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マンガ市場研究のお仕事-マンガ研究.編集.ノンフィクションライターの中野晴行

掲載日:2007.12.14

マンガ研究者・編集者 中野晴行

マンガ市場研究のお仕事

『三丁目の夕日2』『ゲゲゲの鬼太郎』の劇場版大ヒットや『働きマン』などのTVドラマ化も視聴率好調で、「マンガ原作やマンガキャラクターはやっぱり圧倒的に強い」と各メディアでマンガ原作が大人気の印象だった今年一年。
しかし、出版科学研究所が毎年発表している『出版指標年報』の最新版を読むと、従来のマンガ界を支えてきたコミック誌の売上が年々落ち込んできているのがわかります。今後、マンガ界のビジネスモデルはどう変わっていくのでしょうか。
そこで今回は、2004年に出版されるやいなや出版界に衝撃を与え、マンガ業界人必読のバイブルともいわれた『マンガ産業論』の著者である中野晴行さんにご登場いただき、今年のマンガ界でいったい何が起きたのか、これから何が起きそうなのかについてじっくりお話を伺いました。

中野 晴行  プロフィール
1954年生まれ。マンガ研究者、編集者、ノンフィクションライター。和歌山大学経済学部を卒業し、7年間の銀行勤務の後、大阪で編集プロダクションを設立('97年、東京に事務所移転)。小学生時代に手塚マンガに出会い、大学までマンガ家を志望。大学時代は「COM」「ガロ」等にも投稿していた。著書に『マンガ産業論』(筑摩書房)『手塚治虫と路地裏のマンガたち』(筑摩書房)、『そうだったのか手塚治虫』(祥伝社新書)など。2004年の2007年2月に上梓された『謎のマンガ家・酒井七馬伝』(筑摩書房)も、マンガ史上の空白を埋める新事実を掘り起こす労作として注目を集めている。社団法人日本漫画家協会会員。

著書紹介
世界的にも注目を集める日本のマンガ産業。マンガはなぜ急成長したのか? そして今起こりつつある危機とは? 貸本から週刊漫画誌、TVアニメへと社会の中で大きく伸張したマンガ産業の歴史を振り返り、今後を展望する。本書はマンガ産業の基本構造やマンガ市場の変化を考察した本格的な研究書として出版界で高く評価され、日本出版学会奨励賞、日本児童文学学会奨励賞を受賞。筑摩書房 2004年刊

コミック誌の未来には石ころが必要

――マンガ界の土台ともいえるコミック誌の低迷が浮き彫りになった1年でしたが、2007年を振り返って、中野さんからみたマンガ界のエポックメイキングな出来事を教えてください。

中野氏:今年の象徴的な出来事は、コミック誌の売上がコミック単行本の売上を史上初めて下回ったことでした。そんな暗い話題が多かった中で、11月に創刊された『ジャンプ SQ. (スクエア)』が好調なのは明るいニュースです。本気になって、きちんとした読者セグメントとしっかりしたプロモーション計画を立てればまだまだコミック誌はがんばれるということ。

――今年創刊されたコミック誌が軒並み苦戦する中で、好調だった創刊号・第2号の勢いは継続しそうでしょうか?

まだ創刊間もないので判断は難しいですが、かつての週刊ジャンプの人気作家で週刊誌連載が体力的に厳しいマンガ家を上手く取り込めましたよね。昔は月ジャンで登場した作品や作家がその後に週ジャンで連載化されるという良い連携があった。ところが近年の月刊ジャンプは週刊ジャンプの連載陣とうまく連携することができなくなっていました。これが廃刊要因のひとつかもしれませんね。
今回のジャンプ SQ.編集長は週刊ジャンプの編集長が兼任しているので連携が上手くいってるんじゃないでしょうか。

――ジャンプ黄金時代の流れをくむジャンプ SQ.の将来は明るいと?

今後、しっかりした新人マンガ家が出てくるかどうかですよね。ただ、赤丸・青丸という新人登竜門から突出した新人が出てこなくなっているような気がしますね。
以前の、高校を卒業したらすぐ出版社に原稿持ち込みをしてデビューするという流れは今や少数派です。現在の新人の多くは大学や専門学校でいろいろ学んでからデビューするので、マンガというものを学校や編集者が教えすぎてしまうという問題があるのかもしれません。一定以上の作画水準をもった人は出てきても、荒削りな魅力をもった新人が出づらい世の中になってきたんでしょうね。

――大学野球のように、学校で技術や一般教養をしっかり学んだたくさんのプロ予備軍の中から突如として天才が生まれる可能性がありそうですが。

いや、出てこないでしょう(笑)。玉石混合の中から玉が生まれるという点でいえば、石ころがたくさん存在しないと。今の教育システムでは、その荒削りで異質な石ころがふるい落とされてしまいますから。手塚先生のアシスタントで先生に似た作風・画風の弟子は大成していません。手塚先生に引っ張られた寺沢武一さんがいい例ですが、異質でも可能性を感じて引っ張り挙げられた人がマンガ家として活躍しています。

――しかし、韓国や中国でもどんどん増えているのに追随する形で、今後は国内でもマンガ学校が増えていく傾向ですよね。

韓国は国のコンテンツ振興施策と学校教育強化施策が連動したシステムで動いています。ところが日本の場合は、マンガ学校を出ても食べていく口である出版産業、とりわけコミック誌が冷え込んでいて受け皿が今後小さくなる可能性さえある。卒業してさぁどうする?という状態。アニメはさらに厳しい。職はあっても食えない。
専門的な教育をしっかり受けたけど給料は月8万円です、という卒業生がたくさん出てくるのでは困ります。

コミックにまつわる行政の変化

――学校教育強化だけではダメだということですね。受け皿となるマンガ産業強化という意味で今年は、外務省管轄で国際漫画賞が設立されました。各省庁がばらばらに動いてるなという印象もありますが公的支援の動きについてはどうお考えですか?

国が21世紀の中核産業の一つとしてマンガ産業をとらえているとすると、そこに各省庁の官僚や族議員の利権が発生します。4年ほど前に自民党議員が議員立法としてマンガ・アニメ・ゲームに関する助成制度を立法化しようという動きを見せましたが、今回の漫画賞もその動きの延長ではないでしょうか。
どこの省庁がその利権争いの主導権を握れるのかはわかりませんが、現時点では経産省が一歩リードしている感じがしますね。

――マンガ業界を俯瞰できる資料が他にないという意味で、各省庁の担当官僚は間違いなく『マンガ産業論』で勉強してると思います。中野さんのところにも官僚が来ているんじゃないですか?

私のところには来ませんよ。彼らはおいしい提案をたくさんできる人にしか行きませんから。私は厳密な実勢数字をすぐに出してしまうからあまりおいしくない(笑)。
むしろ、話題性のあるトレンドを作り出せるような文化人や高名な学者さんや勢いがあるように見えるベンチャー企業のやり手社長さんのところですよ。

そして、行政とコミックの関係でいうと今年は規制関係の話が多かった。 昨年暮れに、警察庁が設置した「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」という私的研究機関が、児童ポルノ規制にマンガを加えようという提言を出していました。
それから今年に入り、大阪府警がコンビニや書店で過激な性描写の少女マンガの立ち入り調査を実施したり、京都府が有害図書に集中指定するというような事態になった。今後の表現規制につながるきな臭い動きが進行しつつあるような気がしてなりませんね。

――コミックにまつわる法改正に関連するトピックとしては、長年いつ始まるかと噂されていたレンタルコミックがTSUTAYA・GEO中心に開始されたことも大きいですよね。

編集部注:2004年に、出版物の貸与について貸与権(著作者が主張できる権利)を認める法律が成立し、レンタル業者と著作者の間で使用料の規定が正式に決定。今年2月、著作者にレンタル売上のうちの一定利益を還元する仕組みが完全に整ったため、レンタルコミックビジネスが正式にスタートした。
※店内で閲覧するマンガ喫茶はレンタル扱いではなく、店外にマンガを持ち出す場合のみがレンタル扱いとなる


従来どんぶり勘定だったコミックの仕入販売だったのが、レンタルコミックなら、発売する前にある程度の販売見込みが立てられるという意味で大きいと思います。
事前に仕入数と回転率予測をしっかり考えるようなレンタル店がどんどん増えてくれば出版社も利益計画を立てやすくなるわけで、従来の書店ルートでは売りづらかったようなニッチなマンガも実験的にレンタル店に置くことができるかもしれません。そうすると作品内容で冒険ができますよね。

――レンタルDVDのようなPPTシステムが導入されてローリスクな仕入ができれば、事前の戦略的仕入発注や発売前のTV・ネットでの露出や話題の高まりに応じた追加発注ができそうですね。
従来の出版流通では難しかった精度の高い仕入販売が実現できるきっかけになりそうです。

一番大きな可能性として、コンビニマンガのように、レンタルチャネルに特化したオリジナルマンガが出版社から出てくれば面白い。ただし、出版社でそのような動きをしているところはまだないでしょう。過去にマンガ喫茶の影響で書店サイドにマンガが売れなくなるという懸念が強くなってますから、レンタル店でそんなことをやられると書店の売上が下がるという抵抗も強い。出版社の営業サイドはまだまだ懐疑的なんじゃないでしょうか。

――コミック誌が売れなくなってきて、新人マンガ家のデビューの場が少なくなってきていると聞きます。昔の貸本業界のように、新人の作品の発表の場としての可能性はいかがですか?

出版社的には、新人にデビューの場としてはレンタルコミックよりコミック誌の方がリスクが少なくて良いんじゃないでしょうか?いろいろな描き手の作品が読めるコミック誌に掲載したほうがリスクが分散しますから。
売れっ子のマンガ家の作品を読むために雑誌を買った読者が新人に出会うチャンスが生まれる可能性もある。まずは人気誌に連載をしてこんな新人がいるよということをローリスクで告知した後に、単行本をレンタルコミックで出すという新しい方法論は出てくるかもしれませんね。

コミック・ガンボはなぜ廃刊したのか

――新人のデビューの場としていえば、『コミック・ガンボ』創刊によりR25に象徴される雑誌のフリーペーパー化がコミック誌の世界でも始まったことが話題になりましたが、12月11日発行の第48号で廃刊になりましたね。
諸事情により大物マンガ家作品の割合が比較的少ないという意味で、新人登用の可能性があった『コミック・ガンボ』誌の廃刊要因についてはいかがでしょう?

ビジネスモデル的には、広告収入によって連載時は無料、単行本で実売収入を得るというモデルがマンガ誌としては新しい試みでした。しかし、首都圏の配布場所が40箇所あったのが14箇所に減ってしまいましたよね。この会社の社長さんは電通出身だそうですが、広告クライアントが魅力を感じる内容を作れるかどうかが鍵だったのではないでしょうか。

――日産というビッグクライアントがついたのにはびっくりしましたが、新人を登用しながらビッククライアントが出稿するようなビッグネームも掲載するというバランスが難しいですよね。

ええ。仮に広告収入が足りないとすると、部数が30万部前後のコミック誌は赤字が毎号200万~300万円出てるはずなのでこの赤字をすべて単行本収入でカバーできるかどうかが損益分岐点。
収益を広告で取るか単行本実売で取るかという点と、フリーペーパーや単行本を取次会社がどれだけ流通させるかどうかという点がポイントでした。

――取次の大株主には、競合する大手コミック出版社がいるという問題でしょうか。
取次流通に乗せるにしても、配本費用ということでバックマージンが相当発生しそうなので単行本実売収益でというのはハードルが高そうですね。単行本は雑誌コードを取得できず、書籍扱いでの書店流通になってしまったようですし。

業界的にはかなり抵抗があったのでしょう。単行本もゲーム・アニメに強い書店にはラックが置かれると思いますが老舗の大手書店チェーンにはほとんど置かれていないですよね。

――大手書店やコンビニルートのスペース確保はお金がかかるうえに大手出版社の縄張りなので難しいですよね。

あとは広告宣伝の問題も大きい。リクルートのR25がフリーペーパーとして成功したのはひとえにプロモーション力。創刊時には相当な広告予算を投入して大々的に宣伝しましたし、電車の中吊広告や主要ターミナル駅の良い場所にもラックを設置できた。
そうした点ではコミック・ガンボの宣伝はかなり不足していました。

――プロモーションという点ではケータイ・ネットでの無料配信も行っていたようですが、収益のメインであるリアルチャネルにおいて、無料だから読むというライト層向けのフリーコミック誌モデルはどうあるべきだったのでしょうか

広い層を獲得するためには、書店店頭はもちろん電車の中吊、駅でのラック設置などによる大量露出は非常に重要です。創刊時に大量露出ができないと後が続かない。吉本興業が今年創刊したコミック誌もすぐに廃刊しました。まぁ、ここはいろんなことに手を出してすぐに撤退するのが伝統ですが(笑)。

2007年マンガ界でもっとも明るい話題

――明るい話題はなにか他にないでしょうか?

明るいニュースというと、フランスのアングレームで水木先生の『のんのんばあとオレ』が受賞したことでしょうね。

――これは世界的な大きな賞ですしヨーロッパでは話題になったと思いますが、国内ではあまり話題になってないですよね。

マスコミがあまり取り上げてないですね。新聞記事にもなってないんじゃないでしょうか。受賞したのが昔の作品だったという点と水木先生自体が現役の連載作家ではないという点が影響している気がします。

――日本のアーティストが世界的な芸術分野の賞を受けることが無い中では大きなニュースだと思うのですが。


今年、マスコミが取り上げたマンガ家に関する大きなニュースというと、世間を騒がせた楳図かずお事件(笑)です。

――新聞に写真が出て、一般的には最も大きな話題でした(笑)。価値判断の基準がドメスティックですね。それでは、マンガ業界の専門家として今年1年を総括していただけますか?

編集部注:東京・吉祥寺の高級住宅街に建設中の楳図かずお氏の自宅が、近隣の一部住民の物議を醸し、町の景観を壊すとして建設差し止めの仮処分申請に発展した事件。
問題となっている建設予定の自宅外壁は、赤白ストライプでカラーリングされ、屋根にはまことちゃんの目をイメージした丸窓を設置した円筒型の「まことちゃんの塔」も立つ予定とのこと。

今年、マンガ市場の全体売上が初めて5000億円を割り込みました(前年比4.2%減の4,810億円)。これは以前から主張していたことなのですが、コミック誌低迷の影響がついに好調だった単行本売上にも影響し始めた1年だったといえると思います。
単行本の発行点数そのものはここ10年で倍以上になっていますが売上は減っています。1点あたりの平均実売部数でいうと半分ぐらいになっている。
最も売れている『ワンピース』や『HUNTER HUNTER』が1巻あたり200万部というのは変わってないわけですから、一部の売筋コミック以外は年々売れなくなってきている。
いまや大手出版社のコミック単行本ですら、売れ筋以外は初版8,000部というのが出てきました。

――マンガでもそんなに少ないんですか。少子化の影響がもろに出ているということでしょうか?

少子化というよりむしろいまの子供がマンガを読まなくなっているということですよね。賢い子供しかマンガを読まない。

――いまやメインカルチャーになってしまったマンガが国策コンテンツになっていくとすると、絵本のブックスタートや文学における朝読運動のようにマンガを子供の頃から読むような公的な読書推進運動がはじまりそうなものですが。

しかし、マンガを読むという行為を奨励するのは難しいんですよ。そもそも子供が勝手に読むものだったから。学校教育として奨励したからといって読むものではない。日本の文芸がすたれたのは日本の国語教育の悪弊です。強制されたり模範解答を押し付けられたりすると読むのが嫌になってしまう。本を読む子供は小さいころから親の読み聞かせによって読んでいる子供ですよね。
読む習慣がないのに小学校に上がって始めて物語にふれたとたんに他人に指図されたり奨励されたりすると自動的に嫌いになってしまうでしょう。

――最後に来年のマンガ界の明るい展望を教えてください。

2004年から本格普及したケータイコミック配信がますます増えてくるでしょうね。
ケータイで売れるマンガが枯渇しない限りは伸びていくでしょう。
しかし、ケータイコミックをはじめた会社が売上の伸び以上に増えていますよね。デジタル化すべきマンガがいつかなくなってしまうのが怖いですね。
コンビニルートで売れるマンガがもうほとんど出尽くしてしまったようにデジタル化できるマンガが出尽くしてしまったところや利益が出なくなった出版社がすでに出てきています。ケータイコミック配信から撤退した出版社もすでにあるんです。
過去の作品のデジタル化だけでなく、オリジナルのデジタルマンガで利益が出るモデルが出てくれば将来は明るいですよね。それと、新人の投稿の場としてもデジタルは有効。
ヘタクソだったりくだらないものでもよいのでケータイやネットの利便性を生かしたデジタルならではの遊びや表現が出てくれば面白い。別にプロ作家を生み出すことばかり考えなくてもいいんですよ。
デジタルが持つ双方向の本質は、ユーザーが勝手に自由に遊べるということ。
映像がきれいだとか、映っている商品がすぐ買えるとか、結末が自分で選べるということではないのです。
昔のビッグリハウスやジャンプ放送局にはいろんな遊びがありましたよね。今のマンガ界や読者は真面目になりすぎているんじゃないでしょうか。
来年は、読者によるバラエティ豊かな投稿やくだらない遊びなど何か新しくて面白いことがデジタルでどんどん生まれてくることでマンガ界が明るくなることを期待したいですね。


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