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絶版マンガを復刻するお仕事「復刊ドットコム」 岩本利明プロデューサー

掲載日:2007.07.30

WEBサイト「復刊ドットコム」 岩本利明プロデューサー

第2回 絶版マンガを復刻するお仕事

「マンガを復刊する」というおしごとをするようになったきっかけ

――「マンガを復刊する」というユニークなおしごとをするようになったきっかけを教えてください。

94年に日本出版販売(通称「日販」)という書籍取次会社に入社して、物流センター勤務を経て書籍の仕入窓口業務を計5年間ぐらいやっていました。そのなかでも専門書ジャンルの書籍を担当していて、日販時代はマンガとはあまり縁がありませんでしたね。
あるとき、新会社の設立の話があるということで上のひとから呼び出され、「ブッキングという会社を作るから、おまえ、ちょっと行け」と(笑)。
私を含めて立ち上げメンバー5人が集められ、1999年に国内初のオンデマンド印刷(1冊単位の注文に対して本を印刷)サービスを行う新会社ということでブッキングが設立されました。それから読者ニーズに応じる形で、絶版マンガなどの復刊サービスも手がけるようになったんです。

――設立した当初は大変でしたか?

最初、出版社に新サービスの営業に行って「オンデマンド印刷が1冊からでもできるんですよ」なんて言っても、ビジネスとして考えると難しいという答えのところが多かったんですよね。100部刷っても数万円という利益ですから。国内初のサービスだったため比較対象がなくて手間がかかる割りに見返りを保証できないですし、サービス当初は出版社への営業が困難な状況でしたね。
ところが、一般のユーザーからの反応が予想外に大きくてメールやら電話やらで「ぜひ復刊してほしいマンガがある」とか「1冊でいいからこの本作ってくれ」という問い合わせが月に1,000件以上来ました。
国内初のオンデマンド本のサービスということもあり、テレビとか新聞・雑誌でもすごく取り上げていただきましたね。最初、対出版社のBtoBビジネスを想定していたので、予想外に読者の反響が大きくて驚きました。

――予想していた出版社ではなく、エンドユーザーからの問い合わせに対応するのも大変だったんじゃないですか?

最初はサイトがなかったため、ユーザーからの問い合わせ内容を時間をかけてひとつひとつエクセル等でまとめて、出版社に連絡していたんです。ところが、読者からの問い合わせ内容を見ていると、大勢のひとが同じ本を求めるニーズがかなりあるんですよね。このニーズをインターネット上でまとめられればいいんじゃないかと。それで2002年に、古書の検索サービスをやっていた企業とのジョイントベンチャーの形で「復刊.ドットコム」を立ち上げました。
これをきっかけに、もともとがオンデマンド印刷の会社だったんですけど、読者のニーズがあるものを復刊していくというスタンスの会社になっていったんです。復刊リクエストがあるものだけを出版するという出版社ですね。

――累計で8,000点ぐらいのマンガ復刊リクエストがあったそうですが、これだけのマンガの復刊ニーズを設立当初から想像していましたか?

まったく想像してなかったですね。人文書などの専門的な本とか高額の作家全集とか教科書的なものを想定していたので。はじめたところ、マンガのリクエストが一番来てしまって。
いまも全体の3割ぐらいがマンガのリクエストです。

――想定していたら、書籍仕入担当ではなくコミック仕入担当がブッキングに呼ばれていたかもしれませんね。

想像していたら、マンガに強いひとを呼んでいたり、サイトの作りもマンガ寄りにしていたんじゃないかと。

――マンガ読者のお問い合わせはマニアックで大変だと思いますが

そうですね。「なんという作品が○年○月に○○で連載されていた」とか、こちらはぜんぜんわからないですから(笑)。作品についてはやっぱり読者が一番詳しいので。
ただ、当時の資料を読者の方がお持ちだったり、マンガ家さんがいまどこでなにをしているなどの細かい情報を提供してくれるんで(復刊交渉上)、非常に助かってます。
でも復刊してみたら、「復刊した箇所が求めていた部分と違う」とか「この話も入れてほしかった」等のお叱りを受けたということもありましたね。マンガ読者個別に対してのニーズに全て応えるというのは非常に難しいですよね。ニーズがとても細分化されているというのもマンガ読者の特徴です。

【リクエストにより復刊されたコミック】

(画像 左)ニーズの高い小山田いく作品
(画像 右)こんな隠れニーズも

ユーザーの年齢層は団塊Jr世代が中心

――掲示板が炎上したりなんてこともありましたか?

それが、意外とないんですよね。ただし当初は、過去にコミック誌に連載されていたけれど単行本未収録のものを「復刊」と呼ぶのか呼ばないのかについて、マンガ読者間で賛否両論が巻き起こり、意見が割れたりしたこともありました。結局、ニーズのあるものに対してはリクエストを受け付けるというスタンスでまとまりましたけど。

――マンガの復刊リクエストで特徴的なことはありますか?

マンガは、書籍などの他ジャンルに比べると、明らかに作品単位でのリクエストが多いですね。復刊して読みたいマンガがすごく明確です。
あとは、少女マンガの復刊リクエストも多いですね。リクエスト上位の作品の1/3が少女マンガです。岡田あーみんさんの作品がいまダントツで票が集まってますし、萩尾望都さんなど「花の24年組」といわれる少女マンガ家さんの作品はかなりリクエストがありますよ。あとは藤子不二雄さん手塚治虫さんの作品とか。


復刊されて大人気の藤子不二雄作品
マンガ部門 07年6月期売上トップ5
1位 おきらく忍伝ハンゾー
2位 小山田いく選集 ぶるうピーター
3位 悪魔くん 貸本版
4位 GOGO!ぷりん帝国 新装版 3
5位 銀の鬼-目覚め-

――ユーザーの年齢層はどのぐらいですか?

団塊Jr世代前後を中心に30代~40代が多いですね。次が20代。本に関する他サイトに比べて年齢層が若干高めと思います。児童書好きの40代女性の方がけっこう多いですね。

――じぶんの好きなマンガを復刊をしてもらうにはどうしたらいいですか?

当時の資料とか現在のマンガ家さんの状況とか細かい情報を提供いただくと、復刊交渉がしやすくなるので復刊対象として優先順位が高くなりますね。刊行当時の印刷会社がどこで、イラストレイターや編集者はどういったひとたちが関わってきたかなんていう詳細な情報は当時のマンガが1冊でもあればだいぶ把握しやすくなります。

*編集部注:復刊の決定経緯は復刊ドットコムブログ上の「復刊ドットコム豆知識」に掲載されている。

――復刊までに一番、時間がかかったマンガはなんですか?

2002年に復刊した『藤子不二雄ランド(第1期全301巻)』ですね。復刊.ドットコムが開設されてからずっと要望が高くて、結果1,405票ものリクエストがありましたが、読者から情報を教えてもらったり出版社の担当の方とのやりとりを続けるなど丸2年かかりましたね。

――現在もニーズが高い作品のうち、交渉期間が『藤子不二雄ランド』を超えそうな作品はありますか?

『藤子不二雄 ランド』は藤子不二雄さんの著作ですが、藤子不二雄さんの他のリクエストも多いので、時間がかかると思います。

――アニメ関連の書籍で人気ある作品はどういったものですか?

押井守さんの『パトレイバー』とかガンダム関連とかですね。

面白いなぁと思ったマンガもけっこうあります。

――岩本さんが個人的に好きなマンガを教えてください。

70年代後半~80年代のコロコロとかジャンプ、マガジンといった、みんなが読んでたような作品がやっぱり好きですね。『北斗の拳』とか『キン肉マン』『キャプテン翼』とか。正統派ですかね(笑)。あとは『AKIRA』とかも好きです。当時熱かったサイバーパンクというかジャパニメーションというかその辺のSF作品をよく読みましたね。
復刊するということではじめて読んでみて面白いなぁと思ったマンガもけっこうあります。

――サクラで、じぶんで復刊リクエストすればいいんじゃないんですか?

いや、うちは読者からのリクエストがあるものしか復刊しませんから。自分ではリクエストしないようにしてます(笑)。

――今後のブッキング社さんの展開を聞かせてください。

マンガを含めた出版界全体のマーケティングサービスをしていきたいですね。これだけの復刊リクエストが集まるということは、実は(出版ニーズについての)アンケートやモニタリングのマーケティングをしているようなものなんですね。まずユーザーありきで情報が集まってくるという意味で。
出版社の方でも復刊リクエスト=一種のマーケティング、だという認識になってきましたし。
今後は、モニター会員制度などの会員情報の整備に力をいれて、より深い出版マーケティングができるようサービスを充実していきたいですね。

編集後記

設立からいままでの5年間、サイト責任者として一貫して当サービスを手がけ、現在のブッキング社唯一の創立メンバーという「歩く復刊ドットコム」的存在の岩本さん。
復刊交渉はタフで地道な交渉業務が発生しそうですが、ハードな復刊交渉の歴史を感じさせない涼しげな笑顔が印象的でした。きっと今後も、「ミスター復刊」こと岩本さんが読者の好きなマンガをその涼しげな笑顔で復刊してくれそうです。

「絶版、品切れ」のため手に入らなかったマンガなどの出版物を、ユーザー投票により復刊するというユニークな復刊出版を手がけるWEBサイト「復刊ドットコム」の責任者をされているブッキングの岩本利明プロデューサーにお話を伺いました。

岩本 利明
日本出版販売(株)入社後、返品物流部門、書籍仕入部門に配属。
1999年(株)ブッキング設立に参加、現在はブッキングの営業部長兼「復刊ドットコム」責任者。主な業務は、復刊ドットコムサイト運営、自社出版の営業活動。
「復刊ドットコム」https://www.fukkan.com/fk/index.html


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