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背景資料のための取材旅行ができません。「冷静と情熱と漫画と背景のあいだで」

掲載日:2011.01.24

「冷静と情熱と漫画と背景のあいだで」の巻

去る1月15日大盛況と大狂騒のうちに幕を閉じた「さるハゲロックフェスティバル2011」にチョイ役でひっそり出演したり「月刊スピリッツ」でひっそり連載している『ピペドン』の最終回原稿をひっそり描いてひっそり終わったりして今頃ようやく1月が始まった感のある羽生生ですよね?

いやしかし。怒るでしかし!いや怒りませんが何なんでしょうねこのモヤモヤした気持ち。なんか心のスキマに風が吹き抜けるような...
あ、服が破れて穴が開いてただけでした!

【熊猫】

はじめまして。
漫画家の方は漫画を描かれる際、舞台となる土地の風景、町並み、建物などを実際現地に行って写真を撮ってくる、といった話を良く聞きます。
私も漫画を描いているのですが旅行に行くほどお金はありませんのでいつもgoogle画像検索に頼ってしまいます。
羽生生先生はそういった資料などをどうやって集めているのでしょうか。
やはり自分で直接必要な土地に行ったり、日ごろから資料を集めたりしているのでしょうか。
よろしければそこらへんのことを教えてください。

背景、おふくろ様。なんつってお茶を濁したくなるくらい背景を描くのは苦手な僕です。今度越してきた僕です。
話によるとかつては「こんな背景が必要!」という漫画家の要望を聞いた編集者が実際に写真を撮りに行ったりしていたそうですが(もしかしたら現在もそういう例があるのかもしれませんが)、そういうのはきっと売れっ子作家さんにしか適応されないシステムでしょうし私には全く縁のない世界です。

にしても全ページ真っ白という訳にもいかないので何とか背景をごまかしながら描くわけですが、最近の漫画は本当に困る!怒るでしかし!いややっぱ怒りませんよ。

最近売れてる漫画はほぼ読まない私ですがさすがに送られてくる見本誌をチラ見したり本屋さんで平積みされてる単行本をチラ見したりいかにも「私をお見!」とばかりに着飾ってきわどい丈のスカートをはいてる女性の思惑に乗っっかっちゃうのは悔しいので知らぬフリをしてすれ違おうとするんだけどやっぱりどうしても気になってイマジナリーラインを越える瞬間にチラ見したりしていると、背景の緻密さが半端じゃないことになっていて恐ろしくなってしまいます。
例えば私が見たことある範囲でも花沢健吾さんとか浅野いにおさんなんか親の敵かつうくらいの描き込みで恐ろしくなっちゃいます。

あ、で何が怒るでしかしなのかというと、クオリティーがどんどんあがっちゃって背景が下手な私のような漫画家が恥ずかしい思いをするということですよ!

背景は「現実にある背景」と「想像上の背景」の2種類に分けることができます。

「現実にある背景」というのは言わずもがなで本当に建ってる国会議事堂や東京タワーや都庁みたいなランドマークや風景を漫画世界でもそのままのものとして使うという場合です。

「想像上の背景」というのは、実は漫画の背景はほとんどこれの場合が多いと思うのですが、現実に無い建物や場所を「それっぽく」描く場合です。

でも実はそれぞれの中にも「現実にある背景」と「想像上の背景」があって、

現実にある背景 {  現実にある「現実にある背景」
現実にある「想像上の背景」
     
想像上の背景 {  想像上の「想像上の背景」
想像上の「現実にある背景」

どういうことかというと、漫画内の現実世界で本当の現実にある東京タワーを描く場合は本当の東京タワーを描かねばなりませんが、漫画内現実で「東京タワーは全長100mでこけし型のツインタワーだ!」という設定の場合は現実の東京タワーとはまったく違う絵になります。

一方、漫画内現実で「主人公の家」を描く場合、想像上の背景であれば全長100mでこけし型のツインタワー」でも全く問題ありませんが、もし「東京タワーと全く同じ形の家」という設定だった場合はきっちり現実の東京タワーを描かないことには意味がありません。

...なんか同じこと言ってるような気もしますが、要するに何が言いたいのかというと

「漫画内の現実に合っているかどうか」

が重要だということなのです。

私の場合ですが、基本的に背景が苦手で、「現実にある背景」はなるべく描きたくなかったので漫画内に現実の背景を出さないように、「想像上の「想像上の背景」」を資料も見ずに適当に描いていましたが、『青 ― オールー ―』という作品で沖縄を舞台にしなければならなくなりました。しかし取材で沖縄に行く金も暇も無かったのであわてて本やネットで沖縄っぽい資料を漁りましたが、現実に沖縄にある場所を描くには明らかに資料不足で不安なので「想像上の「現実にある背景」」をでっち上げながら描きました。私はそれまで沖縄どころか京都より南に行ったこともなく、初めて沖縄に行ったのが連載終わった数年後という有様なのです。
また編集部によっては専門のカメラマンが撮影した資料写真のライブラリがあって、パスワードを教えてもらいネットで見ることができるというシステムを構築していたところもありましたがほとんど使いませんでした。

ですがデジタル原稿に切り替えて「コミックスタジオ」等のソフトを使うようになると写真や画像データを利用する事が容易になり、『ピペドン』の中では取材に行って撮影した室内の写真を加工して「想像上の「想像上の背景」」として使ったり、東京タワーを描かねばならなかった時は「プレイコミック」でやってる『夜はじゅんじゅん』という取材漫画でたまたま撮ってあった東京タワーの写真を加工して「現実にある「現実にある背景」」として使っています。

このように背景を描くのが苦手な私のような漫画家でも、かつては「東京タワー描くのめんどくせーから出すのやめよ」とか思ってたのがデジタルマイコン直火炊きパワーのおかげで現実の背景として東京タワーを描くことができるようになったりするというかなり敷居の低い世界になったわけです。

ここで注意せねばならんのが、いくら画像を資料にするのが容易になったからといってネットの画像をそのまま引っ張ってきて張り付けるのは良くないですよ!
私もここら辺の案配はよくわからんのですが、明らかにまるまる写したりしたらアウトでしょうが「現実にある「現実にある背景」」としてではなく「想像上の「現実にある背景」」として模写するとかであれば大丈夫な気がします(もちろん確実ではないのでそれぞれ自己判断で)。絵とかの場合はもっと厳しいはずなので気をつけましょう。

ですが、そういう「何でもできる」世界になるということはその中でもっとすごいことをしないと目立てないわけで、だからこそそういう中で背景のクオリティーをガンガン上げてる花沢さんや浅野さんはすごいわけですが、それを才能のない私なんかが真似しようとしても恥をかくだけなわけで、だからこそ怒るでしかしなわけですよ!

でもご安心ください。みんながみんなすごい人のまねをしなければならないのなら最終的には自分で撮影してきた写真を全コマに張り付ければいいのかという話になってしまいますが、もしそれをしたとしても漫画自体がおもしろくなる保証は全くありません。

やっぱりポイントは「その漫画に合ってるかどうか」なのです。

大ゴマを多用して現実感をしっかり前に出さねばならない内容だったらガッツリ資料を調べたり取材したりせねばならないでしょうし、ギャグ漫画で新宿の街を出すなら別にビル一個一個描き込まなくても黒ベタでシルエットを描いて「新宿」てネームをのせとけば誰も文句言いません(昔なんかで魔夜峰央さんの話として出てた記憶が)。もちろんそれを逆手にとって上野顕太郎さんのようにわざと見開きでビルをみっちり描き込むようなネタをやることもできます。

要は「漫画内世界」で整合性が取れていれば(もしくは取れていない状態を描く)、googleで検索した背景資料だろうが(そのまま使用はダメよ)自分でガッツリ取材して写真を撮ってこようがなんでも良いということです。最終的には作者が「こうしたかったからこうしました」といって自分の名前で読み手に差し出すのが漫画なわけですから。

というわけで私はこれから世界最高峰のリミックスの大家である水木しげる先生の漫画を読んで背景をもっとうまく描く勉強します......

えーただいま入った速報によりますと、おきゃんで内弁慶な森ガールにも滅法評判な大田出版「エロティクス・エフ」の中で唯一誰にも届かないアッパーを連打し続けながらひっそり連載中の羽生生純作『無法使いアッポちゃん』の第1巻が来る2月20日に発売予定であることが判明しました!

...以上、質問の答えになってないという意見を黙殺しつつ自己宣伝コーナーを終わります。


羽生生 純(ハニュニュウ ジュン)
漫画家 1970年生まれ 1992年デビュー

代表作
『アワヤケ』 『青 -オールー-』 『恋の門』
『1ページでわかるゲーム業界』 『ワガランナァー』
『サブリーズ』 『強者大劇場』


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