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TOKYOPOP日本本社取締役松橋祥司さん-『グローバルMANGA』北米のマンガ市場規模

掲載日:2007.11.22

前回までは、主に国内で活躍されている方々にお話を伺ってきました。今回は、グローバルなコンテンツ市場の中心地である北米でマンガの翻訳出版事業を開始し、現在は欧州など世界各国に展開している世界最大のマンガ出版企業へのインタビュー特集です。
株式会社TOKYOPOP日本本社取締役 ジェネラル・マネージャーの松橋祥司さんに登場いただき、日米のマンガ流通の違いや、同社の『グローバルMANGA』展開についてお話を伺いました。
一部のマンガマニア以外に世界中で日本のマンガがさらに読まれるためには、生活者のライフスタイルにいかにしてMANGAを組み込むかが重要だということがわかります。

世界最大のマンガ出版社TOKYOPOP社が展開する漫画革命『グローバルMANGA』

プロフィール
取締役ジェネラル・マネージャー
松橋祥司(まつはしまさし)
平成15年(2003年)11月、株式会社TOKYOPOPに参画。広告代理店において、キャラクターブランド・マネージメントおよびメディア事業に従事したことを皮切りに、ギャガ・コミュニケーションズにおいて、国際映像&メディア事業のプロデュースを担当、その後ディズニー・インタラクティブ・ジャパン設立およびユニバーサル・スタジオ・ジャパン開業における日本側のマネージメント職を歴任し、ハリウッド系メディア&エンターテインメント企業によるグローバル・コンテンツビジネス展開を推進。現在、株式会社TOKYOPOP取締役ジェネラル・マネージャーとして、TOKYOPOPオリジナルの『グローバルMANGA』作品の企画・制作、アニメ・映画・TV番組国際共同制作、デジタル・コンテンツ事業開発など、世界市場に向けた知的財産の創出と権利事業に関する業務を統括。外務省海外交流審議会ポップカルチャー専門部会専門委員。

TOKYOPOP社について
1996年、東京で起業。現在、海外におけるマンガ出版の最大手企業。
北米における日本マンガ出版のパイオニアとして市場を開拓し、「右開き」の日本マンガの形態を定着させた。北米第2位のシェアを占め、累計約1,500巻、3,000万部以上の発行実績を有している。
現在、日本が産んだ「マンガ文化」を世界のファンに届けるため、人種と国境を超えた世界中のあらゆる作家による"グローバルMANGA"を企画し、オリジナル・マンガ作品の制作事業を展開。その作品は、今や世界40カ国、25言語、100社の出版社から出版されている。さらにマンガを原作とした実写映画、テレビ番組、アニメ制作、デジタル・コンテンツ、マーチャンダイズ商品など、既存の出版社、アニメ会社、キャラクター・ライセンス会社などのいずれの業態も超えて、グローバル・コンテンツ・プロデューサー企業として多様な事業を世界中で展開している。
TOKYOPOPがプロデュースした、『アイズ・オン・ユー ~瞳の中で輝いて~
世界初!実在のアーティストの音楽×コミックのデジタル同時配信。

日本のマンガの流通の違い

――先日、秋葉原マンガフェスティバルにて開催された海外マンガのシンポジウムにて、御社の代表取締役・スチュウアート・リービーさんによる北米マンガ事情についての講演を聴講しました。
海外の出版界からみた、右から読むという日本のマンガの特異性と、マンガ流通の特殊性を強調されていたことが印象的でした。
リービーさんは、国外の企業にとっては、世界最強の著作権ホルダーといわれるディズニー社よりも、日本の出版界と契約交渉をする方がよっぽど大変で勉強になるとおっしゃっていました。
大手寡占型で鎖国的とも言われる日本のマンガ流通において、グローバル企業であるTOKYOPOP社が今後どのようにマンガ出版・販売を展開していくのかについてお聞かせください。

アメリカのマンガ流通というのは成立してからまだ3年ぐらいと非常に歴史が浅いので、まだ確立されたモデルがないんですね。また、『少年ジャンプ』『少女ビート』など一部を除けば日本でいう雑誌が存在せず単行本だけです。
そういう意味では、日米のマンガ流通の仕組みは大きく違います。
アメリカに比べると日本のマンガ流通には長い歴史があるので、雑誌で連載した作品を一定期間後に単行本化するというモデルがありますよね。雑誌連載でプロモーションし、利益をあげるのは単行本という確立したモデル。また、そのモデルは全国的な一斉配本流通によって支えられています。

但し、日本の既存の出版流通は寡占状態ですし、新規参入にあたって条件面などの大きな参入障壁があります。弊社の今後の戦略としては、ケータイ・WEBを活用したデジタル配信をメインにすべきだと考えています。

――昨年、矢沢あいさんがキャラクター・デザインを担当したオリジナル作品『プリンセス・アイ物語』から、自社作品のデジタル配信をケータイとWEBで始めましたね。

ええ。社長のリービーもよく言っていますが、携帯電話でマンガを読むという日本のケータイコミックは、世界でも例がない日本独自の読書スタイルです。
通勤時間でマンガを読むということは、アメリカでは考えられません。アメリカ人はパソコンでできることを、わざわざケータイでやろうとは思いませんし。
ケータイコミックというスタイルは、通勤・通学時に電車で移動するという日本人の生活スタイルと深く結びついていると思います。アメリカをはじめとする海外は、車社会ですから。

――確かに、紙にせよケータイにせよ、マンガを電車の中で読むという現象は日本独自のものですよね。

それと、ケータイコミックに関して言えば、コンテンツ課金の問題をクリアしていることが大きいです。アメリカではWEBやケータイでの有料コンテンツ課金モデルは非常に困難で、テイクオフしづらい。YouTubeなどの例を出すまでもなく、情報やコンテンツは無料で読めるというのが現在のアメリカ文化。学生なんかも違法なものでも平気でアップロードします。幸いマンガは1ページずつスキャンする手間と時間がかかるので、アップロードしづらいですが。
そういう意味でも日本で展開する上では、有料コンテンツを携帯電話で決済することができる仕組みと、それがユーザーに浸透しているケータイコミックチャンネルが非常に有望だと考えています。

日本のマンガ人に世界デビューの機会を

――TOKYOPOPでは、アメリカ、ドイツ、イギリスの3カ国で、マンガ新人賞『ライジング・スターズ・オブ・MANGA』を実施していますね。この新人賞には毎回1,000人以上の応募があり、現在までに出版契約した作家は米国だけでも約100人にのぼるそうですね。

これは、世界中の作家の育成・デビューの機会を広く世界に開放していくというものです。今年立ち上げた、日本語版のマンガ専用SNS『www.tokyopop.co.jp』を活用して、マンガ家やマンガ読者の交流などを深めながら、新しい作品のプロデュースにつなげていきたいと考えています。

――日本語版サイトに先行して開設された、本国の英語版サイトの状況はいかがでしょうか?

現在、約20万人の登録者が集まっていますし、ページビューは月1,500万を超えています。他にマンガ専門のSNSはないですから、弊社としてもこのマンガSNSを活用して、マンガファンの交流の場を創り、作品のプロモーションにつなげています。

――日本語版SNSが開設されたということで、今後はアメリカ同様に、日本のプロ作家やその読者をファンコミュニティに集めていく方向だと思いますが、コミケなどに集まるアマチュアの同人誌作家・学生作家についてはどのようにお考えでしょうか?

コミケはものすごい人数ですよね。コミケットで以前、自社のチラシやパンフレットを配ったことがあるんですよ。うちは作家であれば、プロやアマという出身は問いません。良いクリエイターであれば等しく門戸を広げていくつもりです。

――御社のホームページでマンガ編集者も募集されているようですが、特定出版社に属さないフリーランスの編集者への門戸についてはどうでしょう?

我々が『プリンセス・アイ物語』という作品をプロデュースしたときは、社内に編集者がいなかったんですね。意図したことではなかったのですが結果的に、アニメ制作をされているフリーランスの方にコーディネートをお願いした経緯があります。また、マンガ界で有名なある編集者の方とも一緒に仕事をやっていこうというお話をいただいたことがありますので、フリーの方でもOKです。
但し、マンガ業界に限らず、映画業界なんかでもフリーランスでやっていくというのは日本では相当難しいんですよね。アメリカのように巨大なマーケットがあれば別ですが、日本のような国内マーケットだけだと食べていくのが難しい。

――今後の、マンガの世界展開が成功し、世界市場がマーケットになれば、マンガ界でもフリーの編集者やエージェントというプロフェッショナルな職種が成立しますよね。また逆にプロフェッショナルでないと、アメリカあたりの金融や法律の専門家をはじめとする海外企業との契約交渉は難しいと思うのですが。

そうですね。ただ、現状はマンガ界全体でもそのような人材はなかなかいないですよね。今後を見据えて社内でじっくりと人材育成していく必要があると思います。ですから現在は、担当編集者だけが作家さんの作品をプロモートして行くのではなく、編集・ビジネス交渉・プロモーションなどを分担した、一つのプロデュースチームを組むことで対応しています。

TOKYOPOPのグローバルマンガ戦略

アメリカで、日本のマンガが読まれるようになった大きな理由としては、それまでばらばらだった版型の標準化により、マンガ専門だけではなく一般書店でマンガを置くことができるようになった、という流通上の理由も大きいそうです。「版型が統一で右開き」の日本マンガという、TOKYOPOPが始めたフォーマット戦略・ブランド戦略が功を奏し、マンガが書店店頭のディスプレイで大きく陳列できるようになりました。その結果として、一部のマニアだけではなく、一般読者にもマンガが徐々に浸透していきました。

現在、北米のマンガ市場規模は400億円程度にまで急拡大(編集部注:2001年の約35億円から、2007年にかけて10倍以上の伸び。ちなみに北米の市場規模は日本のマンガ市場の1割弱)。但し、実際にマンガを買って読んだことがある人は全体の1割程度しかいないとのこと。その中でも、メインの読者層は10代の女の子だそうです。そこで少女マンガについての今後の展開像を伺いました。

――かつての表現規制の影響で恋愛物が消えて、アメコミヒーローものばかりになってしまったアメリカの出版界で、ここ5年ぐらいで自分たちの等身大の物語を欲していた女子ティーンエイジャーに受け入れられたのが、日本の少女マンガだったそうですね。
御社のデータによると、実際に男性の平均マンガ購入数が月に約3-4冊であるのに対し、女子の購入数は約6-8冊とのこと。北米のマンガ市場は女性、とくに10代の女の子中心に動いているんでしょうか?

ええ。10代の女性がメインの読者層ですね。アニメ放映の影響で男性読者には『NARUTO』がよく読まれましたが、女性にはアニメ化されていない『フルーツバスケット』が、革命的ともいえるベストセラーとなりました。この作品の影響力で、マンガを読まない一般の読者にも、一気に日本の少女マンガが浸透したんですね。
そもそも、北米は日本以上に活字離れ。アメリカの男性は、本そのものをあまり読まないですね(笑)。映画やアニメ化するなど映像で訴えないと難しい。その点でも、まずは本を読む習慣のある若い女性読者に、少女マンガに親しんでもらうという啓蒙活動に力を入れています。
弊社では、『コスモガール』というファッション誌をはじめ、新聞などの媒体にマンガを連載するなどして、採算度外視で若い女性層の開拓をしてきました。決して、少女マンガだけというわけではないのですが、今後の戦略としても少女マンガは、大切なジャンルです。
また、今後は若年層に人気があるSNSを活用して、オリジナル作品のデジタル配信や映像配信も、その中で展開することを構想中です。将来的にはどこかの時点で、紙ではなくデジタル配信が主流になっていくんじゃないでしょうか。

――映像といえば、映画業界の世界的なエージェント企業として知られる、ウィリアム・モリス・エージェンシー社と提携し、塩崎雄二さんの人気マンガ『一騎当千』(月刊ComicGUM連載中。学園を舞台にヒロインたちが戦う格闘マンガ)を実写映画にする企画が進んでいるそうですね。
三国志をモチーフにしたこの作品のヒロイン役に、アジア人女性が起用される予定だそうですが、これは中国歴史物に根強いニーズがある、中国市場を意識した映画化なのでしょうか?

弊社ではすでに、マンガを原作とした実写映画、テレビ番組、アニメ制作、デジタル・コンテンツ、マーチャンダイズ商品など、多様なメディアミックス事業を世界中で展開しています。
この作品については、特に中国を意識してというより、アジア圏と欧米圏全体をマーケットとして想定しています。

――韓国で純情マンガという女性向けマンガが人気であるように、アジアマーケットでは少女マンガの可能性はおおいにありますよね。中国展開についてはどのようにお考えですか?

中国市場というのは弊社としても意識はしています。しかし、現実的な問題はいろいろありますよね。
中国では国営企業とパートナー契約を結んだうえで進出する必要があるのですが、国営企業であっても契約書通りには事が進まない等、なかなか一筋縄ではいかないですね。また違法コピーの問題も大きい。
紙の出版物である以上、間違いなくコピーされて市場に海賊版が出回ってしまうので、紙では出版しません。あくまでもデジタル配信で、という形になると思います。

グローバルMANGAはクラスター戦略

――日本が産んだ「マンガ文化」を世界のファンに届けるため、人種と国境を超えた世界中のあらゆる作家による"グローバルMANGA"展開を掲げている御社ですが、2004年にイギリス(ロンドン)、ドイツ(ハンブルク)に支社を設立され、欧州市場へ本格参入されましたね。
欧州は北米と異なり、アニメとマンガの客層が異なるため、映像による相乗効果や波及効果が難しいと聞きます。実際に現地に進出してみて、日本マンガに対する各国ごとの読者ニーズの違いを意識されることはありますか?

実はあまり意識をしていません。日本の秋葉原にいるオタクと、世界各国のOTAKUは、雰囲気や格好がとてもよく似ていますよね。世界中のゴスロリファン、世界中のガンダムファンが持つ嗜好性がよく似ているのと同じではないでしょうか?私には顔つきまで同じように見えてきますから(笑)。
恐らく、TOKYOPOP作品の読者は、世界中でよく似ているんじゃないかと思っています。

――ドイツのマンガ市場シェアの第二位に入っていますが、まじめで硬い印象のあるドイツでも日本の少女マンガは、やはり受け入れられているのでしょうか?

う~ん。難しいですけど、ドイツ人だからということは意識してないんですよ。確かに、各国ごとに日本マンガの売れ筋や店頭のラインナップが異なる傾向は多少あります。ただ、それは結果論ですよね。売れ筋が異なった理由としては国民性による読者ニーズの違いというよりも、現地出版社の取り組みの違い。たまたま翻訳出版した作品や作家のラインナップが各国ごとに多少異なったことが、結果的に売れ筋の違いにつながっているんじゃないでしょうか。むしろ、国家間というよりクラスターの違いが大きいと思いますよ。

――イギリスについてはどうですか?

イギリスは、TOKYOPOPの啓蒙活動によってマンガ市場を開拓したといえると思います。イギリスは、お店や書店の閉店時間が早いんですね。夜の6時とか7時にはもう閉まります。ですから、シャッターが閉まったあとに子供や若者を集めて「MANGA NIGHT」というものをやっています。
マンガ家やマンガ関係者を呼んできて、サイン会やお店の前でマンガを描いてもらったり、といったイベントを現地のチェーン書店と組んで開催するんです。そうするとけっこう人が集まるんですね。

――未開の地では、売る以前の啓蒙活動が大事だということですね。イギリス・ドイツを凌ぐマンガ大国であるフランスについてはまだ進出されていないようですが、今後どのような展開を考えていますか?

フランスは非常に大きなマーケットなので、現地でマンガの翻訳出版をしている出版社は既に20社もあるんですが、みんなどんぐりの背比べなんですね。その中で今から後発組として単独参入したとしても21社目になってしまって全然目立ちません。販売促進も難しいと思うので、現在いろいろと検討中の段階です。

――確かにフランスは、アメリカで言うホールセーラーや、日本でいう取次といった存在がないために、自社出版物は自社系列の流通で書店に送品されるんですよね。逆に言うと、自社の縄張りの書店以外には1冊もマンガが並ばないことがあるそうですね。

非常に流通が難しいところですよね。ですからフランスでは、有力なパートナー企業と提携していくということが重要。まだ見えていない部分が多いので、パートナー企業の選定も含めて慎重に考える必要があると思います。
ただ、最も重要な点は、人種や国にこだわらず出版社がどんな作品を提供していくのかということではないでしょうか。


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