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先生はデジタルで描いたりしますか?「私の上を通り過ぎていった男たち」

掲載日:2008.09.27

「私の上を通り過ぎていった男たち」の巻

みなさん安心してください!
所詮人間生まれてから死ぬまでずーーーーっと一人ぼっちですよ!!
...と若者っぽく厭世気分を煽ったところで今回も始めたいと思います。

...男三十七番茶も出花、いつかひと花咲かせてやろうともがきもがいてみたものの、流れ流れて旅烏、すがる娘を振り払い、罪人なのだ我慢せと、人様の詩をパクりつつ、我泣き濡れてゑひもせず、気付いてみれば咳をしてもひとり...
...いや扶養家族はいますけど...つまりおっさんの心の闇は思ったよりも暗く、深いわけで...ここで「わけで」つながりで『北の国から』の純のモノローグっぽくしようと思ったけど(純だけにね)見てないから出来ないわけで...ホントはちょっぴりすねてあなたを困らせてみたかっただけなの...行かないで!!

...と中年の不安定な情緒をご覧いただいたところでこの一見無意味な前振りが最終的に質問と有機的にリンクして見事な回答を示すであろうと未来の自分にハードルを置きつつ質問行きます!

【マツダさん】

羽生生純さんはじめまして!
僕は最近漫画を描き始めたばかりのひよっこです。
なかなか身近に漫画を描いている人がいないので、どうせならばプロの方に質問してみようと思い立ち、ここへやって参りました!
最近はデジタルで漫画を描く方もけっこういるようですが、僕には高いソフトや機材を買う余裕はありません。
基本、やっぱりアナログで描いた漫画が好きなのです!
先生はデジタルで描いたりしますか?
または、どんな道具を使って描いていますか?
いろいろ教えていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

まず安心してください。身近に漫画を描いている人がいる環境というのは異常事態で普通はみんな一人ぼっちですよ!
現実世界で顔をつき合わして見知った気持ちでいても決してわかりあえる訳ではありません。
マイコン時代でワールドワイドウェブが発達したこのご時世ですが、ネットだけでつながった人なんて本当に生きていようが死んでいようが答えの内容には大差ない、幽霊のつぶやきと同じですからご安心ください!

私がちゃんと漫画を描き始めた90年代初めはコンピュータを使って描く人はほとんどおらず、有名な作家さんが大金を設備投資に費やし環境を整えないと実用に耐えない感じだったと思います。

私が初めて漫画にコンピュータを使ったのは1995年にコミックビームで連載した『サブリーズ』という作品で、当時使用目的もはっきりせず漠然とした所有欲のみで購入した Macintosh Perfoma 5320 (だったかな)をせっかくだから使わねばと、バンドルされてた「クラリスワークス」というソフトのペイント機能を使って、コンピュータのモニタ画面を描きました。
ペンタブレットなど高嶺の花でしたからマウスでヘロヘロ入力しました。当時はデータ入稿などあり得ませんから、データを家の普通のプリンタでコピー用紙に印刷して原稿用紙に直接切り張りしてたのです(どんな按配か見てみたい人は『サブリーズ』(本体950円+税・エンターブレイン刊)を買ってみよう(あからさまな宣伝)!)

それからは自分的にパソコンで描かねばならない理由が無く、普通に紙とペンで描いていましたが、しばらくしてパソコンや入力デバイス(ペンタブレットやスキャナ)の高性能化や低価格化、ペイントソフトの発達により、特にカラー原稿をパソコンで描くことのメリットが多くなってきたように感じました。
カラーは作者の技術力が如実に表れるので、カラーが苦手だった自分にとっては下手さをカバーするために何とかせねばいかん課題であったわけです。
そこで諸々安く済みそうな Windows 環境に乗り換えたのですが(とっくに Mac はオシャカでしたが)、良い方法がわからずボヤーンとしていたところ、ひょんなことから寺田克也さんのお宅にお邪魔する機会があり、目の前で仕事の超絶イラストが描かれ、休憩に趣味の超絶イラストがスラスラ出来上がるその様に「自分も出来るかも」と大きな勘違いをし、早速真似して「ペインター6」というソフトでカラーイラスト描きだしたのが2000年初め頃だったと思います。

デジタルで漫画を描く一般的(というか聞いた限りで一番多かった)なのは原稿用紙に主線をペン入れし、スキャナでパソコンに取り込んだデータにトーン処理をする、というもので、そのままデータで入稿する人もいれば、モノクロレーザープリンタで原稿用紙に出力し、その紙原稿をアナログ入稿する人もいる、という感じでした。

で私も「デジタル入稿したらなんかカッチョイイかも」とか思いつつやり方を模索していたところ2005年に新連載を始めることになり、どうせやるなら一切紙を使わぬオールデジタル入稿にしようという単なる無根拠な思い付きでネームや下書きからパソコンで描き編集者とメール添付でやりとりし、完成原稿もオールデータで入稿、というのをやったのが『アワヤケ』という作品です(もちろん含宣伝)。
その頃には漫画を描くためのソフトも売っていて、それを使っている作家さんも増えてきて(ビームで知ってる限りだとタイム涼介さんや鈴木マサカズさんがやり始めたくらいの感じでした)、なにしろ「ペインター」をやっとこさ使えるっぽくなってきたところだったので乗り換えるのがおっかなくて、無理矢理「ペインター」のペンツールでタブレット入力しました。

それ以降カラーイラストや表紙を含む(もちろんこれのイラストも)全部の原稿はデジタル入稿です(新潮社のWEBコミック「コムコム」でやってる『陋巷に在り-顔回伝奇-』も(しつこく宣伝))。

ざっとこんなところですがいかがですか?
まったく参考にならなかったでしょう!
なぜかというとこれは「羽生生が漫画を描くために使った道具」の説明に過ぎないからです。

私の絵はイラストを見ていただければお分かりの通りゴリゴリした線で流麗な今風のコンピュータにマッチした絵とは全く合いません。
ペンで描く時もGペンや丸ペンを思いっきり力入れて股裂き状態でどす黒く描き込むというやり方が好みです。

では何故デジタルで描くのか?

私の場合のメリットは...

■ 何回もやり直し出来る
■ コピー&ペーストが容易
■ ネームを何枚も時間かけてFAXしなくて済む
■ 直線を引くのが簡単な為、枠線の描画が効率化できる
■ 画材を物理的に管理する手間を省き作画時間を短縮できる
■ 多彩な表現が可能(カラー原稿の実力以上な表現力アップ)
■ データをバックアップすることが出来るため原稿の紛失が減る
■ 原稿の受け渡しをネットで出来るため時間を短縮できる
■ ペーパーレス化
■ 全体的になんかカッチョイイ

...こんなところでしょうか。

しかしもちろんデメリットもありまして...

■ペンとインクと紙さえあれば描けるアナログと違い、パソコンやモニター、ソフト、ネット環境等の高額な初期投資が必要
(紙ならろうそくの光でも描けますが、デジタルの場合電気があるところでないと全く仕事が出来ません。この原稿を書いてる時もゲリラ雷雨で電源が落ちました)

■パソコンや入力デバイスのメンテナンスやソフトの調整が必要で、決定的なフォーマットが無いため試行錯誤せねばならない
(『アワヤケ』やってる時もパソコンがイカレて線がギザギザになってしまったのに気付かず入稿してしまい真っ青になったが後の祭り、ということがありました。
いまだに描き味を安定させることが出来ず、紙にペンでうまく描けない時よりも何倍ものストレスを感じます。
さらにいうと出版社ごと、印刷所ごとで決定的なデータ形式が確定しておらず、そのつどやり方を変えなければなりません(それでもここ2,3年でだいぶまとまってきたような気がしますが))

■アナログでは有り得ない原稿執筆途中でデータが吹き飛んで一からやり直し
(渡したデータが開けなくて丸々1ページ描き直した事もありました)

■データ入稿の場合アナログ入稿より編集側の作業が増えるため締め切りが早まる
(いくら作業効率が上がっても結局チャラです)

...こんな感じでしょうか。

で、どっちが良いかといえば...
どっちもどっち!

というか、そもそもアナログとデジタルというのは二項対立ではなく、漫画を描く上での道具の選択肢のひとつでしかないのです。

その人が「どんな絵を描きたいか」によってアナログが向いている場合もあればデジタルが便利の場合もある、その人の中でも作品内容によって使い方や使いどころが変わってくる、ということなのです。
私の場合は丁寧な背景も必要無くフリーハンドで描くしトーンもきれいな絵の作家さんに比べて少なく、メリットデメリットの差異は「なんとなくカッチョイイ」くらいしかありません。
でもなんでデジタルでやってるかというと「自分でやりたいと思ったから」です。

あと何年かしてデジタル作画がほとんどになれば、銀塩写真のように「やっぱアナログじゃないと思った味が出ない」とかいって紙に描くのがカッチョ良くなるかも知れませんし、要は自分の判断次第、結局一人ぼっちって事ですよ!!

...と見事自設置ハードルに躓いたところで今回はもうほっといて!イヤ捨てないで!!


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羽生生 純(ハニュニュウ ジュン)
漫画家 1970年生まれ 1992年デビュー

代表作
『アワヤケ』 『青 -オールー-』 『恋の門』
『1ページでわかるゲーム業界』 『ワガランナァー』
『サブリーズ』 『強者大劇場』


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