末次先生からの受賞コメント「マンガ大賞2009」授賞式レポート
掲載日:2009.03.25
「マンガ大賞2009」授賞式レポート
3月24日、東京・有楽町でマンガ大賞実行委員会の主催となる「マンガ大賞2009」表彰式が行われました。
「マンガ大賞」は、書店のマンガ担当者を中心に各界のマンガ好きが集まり、「このマンガはこんなに面白いよ!」と勧めたくなるマンガを選考するというコンセプトではじまったものです。
ユニークなのは、公正を期すために運営のすべてをノーギャラ、ボランティアという形で行い(選考作品も全て自費で購入するのだそうです)、さらにマンガが売れることに利害関係がある、マンガ家、編集者、ブックデザイナーなどは選考委員に入れないこととなっているという点。
マンガ読みが、純粋にみんなに読んで欲しいと思う作品を選ぶという趣旨が徹底されています。
選考対象となる作品は、2008年1月1日から12月31日に単行本が出版された作品で、さらに最大巻数が8巻までの作品という制限が付いています。
これは、8巻は週刊連載作品で2年間分に相当するため、人に勧めたいマンガの面白さは発揮されているだろうという点、逆にこれ以上の長さの作品は、その面白さがすでに世間に知れ渡っているだろうという点、さらに気軽に手に取りやすい量という点による基準とのこと。
選考は、第1次選考として選考委員が推薦作品を最大5つ挙げ、第2次選考では第1次で投票数の多かった10作品をノミネート作品として選出。その後、選考委員が全てのノミネート作品を読み、上位3作品に、3~1点のポイントを付与。これを集計し大賞を決定するという方法を取っています。
会場前には最終ノミネートの10作品がずらり勢ぞろい。
ノミネートされた10作品はコレッ!
今回のノミネートされた10作品を、「マンガ大賞2009」公式サイトに掲載されたPOPでご紹介。このあたりは、さすが書店のマンガ担当者さんが中心となっているだけのことはありますね!
「宇宙兄弟」(小山宙哉)
「3月のライオン」(羽海野チカ)
「深夜食堂」(安倍夜郎)
「青春少年マガジン1978-1983」(小林まこと)
「聖☆おにいさん」(中村光)
「ちはやふる」(末次由紀)
「とめはねっ!鈴里高校書道部」(河合克敏)
「トリコ」(島袋光年)
「ママはテンパリスト」(東村アキコ)
「よんでますよ、アザゼルさん。」(久保保久)
「このマンガがすごい!2009オトコ編」(宝島社)で2位以下をダブルスコアとした「聖☆おにいさん」、「このマンガを読め!2009」(フリースタイル)で1位となった「ママはテンパリスト」など、2008年を代表する話題作がずらりと並んでいます。
プレゼンターは、「岳」の石塚真一先生!
授賞式のはじめに、プレゼンターとして、昨年「岳」で大賞に輝いた石塚真一先生が登場。
2日間徹夜状態で、さらについ一時間半前まで原稿を描いていたという石塚先生。 昨年の受賞の感想を聞かれ、「反響が大きくてびっくりした。多くの人が手に取ってくれるきっかけになってくれました」とコメント。
続いて、いよいよ大賞受賞作の発表。
今年の受賞作は・・・
「ちはやふる」(末次由紀)が選ばれました!
残念ながら末次先生は欠席であったため、替わりに直筆のイラスト原稿が披露され、受賞コメントが読み上げられました。
末次先生からの受賞コメント
【末次先生受賞コメント全文】
この度は、「ちはやふる」をまんが大賞2009の大賞に選んで下さって、ありがとうございます。
本日の授賞式への欠席を、まず深くお詫び申し上げます。
賞など無縁のこれまでだったので、未だにまんが大賞を受賞したことが信じられません。
講談社のBE LOVEでまんがの仕事を再開して約2年、まんがを描くかチョコレートを食べるか取材に行くかの毎日でした。
ボツをたくさんもらいつつも、まんがばっかり描ける毎日が楽しくて、それだけでもう充分で、今年の一月末のまんが大賞ノミネート10作品に入ったことを知った時は、「こんなに面白くて立派な漫画家さん達と同じところに名前が並んでいる」ということが感動的に嬉しくて、今度こそ溢れるぞというくらい充分でした。
しかし、その後に予想もしない大賞受賞の報を聞き、充分を通り越してボロボロ泣いてしまいました。
マンガを描いてきただけの2年です。
でもその「末次由紀がまんがを描く」ための場を下さった人がいて、「末次由紀のまんがをいいものにする」ために協力して下さった人がいて、「末次由紀にもう間違いをさせない」ために最大限努力して下さった人がいます。
そしてなにより、根気強くもう一度まんがを描くことを待っててくれた読者のみなさん。
「ちはやふる」はそういうたくさんの人の思いの上で育ちました。
私だけの作品じゃないという思いでこれまでも描いてきましたが、今回まんが大賞に選んで頂き、多くの書店員の皆さん、選考委員の皆さんに受け入れて頂いて、「ちはやふる」はますます私だけのものではなくなりました。
そう思わせてくれたたくさんのみなさん、本当にありがとうございました。
どれだけ言っても足りないのですが、本当にありがとうございました。
直接この場でみなさんにお礼が言えず、本当に申し訳ありません。
このまんが大賞が生まれるに当たって注ぎ込まれた書店員さん達の愛情を思うと、後からでもお一人お一人に握手をしに行きたい思いに駆られます。
「ちはやふる」はまだまだこれから続いていきます。
作中の千早たちが元気にかるたバカのまま突き進めるよう、より一層集中して描いていきます。
一人でも多くの方に手に取って頂けるように、スタッフ・編集部の方と精進していきますので、これからもどうかどうかよろしくお願い致します。
末次 由紀
コメントに「間違い」として触れられている、かつて起こしてしまった「トレース事件」について。
あえて触れずにいる記事も多いのですが、禊を済ませ、多くの方に支持される素晴らしい作品を生み出すに至った末次先生の真摯なコメントを是非お伝えしたいと考え、全文をそのまま掲載させていただきました。
なお、末次先生の代理で出席された、「BE LOVE」(講談社)の担当編集者である坪田さんを通じて、表彰式欠席の理由が「自分には過去に犯した間違いがあり、まだこうした場に出ていけるような人間ではない。こういった賞に対して、支えてくださった人たちに対して、一生懸命マンガを描いていくことでしかご恩返しが出来ないと考えている」というコメントがあったことを付記しておきます。
「プライズ」の授与
プレゼンターの石塚先生から、担当編集者の坪田さんへ「プライズ」の授与。
石塚先生からは、「ボクも去年賞をいただいて凄く励みになった。お互いがんばりましょう」というエールが送られました。
「トロフィー」ではなく「プライズ」なのだそうですが、実行委員のみなさんの心のこもったデザインになっていました。
末次先生に代わって「ちはやふる」担当編集者である坪田さんが質問に応えることに。
ここで、坪田さんが競技かるたの元選手で、大学2年生の時に全国2位になったという驚きのエピソードが披露されました。
講談社の入社面接でも「かるたマンガを読んでみたい」という話をしていたとのこと。
坪田さん無くして「ちはやふる」は無かったのですね!
ちなみに坪田さんの好きな登場人物は「肉まんくん」だそうです。
毎週のようにカルタ大会に見学に行き、高校生の大会や名人戦、クイーン戦などタイミングが合う限り取材に出かけていること、また様々なアングルからちはやたちの活躍を見せたいという思いがあり、会場にいくとヘンだと思われるほど色んな位置からカメラを撮っていることなど、様々なエピソードが披露されました。
(このエピソードは、末次先生がコミック4巻の折り返しで、「写真の撮り方がマンガ家らしくヘンテコだと言われ、改善したいけど、写真を撮っている自分の写真を撮ってもらわないとどうヘンテコかわからない」とコメントしています。)
末次先生自身については、「かるたをしている人たちに対して、すごく愛情や愛着をもって接してくれていることがうれしい。その熱意がそのまま作品につながっているのだと思う」と話していました。
また、「ちはやふる」をまだ読んでいない友達に勧めるための見どころは?という質問に対して、「ちはやが天性の聴力を武器に才能を開花させていくスポ根的な部分が入りやすいと思うが、作者が、百人一首が文化であり歌であることをすごく大事にしていて、その思いを鮮やかに(作品に)入れていこうと努力しているので、そういうところの両方を楽しんで欲しい」と答えていました。
末次先生が出席されなかったことは残念ですが、直筆のイラスト原稿でちはやが目を潤ませてお礼をしている姿が、末次先生の思いと重なっているように感じられました。
最終選考の得票数は以下のとおり。
102pt「ちはやふる」(末次由紀)
94pt 「宇宙兄弟」(小山宙哉)
65pt 「3月のライオン」(羽海野チカ)
47pt 「深夜食堂」(安倍夜郎)
46pt 「青春少年マガジン1978-1983」(小林まこと)
45pt 「聖☆おにいさん」(中村光)
43pt 「とめはねっ!鈴里高校書道部」(河合克敏)
36pt 「ママはテンパリスト」(東村アキコ)
25pt 「トリコ」(島袋光年)
15pt 「よんでますよ、アザゼルさん。」(久保保久)
いずれも優劣をつけ難く、本当に人にお勧めしたくなる傑作ぞろいです。
「マンガ大賞」自体、まだ2度目と歴史が浅いものの、最もファンの目線に近い賞と言っても過言では無いのでは。
「マンガ大賞2010」で、また新しい作品に出会えることを楽しみにしています!
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