でも、POPカルチャーを通じて外交・経済・文化を総合的に考えていこう機運がすごく高まっています。

――日本も一過性な政策ではなく、イギリスのように本腰を入れてクリエイティブ産業に力を入れていくということですか?

それしかないでしょう。日本が将来食べていく道として文化への期待は大きい。イギリスもフランスもアメリカも先進諸国はどこも文化で食っています。「将来、日本は何で食べていくの?」というときにモノや資源への依存がいまのようではないはずです。島国の日本に無尽蔵にあるのは文化だけです。ファッションやソフトや自動車もモノとしてはもう昔ほど売れないでしょう。

――民間企業が単身で竹槍を持って海外にモノを売っていく時代は終わったということでしょうか?

モノとしてみた場合、すでに日本製品は中途半端に価格が高くてアジア製の安い商品にはかないません。
家電製品の海外での日本製の優位も揺らいでいます。
商品を買うとき、その国を好きか嫌いかは決定的です。そういったイメージの決定している要因の一つがいわゆるコンテンツというものです。
文化をお金に変える仕組みをもっと整備する必要があります。
もしくは海外では売っていないオリジナルを作ること。日本のPOPカルチャー作品が海外でcoolだと言われ始めたのも要するに日本にしかないオリジナルだからということです。マンガはそのシンボリックな存在ですよね。

日本マンガが第二の浮世絵にならないために

――最後に、日本のコンテンツ産業においても核となり続けそうなマンガ界に対してのメッセージをお願いします。

マンガは個人表現に近いメディアですよね。個人が創れるゆえに多様性、オリジナリティもありますからこれからの日本を支えていく存在として期待しています。
それと、映画やアニメ界に比べるとクリエイター個人へのリターンがシンプルですよね。

――大人数での共同製作が必要なアニメ・映画・ゲームは出資企業、プレイヤー企業も多いので個人へのリターンが少なく、制作現場は悲惨な実態ですよね、月給8万円とか...。

そうした意味ではマンガ市場単体では低迷しているとはいえ、メディアミックスやマーチャンダイジング展開の広がりを考えるとまだ余裕がある業界といえるのでもっともっと新しい試みにチャレンジできるのではないかと思います。しかしぼんやりしているとかつての浮世絵みたいな事態になります。「浮世絵」も日本オリジナルの文化でしたが、西洋に模倣されつくし「印象派」という美術ジャンルになってしまいました。

※編集部注:19世紀のフランスにてジャポニズムブームが巻き起こると同時に、西欧の画家たちは浮世絵がもつ自由な空間表現・鮮やかな色使いから強い影響を受けた。そうした中で、絵画は写実的でなければならないとする従来の制約から開放された「印象派」が生まれ、その代表的存在であるルノアール、ゴッホ、セザンヌも葛飾北斎・歌川広重をはじめとする日本の浮世絵から多大な影響を受けているとされる。

今でこそ印象派という呼称になっていますが、あれは本来「印象派」ではなくて「新浮世絵」です。
日本オリジナルを模倣した印象派が台頭したがゆえに、浮世絵は「かつて印象派に影響を与えた浮世絵という伝統表現が昔の日本にありました」という過去の話になってしまいました。
日本のマンガもデジタル流通時代において、世界中のクリエイターに模倣されることで同じ運命をたどる可能性が大いにあります。

――「かつてバンドデシネに影響を与えたMANGAという伝統表現が20世紀の日本にありました」という昔話になってしまう可能性ですね。模倣が上手くテクニックに優れているのは日本のクリエイターだけではないですからね。模倣されつくし、主導権が日本から他国へ移ってしまった最近の例としてはゲームでしょうか。映画でも、黒沢明は世界で模倣されてそのプロットやメッセージなどは日本ではなく現代ハリウッドで引き継がれていますよね。

ですからLike a rolling stoneということで転がり続けないといけません。他業界と比較して、マンガ界はまだ転がり続ける余裕があると思いますので、転がりながら新しいオリジナル表現や演出方法が生まれることを期待しています。



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