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マンガを教えるというお仕事-竹宮惠子-京都精華大学マンガ学部教授

掲載日:2007.08.27

京都精華大学マンガ学部教授 竹宮惠子

第5回 マンガを教えるというお仕事

代表作『地球へ...』が2007年4月からTVアニメとして放映されている、漫画家竹宮惠子さん。少女マンガの第一人者である竹宮さんは、2006年に日本で初めて設立されたマンガ専門学部(京都精華大学マンガ学部)のマンガ学科教授に就任し、漫画家として日本で初めて大学の専任教員となったマンガ教育の第一人者でもあります。
大学では、ストーリーマンガを描くうえで必要な脚本概論を中心にその深い経験と知識を漫画家の卵たちに直伝。漫画家に必要なマンガ表現技術を指導しているそうです。
マンガのお仕事連載第5回は、マンガ教育の第一人者、竹宮惠子先生にマンガ教育の現在と理想の先生像についてお話を伺いました。

竹宮惠子
漫画家/京都精華大学マンガ学部教授。
徳島大学在学中に、小学館『週刊少女コミック』に連載開始。
その後中退、上京して本格的に作家活動に入る。
代表作に『風と木の詩』『地球へ...』『変奏曲』『『イズァローン伝説』などがある。
78年日本SF大会星雲賞受賞。
80年、第25回小学館漫画賞受賞。
同年『地球へ...』が劇場版アニメ化される。
01年AVON功績賞受賞。
近著に『竹宮惠子のマンガ教室』、『時を往く馬』。
07年春より『地球へ...』がTVアニメ化。

起承転結というものが生まれた経緯から教えています。

――京都精華大学マンガ学部の牧野学部長本人から先生のオファーがあったとお聞きしたのですが、
いまの10代後半~20代前半の若い人たちにどのようにマンガというものを教えているのかお聞かせください。

わたしは当初、マンガというものは他人に教えられるものなのだろうか?という懐疑的な気持ちがあったんですね。ただ、私自身が漫画家として紆余曲折して生きていく中で重要だったのは、実は技術的なものだったなと思っていたので、経験を分析して教えることはなんとなくできるんじゃないかなと漠然と思っていました。
その後、実際教えてみて感じた一番大事なことは、学生たちのいまの状況を知ること。
どのくらいマンガを知っていてどのくらいマンガの技術を知っていて実際に使うことができるのか。学生の現状を知らないと教えることができないということがわかりましたね。
学生が知ってる脚本概論についての技術的知識は0です。脚本というのはそもそも戯曲づくりのうえで起承転結をはっきりさせるために作られてきて、歌舞伎などの戯作の中で発展してきたものだと教えていかないと、ぴんとこないものなんだなと。
そうした一般論を学生は知らないので、段々、一般的な教え方に近づいてきましたね。起承転結の技術論云々よりも、起承転結がどうして生まれるのかというところから教えることがまずは大事だということがわかりました。

――マンガ学部の学生さんとの座談会でも「シナリオ作り」がためになった、という意見が多かったですね。

そうですね。学生はすでに絵は描けるし自分の伝えたいことを表現することもできるけれど、それを完成された物語として作り上げることが難しいようですね。それを一から教えてほしいというのが学生の希望です。

――また、学生さんたちは、先生方から、映画や小説を含めた一流の作品や物語に触れるような指導をされることが多いと言っていました。

えぇ、作品を鑑賞すること自体はふだんからやっていると思うのですが、どこを観ればいいのか、どう読めばいいのかということが案外わからないらしいですね。
名作をどう観ればいいのかというポイントを自分自身がわかって初めて、次の段階に進めるものだと思います。

――マンガソーシャメディアで、『少女マンガ検定』というのを開講しているのですが、検定問題を作成するにあたって少女マンガに関する文献が少ないことがわかりました。文献が少ない現状で、マンガと少女マンガを分けて専門的に教えるという時期がきたら少女マンガというものについてはどのように教えるのでしょうか?

個人的には、特にマンガと少女マンガを分けて教えていくという考えはないんですね。
私自身が、既存の「少女マンガとはこういうものだ」という常識を覆す形でやってきましたし。あくまでも「マンガという言語」をどうやって使いこなすかという大きな基礎を教えたいと思っています。
その中で、特別な表現として、少女マンガを例にあげることはありますが。


■竹宮恵子のマンガ教室
手足の描き分け・年齢による身体のバランス...など具体的な指導から、思わず「なるほど!」とうなる指摘まで、少女マンガの第一人者が語るマンガ論。マンガを描く人にとってもマンガ読みにとっても、見逃せない1冊。
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漫画家の卵たちの心のケアが重要

――学生たちの状況把握のなかに、いまの若者をとりまく社会状況やライフスタイルの変遷も含まれてくるのでしょうか?

そうですね。学生たちがいま置かれている環境の問題もあったりしますから。
どうしてしばらく学校に出てこないのか、とか何で悩んでいるんだろうかとか。むしろ、そうした心のケアが一番重要だったりします。かなり広い守備範囲を要求される仕事なんですね(笑)。
頭を抱えてしまうのは、生徒とその親御さんのコミュニケーションの断絶の問題。
子供が何を考えてるのか何に悩んでいるのか知らない親御さんがけっこういます。

――それは意外ですね。いまは少子化などの影響で、大学全入時代なんてことが言われつつある状況ですよね。
そんな中、親が子供の人生や進路について、過保護といえるまでにフォローしがちな傾向が強まってきていると教育関係者から聞いたりするのですが......

子供のことをすごく気にはかけてるんだけど、肝心なところは知らないんです。
ただ、生徒のほうでも、親に干渉されたくないとか親に問題を知らせたくないという子もいますし。逆に親に包み込んでほしいと願う子もいますし、難しいんですよね・・・。

――親とのコミュニケーションはともかくとしても、漫画家が物語の創造者だとすると、漫画家自身が自らの置かれている環境やら問題をしっかり見据えたうえで進んでいくということが大切なのでしょうか?

漫画家=クリエイターだとすると、クリエイターになろうとしている学生は、まだ若いので自分自身だけが知っている「自分」という中身をいろいろと転がしているところなんですね。ですからそれがどう転がって、今後何になっていくのかについては学生、講師ともに最初はわかりません。そんな中で、上手い転がし方が見えてきてそれを指し示すことができた瞬間というのが一番嬉しい時ですね。

――竹宮先生は学生時代に徳島大学(現鳴門教育大学)で教育学部を専攻されていたそうですね。
その時学んだことが「マンガ教育」に役に立っていることがありますか?

わたしは、在学中にデビューが決まってしまったのでほとんど専門的な授業は受けていないんですね。教育実習なんかも全然やっていません。マンガの仕事が上手く転がり始めたということもありますが、私自身が引っ込み思案の性格で人と話すのが得意ではなかったせいもあって、教育実習をしないうちに辞めちゃおうって(笑)。
いま思うと私にとって大きかったのは、授業の一環で夏休みに小学校に行って合宿をしたことですね。自由研究の宿題をこどもに教えたり花火を一緒にやったりとか。
子供たちといっしょになってなにかを教えるということが凄く楽しかったんですよね。

――引っ込み思案の学生だった過去からすると、いま教授として大勢の生徒の前で教えるということは予想できなかったことではないですか?

はい。そんな生徒でしたから、小さいころから生徒にとっての理想の先生像というか、自分もこんな先生になりたいという理想はかなり強くありました。今もそうなりたいと思っていたりするわけですけど(笑)。

――ご自身で自分を先生として採点すると何点ぐらいですか?

いやぁ。客観的な採点はできませんし、良い先生というのは個々の生徒によってまちまちですからね。いろんな生徒にとって全体的な平均として良い先生になりたいと希望的な観測でやっています。

一番大切なことは、マンガ言語の表現技術者を育てるということ

――世界的なファッションブランドのエルメスの社史をマンガ化したことがマンガ学部初の漫画家出身の教授に指名されたきっかけだったそうですね。

えぇ。(京都精華大学マンガ学部学部長の)牧野先生がそれを評価して声をかけてくださいました。


――物語の創造者としての漫画家教育と、マンガ言語技術を活かしてすでにある物語をわかりやすく表現できるマンガ表現者教育を平行して行っていくということなんでしょうか?

毎年、相当数の学生が卒業していくわけですが、卒業後にマンガという畑で仕事ができる学生を育てる必要がありますし、卒業生が働ける新しい畑も同時に作っていく必要があるんですね。京都国際マンガミュージアムでも、そういうマネジメントをする部署がつくられています、地域のひとからこの物語なり説明なりをマンガにしてほしいという仕事を受けていく必要があるんじゃないかと。
マンガ言語を使いこなす技術はこうした仕事に一番的確に現れるものなんですね。
ですから、個人的には、他者のニーズに応えることができるマンガ表現者にとっての技術教育を一番大切かつ重要なものとして捉えています。

――これから漫画家を目指す卵たちへのメッセージをお願いします。

マンガを描いていくということは、自分とマンガの関係を明らかにすること。それがわかったひとからその先の世界に抜け出せるんだということですよね。
マンガを描き始めたときは楽しいのですが、マンガのプロを目指すとなると凄く難しいんです。やらなければならないこと、覚えなくてはいけないことがとても多くて。
その難しさを楽しめるようになると、自分とマンガとの関係性がわかってきます。
そこまでの境地に達したら、自分でこの道を歩いていけるということです。

――仮に、いまこの時代にご自身が18歳だったらどうしていましたか?

う~ん。今も昔も同じなんじゃないかと思います。18歳ぐらいのころは、自分が一体何をすればこの世界で認めてもらえるのかということをずっと探し求めていました。
先生をやってみてよくわかったことは、今の若い人も同じなんだということ。
そういう意味で、いつの時代でも誰であっても悩みは同じなので、自分でも教えることができるんじゃないかと思ったんですね。
他の先生方ともよく言っています。いま騒いでるあの生徒はそろそろ創作者としての壁にぶちあたるんじゃないかと。創作をしてきた者には過去の自分もぶち当たってきたことがよく見えるんです。生徒には創作者としての壁にどんどんぶちあたってほしいですね。

編集後記

お会いする前は、日本のマンガ史を変革した少女マンガ界のジャンヌダルクのような存在の方かと思っていたのですが、ご本人にお話を伺ってみると、柔らかな物腰と生徒に対する温かな眼差しを感じました。
大学の教育学部の学生時代は、引っ込み思案でひとと話すことが苦手だったというコンプレックスが、ご自身に将来はこんな先生になりたいという理想を強く抱かせたそうです。
マンガ学部の学生が自主制作で作ったマンガ誌に、似顔絵とともに「永遠のフロイライン」というキャッチフレーズをつけられた竹宮さん。
鎌倉のご自宅を訪問してみると、そこはまさに「フロイライン」(ドイツ語で"貴族のお嬢さん"という意)の邸宅。漫画家の卵たちも、自分とマンガとの関係性をとことん見つめ続ければ、いつの日か先生のように鎌倉のフロイラインになれるかもしれません。


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